槍を使えよ
3人と話している内に頭の疲れも取れてきた。
疲れが取れたなら走りながらの地図製作を再開しよう。
3人の位置が分かっている今の内に急ごう。
ーーー
1階層の通路の地図制作が終わった。あとは残り1割の隠し部屋だけだ。
隠し部屋はどうする? 勝手に行ってしまうのは違う気がする。
皆はまだ隠し部屋を見た事がないらしい。
ダンジョンの会で管理していくダンジョンなら、俺が折角の楽しみを終わらせるのは良くない。
春なら絶対に行きたいって言うだろう。隠し部屋の中にあるかもしれないアイテムも独占する訳にはいかないからな。
一旦、ダンジョンを出よう。
ーーー
ダンジョン前のブルーシートには、美月達の制服と鞄があった。
今もまだダンジョンに入っているんだろう。
俺はさっき3人にも指摘と言うか叫ばれたこの血濡れの体を洗うことにしよう。
マジックポーチに水道水だけは大量に入っているので、水の量を気にせず使う事が出来る。
水をそのまま浴びる様に使い、体の血を落としていく。
体に付いているのが血だけならまだ良いが、肉片や毛、油が付いているのが気持ち悪い。
まあ、直接速度で轢き潰しているんだから、血以外に色々付いているのは当たり前だ。
槍を使っていくと昨日の稽古で言っていたのに使ってない所為か。
武器を使うという事は戦うという事だが、俺は唯地図を作っていただけだ。
本当に殺すつもりは無かったんだッ。
最初の方はこれでも頑張ってウルフを避けようとしていた。まあ、あまり成功しなかったけどな。
そして途中からは面倒になって、そのまま轢き殺しながら地図を描いていた。
もしかしたら、槍を持っていれば、上手くウルフを捌けたかもな。
ウルフの生死は兎も角、ここまで汚れはしなかったかもしれない。
今度から試してみるか。
さて、体も洗い流し終えたので、いつまでも全裸という訳にはいかない。
体を拭いて服を着た。
勿論、美月達が出てきた時の為、即席のカーテンを作っている。
幾ら俺でも人が来る可能性がある中、開放的な全裸を晒す程羞恥心が無い訳ではない。
丁度着替え終わった辺りで、ダンジョンから出てくる美月達の気配を感じた。
ギリギリ間に合ったな。
「空気が美味しいですね」
「ん」
「そうですね」
ダンジョンから出てきた3人が体を伸ばして深呼吸をし気持ちよさそうにしているのを神眼の空間把握で感じ取る。
ダンジョンは閉鎖空間みたいな所があるからな。長時間ダンジョンに入っていたら窮屈に感じるだろう。
風も無いから空気は綺麗でも美味しくは感じれないかもしれないな。
俺は全身血濡れでダンジョンで吸う息は血の匂いと獣臭が酷かったから関係無いけどな。
走っている間だけは新鮮な空気を摂取する事が出来ていた。
「3人ともお疲れ」
そう声を掛けながら即席カーテンから出て行く。
「光希さんも既にダンジョンを出ていたんですね」
「ん、綺麗になった」
「先輩はもう体を洗ったんですか?」
咲良何故残念そうにしているんだ?
ダンジョンを出ているのに、いつまでも血塗れの状態でいる訳が無いだろ。
それにダンジョン内で会った時は、お前も青い顔していたじゃないか。
「ああ、美月達が出てくるほんの少し前にな。美月達はどうするんだ?」
俺みたいに全身真っ赤とはいかないが、それでもそれなりに返り血を浴びている様だが。
どうするつもりだったんだ?
「私達は部室棟のシャワーを使おうと思っています」
そう言えばそんな物もあったな。
部室棟なんて行く理由が無いから、そんな便利な物がある事をすっかり忘れていた。
「でも、鍵はどうするんだ?」
美月の言う通り、部室棟には確かにシャワー室がある。
でも、それは放課後の部活が終われば鍵を閉める筈だろ?
「ん、ここにある」
そう言って鞄から鍵を取り出したのは咲良だ。
「なんで咲良が持っているんだ? まだ部活には入ってない筈だろ」
「ん、昨日返し忘れた」
昨日という事は昨日もシャワー室を使ったという事か。
俺と春はさっさと帰ってしまったから使えなかったのか。
どの道、春は爆睡していたので、知っていてもシャワーを使う事が出来なかったと思うけど。
「昨日も使ったのか」
「はい。慶さんが鍵を自分が返しておくからと、部活生に渡してもらったそうです」
「いや、全然返してないだろ」
「忘れていました。使った後にシャワー室の鍵は閉めたんですが、そのまま持って帰ってきてしまって、どうすればいいのか慶さんに聞こうと思って美月に電話したんです」
返し忘れたのは凛だったのかよ。
「そうしたら、別に明日の朝に返せばいいって言われたので、折角シャワー室の鍵があるんだから有効活用しようと思い、朝ダンジョンに入ってから学校に行こうと3人で集まりました」
「そうか。それで4時に集合してダンジョンに入った美月達は朝食はどうしたんだ?」
「「「あ」」」




