初ダンジョン
ダンジョンに到着した。
「ここが狼系モンスターが出るダンジョンか。見た目は他のダンジョンと変わらないね」
「そうだな。俺が知っているのも洞窟型だけだからな。まあ、今はどうでも良いけど。早速だがダンジョンに入ろう。ダンジョンについて考えるのは昼休みで十分だ」
「それもそうだな。それで6人全員で入るのか?」
「流石にここの通路幅で6人は多い。俺と慶で3人ずつ連れて別れよう。美月と咲良は慶で、凛と春は俺の方で面倒を見る」
慶は俺が提案したグループ分けに首を傾げる。
「俺は良いんだけど、光希は良いのか? 凛さんも春ちゃんもダンジョン初心者だろ、分けた方が楽じゃないか?」
「大丈夫。凛は昨日もこのダンジョンに入ったし、春は俺が見てないと心配だからな」
「昨日、ダンジョンに入ったのかよ。そんなの知らなかったんだけど?」
「え? またか、美月は知っている筈だけど」
そう言って美月を見ると、美月は困った表情になり答える。
「言って良いのか、分かりませんでしたから」
困っている美月を見かねたのか咲良が代わりに説明をする。
「ん、美月は昨日の失敗でどうして良いのか言われないと分からない」
ああ、昨日のスライムの話で美月達がダンジョンに入っている事がバレた件だな。
その事を気にしている美月はダンジョンの事で何を言っていいのかいけないのか分からないという状況に陥っているのか。
まあ、そのくらい心配してくれた方が秘密を守って欲しい方としては安心出来る。
「成る程な。だってさ、慶」
「分かったよ、この話はもう終わりにする」
「よし、じゃあ着替えたらダンジョンに行くぞ」
俺がそう言うと、各人離れて着替え始めた。
まあ、若干1名何の為に着替えるのか分かっていない者もいるが。
「着替えるの?」
「春、まさか制服のままダンジョンに入る気だったのか?」
「え、違うの?」
「違う。汚れてもいい服にさっさと着替えろ」
俺がそう言って着替えを促すと、春の目が泳ぎ出し、体をもじもじとし始めた。
「えーと、忘れちゃった」
はあ、ちゃんと服を持ってこいと伝えていた筈なのに、自分の勝手な判断で持ってこなかったのか、春の奴。
まあ、何と無くこう言う事もあり得ると思っていた。
「これを持ってさっさと着替えに行け」
マジックポーチから適当に持ってきていた春の服を投げ渡してやる。
「ありがとうっ!」
俺も春から離れて着替え始める。
ーーー
全員が着替え終わったな。
「皆、素手でやる感じなの?」
春は初めてだったな。
「特殊なモンスター以外の1階層モンスターは素手でも大丈夫だよ」
「慶の言うように、ここのダンジョンはウルフだから素手でも余裕だ。野犬相手だと思って戦えばいい」
「野犬って世間一般的に素手で対処出来るものじゃないんだけど」
「はいはい、俺達は対処出来るんだから良いんだよ。さて、ダンジョンに出発するぞ」
「おう!」「「はい」」「ん」「はーいっ!」
ーーー
ウルフダンジョンに入り、別れ道で慶達と別れて、春、凛と一緒に進む。
少し進むと、早速ウルフに遭遇した。
「おお、これが絶滅した日本狼」
春も同じ反応するのか。そして、ウルフは全然日本狼に似ていない。
「春と凛、どっちが先に相手をする?」
「私は昨日も散々戦ったので、あとで大丈夫です」
「分かった。なら、春が相手をしてくれ」
「うん。このモフモフは私がやる」
ウルフはそこまでモフモフではないよ。
結構固そうな毛質をしている。実際に触ってみてもモフモフという感じの手触りではなかった。
モフモフって言うのは、やっぱり王獣化(猫)の様な滑らかな手触りの毛質を言うんだと思う。
まあ、そんな事はどうでも良いから、さっさと倒してくれ。
春はさっきから避けているだけで反撃をしない。
反撃をする余裕が無いのではなく、いくらでもやる機会はあるのに攻めようとしていない。
「どうした、春? 早く片付けたらどうだ」
「やっぱり、私には素手で動物を殺すなんて無理だよっ。何か武器プリーズッ!」
武器。何かあったかな?
慶は刀で、美月が薙刀、咲良が大太刀、凛が一応格闘という事になるのかな? スキル的にも。
そして俺が槍か? 実戦では使った事がないけど。
春には何が良いだろうか?
剣でいいか。
普通のロングソードなら鈍器にもなるから技術が無くとも使い易いだろう。
「春、投げるぞ」
そう言ってマジックポーチから取り出した剣を春に投げ渡した。勿論鞘付きだ。
「ナイスパス」
春はこちらを見る事も無く剣を受け取る。
まあ、鞘の部分を掴んだから、剣を抜き身のまま投げ渡していたらちょっとした惨事になっていたな。
春は鞘から剣を抜き、剣道の様に構える。
きっと体育の授業で習った剣道を元に構えているんだろう。
春はウルフが飛びかかるタイミングに合わせて剣を振り下ろした。
「メンッ!」
ウルフの頭に直撃した剣身はウルフの頭蓋に食い込み即死だ。
掛け声まで剣道というのは、使い方を知らなかったとは言え、締まらないな。
「何とか倒せたー」
ウルフがドロップアイテムに変わったのを見て、春は力を抜いてそう言葉を漏らした。
初めてだから、精神的に疲れたのか。
「ドロップアイテムを拾ったら先に進むぞ」
「はーい」




