◆◆ 30日目 ◆◆卍 その5
四度目の挑戦が空振りに終わりました。
単眼の竜相手に、これにまでにわかったことは4つ。
・光の状態異常属性は【呪詛】。
・光は魔物の正面から約120度の範囲に拡散し、その射程は広場全体を覆う。
・魔物は戦闘開始直後から、およそ1分ごとに光を放つ。
・あの光を浴びたものは、即死する。
この四回は必要な検証だったとはいえ、犠牲者はさらに増えた。
皆の空気は重い。
わたしたちは顔を付き合わせて、様々な可能性を追求していました。
「火属性も駄目。水も土も風も駄目。まだこの世界で見つかってない闇魔術がないと、レジスト(無効化)できねえのか……?」
レスターの言葉をドリエさんは紙に書き留めている。
この一方的な敗北も、ネットゲーマーにとっては珍しいことではない。
MMORPGのボスは時として、攻略法を知らない相手を面白いように鏖殺してゆく。
Wikiのないネットゲームなんてもう存在していないから、みんな忘れているだけのことだ。本来、彼らは初見殺しの権化なのだ。
それでも、時間をかけられるだけかけられるのなら、いつかは勝てるだろう。
そのときに、レッドドラゴンを倒せるだけの戦力が残っているかどうかは、別だけど……
「あの目玉を、どうにか部位破壊できればいいのだけど」
腕組みをしながらわたし。
「近づく前に光を浴びてオダブツだろうが」
「でもさっきは、ひとりだけ生き残ったじゃない」
「たまたま数%のレジストに成功しただけかもしれねえぞ」
「まあね……」
軍団長にそう言われて、なにも反論ができない。
先ほど、顔面を大盾で覆ったものは、光を浴びても即死はしなかった。そのことから、あの光を見つめることが即死の条件なのではないかと思われていたが。
確証はない。最悪、その検証のためにひとりを犠牲にしなければならないだろう。
「ならば、状態異常の盲目を試してみるか?」
「レジストされてしまったら、死んでしまいますよ」
「まあな」
ドリエさんに指摘され、引き下がるイオリオ。
カトブレパスだかバロールだか、バジリスクだかメドゥーサだか知らないけど、なんて厄介なモンスター。
「関係ない話かもしれませんが、トルコでは邪視避けのお守りとして、護符ナザールというものがあります。その他にも、ファティマの手やチャーム、彫刻なども。そこから攻略法が見いだせる可能性も……」
「条件付きでの無効化ってのだけは、考えたくねえな」
ドリエさんの言葉に首を振るレスター。
今から素材アイテムを探して合成するのは……
少なくとも、一度街に戻らなければならない。
それをレスターは望まないだろう。
輪を組んでいるのは、わたし、イオリオ、レスター、ドリエさん、それにブネさん。
「やはり、大盾の可能性が一番高いように思えるな。いざとなったら俺がいこう」
ブネさんはそう宣言しました。
わたしたちは再び、ううむ、と唸る。
閉塞感が辺りを包んでいます。
結局、MMOというのはやはり人的資源をどうにか使うか、だ。
これ以上犠牲を出したくないわたしは、レスターの作戦に積極的に賛成することはできない。
かといって打つ手がないのだから、反対もできないわけだけどね……
「このままじゃラチがあかねえ。五回目の突入行くか」
そう言ってレスターが立ち上がり。
そこに場違いなほどに明るい声が響き渡った。
「オーッホホホ! お困りのようね!」
休憩していた人たちがサッと割れ、そこにはひとりの女性が立っていた。
え、ここに来て新キャラ?
こんな地獄の底で?
彼女の名はデズデモーナ。【ヒューマン】の女性だ。
いわゆるドリルと称される金髪の縦ロールは、ファンタジー世界においてもなかなかの存在感があった。
ウェリンの子爵家に生まれた貴族令嬢(という設定)らしい。
高い裁縫スキルによって作成されたであろうことが一目でわかるドレスは華美で、性能も高いようだ。
でもこの人一体どこから来たの。
ン、っていうか【ウェリン】って言った? それってスタート地点の街のひとつよね?
彼女はこちらにカツカツと歩み寄ってくると、わたしとレスターを交互に見据えた。
「貴女か、貴方。どちらがこの群れのボスですの?」
ちょっと驚いた。この人数の中から特に目印があるわけでもないのに、レスターを言い当てるなんて。
「俺だ」
レスターの巨躯を目の前にしても、デズデモーナさんはまったく怯まなかった。
「ふぅん、そう。貴方が<ゲオルギウス・キングダム>のレスターね。わたくしは<シェイクスピア・オーケストラ>のデズデモーナ。貴方の招請に応じてあげましたわ」
彼女は右手を挙げる。
すると通路の奥から現れたのは、揃いのラメラーアーマーに身を包んだ騎士の一団だった。
え、いやちょっと、多すぎない?
何人いるのこれ。フルペリじゃ済まないよ。
「<楽団>82名。これより鮮やかな手並みで魔獣カトブレパスを討ち取って差し上げましょう」
彼女は自信満々の笑みで、そう言った。
「歓迎しよう」
レスターは手を差し伸べて、彼女と握手を交わす。
えーと。
事態を飲み込めないわたしは、デズデモーナ嬢の言葉を反芻する。
ウェリン。ロンドネシア。ベスプチ。イエティランド。トトイ。
これらは全てヴァンフォーレスト同様に、最初に選べる街の名前だ。
だけど、『666』の世界は広い。徒歩の陸路なら、どんなに近い街へも十日以上はかかってしまう。
だから、まだ誰もスタート地点間を行き来したという話は聞いたことがない。
けれど――
「しかし、ウェリンか。あそこに向かったのはドリエの妹だな。大戦果じゃねえか」
「ええ。あのコは人の気を引くのが昔から上手でしたから」
ため息混じりにつぶやくドリエさん。
へえ、ドリエさんって妹さんがいるんだ。きっとお姉ちゃんに似てお上品な感じなんだろうなあ……うふふ……
じゃなくて。
ってことは、ですよ。
少なくとも十日以上も前に、レスターは人を各都市に送り込んでいたことになる。
わたしはこめかみを押さえてうなる。
「レスター、いつからこのことを考えていたの……」
六大都市に、人を派遣する?
その行動がなんの実を結ぶのかもわからないまま……?
すごい神経。
十日も旅をして、無事に街にたどり着いたなんて、奇跡みたいなものじゃないの。
だって一度でも死んだらヴァンフォーレストに戻されるんでしょう?
はー、すごい。
「お前んとこのイオリオが言ってたろ。“いくつか”遺跡があるってよ。ウェリンの近くにもあったんだぜ。なんでもやってみるもんだよな。成功だけではなかったが」
なるほど。
【朽ち果てた遺跡ゲラルデ】はヴァンフォーレストのすぐそばにあった。だからってこの街だけが優遇されていたわけじゃない。ゲラルデはきっと、どの街のそばにもあったんだ。
<楽団>はそこからやってきた。
っていうか、どうりで<キングダム>は貪欲に資金をかき集めていたわけだ。
旅に必要な諸々の道具を買い揃えるための、旅費でもあったのね。
デズデモーナさんは部隊を指示し、カトブレパスに挑む準備を整えていた。
この状況での援軍は非常に心強い……けれど。
「いや、でも、あいつの光を浴びたらバッタバッタと倒れちゃうよ。危ないんだよ」
わたしが慌てて止めに入ると、デズデモーナさんは鼻で笑いました。
「心配ご無用ですわ。貴女がたの国はどうか知りませんが、わたくしの国では、あの眼光の避け方はルーキーでも知っていますのよ」
「え、どういうこと?」
デズデモーナさん、笑いを我慢しているような顔で頬を膨らませています。
人をムカつかせるつもりの態度なんだろうけれど。
あ、あれ、かわいいなそのお顔。
「っぷ……そんなこともご存知ありませんの? よくナイトゴーレムの番人を倒して、こんなところまで来れましたのね」
あ、やっぱりそっちもナイトゴーレムいたんだ。
じゃあかなり強い人たちなんだなあ。
「ちなみに、どうやって防げるのあれ?」
「簡単なことですわ。背中を向いていればいいだけですの」
「なんと!」
そ、そんなにシンプルな攻略法だったのか!
「同様の技を、街の近くの牛が使用しますの。即死ではなく、盲目効果の光ですけれど」
それでかー。
色んな街の色んな情報を集めて、それでようやく攻略できる仕組みなんだね、【地端地】は。
デズデモーナさんたちはすぐにカトブレパスに挑みかかる。
そうか、だからレスターはずっと誰かと交信していたのか……
「ベルガーの仇を討てねえのは残念だが、まあやってくれるっつーんなら任せようじゃねえか」
そうか、そこにこだわりはないんだ。
まあ死ぬっていっても死ぬわけじゃないし、そういうものか。
しかしすごい。
ヴァンフォーレストだけじゃなくて、まさか他の都市から援軍を募るだなんて。
「レスターの周到な根回しっぷりには、頭が下がります」
「現在の【地端地】の人数をサーチしてみ」
「え?」
言われた通り、わたしはウィンドウを操作する。
ヴァンフォーレストとウェリンの連合軍だから、200名越えたのかな。
そんなもんじゃなかった。
現在合計 4 6 3 名 。
なんですかこれ。
「ウェリンだけじゃねえ。ロンドネシア。ベスプチ。イエティランド。トトイ。全世界から遺跡を通して、冒険者たちが集まってきているのさ。入った遺跡により内部のルートは変わるから、合流するのはまだまだ先だろうけどな」
うはー。
もう言葉が出ない。
世界六大都市合同作戦?
よくもまあ、そんな大それたことを、この一ヶ月で……
チーターはキミなんじゃないの。
まるで聖地奪還に燃える十字軍のようだよ。
連合軍の大指揮官、レスターは告げる。
「戦いは数だぜ、白刃姫」
おっしゃるとおりでございます。
デズデモーナさんたちは、カトブレパスとバトルし……
戦闘中におもむろに後ろを振り向くという行動の結果、無防備になったタンクが殴殺されてゆく事態が続いた。
なんというか、案の定である……
カトブレパスは邪視がなくても強敵だった。
<楽団>はそこを見誤っていたわけで。
「強すぎるううう~~~……うぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~ん!」
泣きながら敗走してきたデズデモーナさん。
しばらく<楽団>のメンバーたちに慰められておりました。
なにこのこ、かわいい。
その後、ウェリン軍と手を組み、レスターはきっちりとカトブレパスを叩き潰しました。
攻略法さえわかってりゃ、こんなの<キングダム>の敵じゃないってね。
【地端地】に向かうルートはひとつではなかった。
各地の遺跡の扉から“呪文”を唱えさえすれば、ある程度の実力があれば誰でも参加することができるのだ。この戦いに。
誰でも。
「そこから先には進ませないよ」
それが例え、わたしたちの道を阻むものであっても。
通路の先では、一団が道を塞いでおりました。
これがレスターの言った「ルートが違うから」ってことなんだろうね。
彼らは彼らで中ボスを倒してここまでやってきたのだろう。
それにしても、穏やかではない。
先頭に立つのは、また新キャラの……
えと、この人はなんだろう。
漆黒のマントを羽織った騎士だ。わずかに耳が尖っている。ハーフエルフかな。
その後ろに何十人も部下? がいる。
様子がおかしいのはひと目でわかった。
なぜなら彼は――いや、その後ろにいる彼らもその大半が――レッドネームだったのだ。
レッドネーム。つまりPK行為を犯したものの証である。
うへー。
アクティブに絡んでくるのは、気持ち悪い色をした野生動物だけで十分だけどなあ。
彼はファサァっと前髪を払う。
「ボクは【ベスプチ】のダークス。キミたちのことは聞いたよ。どうやらこの世界を破壊しようとしているようじゃないか。話しにならないよ。抗議デモだよ」
こちらは、わたしやレスター、主要メンツが前に出ています。
ドリエさんは魔術団を配置につかせている。
空気が緊迫し出した。
ダークスさんは一歩前に足を踏み出してくる。
「ボクはこのゲームの中にこそ本物の“リアル”があると思うんだ。その考えの正しさを立証するように、普段はいがみ合っているはずのベスプチのギルド同士が手を組んだんだ。みんなそうそうたるメンバーだよ。ベスプチでは皇帝、四天王、10傑(ボク含む)、3本柱などの超一流だ。きっと倒そうと思えば悪の神だって滅せるに違いない。だけどそんなことはしない。代わりにボクたちがこの世界を“統治る”んだ」
うわあやばい。目がイッちゃってるよ。
この子未来に生きてんな……
後ろの男の子たちも剣を構えだしたし……
一触即発の事態だ。
「ちょっとレスター、どうする気……」
小声で問いかける。
すると案の定。
「ブッ殺す」
こわっ!
うちのボスこわっ!
いや、でもそうだよね。
レスターの前に立ちはだかる障害は、なにもかも排除されるよね。
ただ、大規模PvP(Guild vs Guildという意味で、GvGとも呼ばれる)はこれまでのraidとはまったく勝手が異なる。
最大の違いは、“ヘイトのコントロールができない”ということだ。
ということは、どんなに相手が弱くても、彼らの一斉攻撃でレスターやドリエさんなどの、中核メンバーがやられる可能性が十分にありえるのだ。
一撃100ダメージの魔術を10人同時に繰り出すことにより、HP1000のプレイヤーを回復の暇もなく即死させる連携攻撃。
この戦法はネットゲーム創生期より存在し、“Spike”と呼ばれている。
プレイヤーの取る戦術は幅広く、mobとは比べ物にならないほど多彩だ。
ゼロディレイとかね。あー懐かしい。
彼らがどれほどの使い手なのかはわからないが、少なくとも<キングダム>は対PC用の訓練を受けていない。
正面からぶつかりあったら、数の勝利を得られるのは間違いないが、こちらとしても相当数が寺院送りとなるだろう。
こんなところで危険を犯す必要は、わたしはないと思う。
「ちょっと待って、レスター。ここはわたしに任せてよ」
「あ? いい方法でもあるのか? ああいうアホに構っている暇はねえんだが……」
「うんまあ、それはわかる」
ダークスくんは明らかにこの状況に心酔している。
よほど辛辣な言葉でもなければ、彼の妄想の檻を破ることはできないだろう。
ずっとこの世界で暮らしたいと願うその心も、わたしにはわかる。
そんな彼を釣るのは、同じ欲望だ。
こちらのほうが面白い。こっちについたほうが得する。そう思わせればいい。
名誉欲でもいい。誰にだって人に認められたい気持ちがある。
そこをちょこちょこっとカワイイ女の子がくすぐれば、イチコロに決まっているわ(偏見)。
「でもほら、見てごらんよ。あっちの軍勢はひとりも女の子がいないでしょう? それならルビアにでも説得してもらえばすぐにコロッと寝返ってさらに良い鉄砲玉になってくれるよ」
悪いこと考えてんなあ、とシスくん。
レスターは眉をひそめる。
「はあ? それでピンクのが殺されても構わねえってんならいいけどよ」
「甘い甘い」
ルビアがそんなうかつなことをするわけがないよ。
伊達に18年間あざとい人生を送ってきたわけじゃないからね。
対男の子専用人型決戦兵器だよ。いや当人は女子校育ちの娘だけど。
「というわけでほら、使い道のない【変身】をここで消化しちゃいなさい、ルビア」
ルビアはかなり気が進まない様子。
「えー、あの人たちに、ですかぁ……? 今もなんかブツブツ喋ってますけどぉ……」
それでも【猫化】して猫耳と尻尾を装着すると、自ら前に歩み出た。
先輩に言われたことはやる。
さすが後輩の鑑。
ほらほら、にゃーんって言いなさいよにゃーんって。
ちなみにダークスくんは未だに喋り続けています。
悪事を全て吐露してから戦闘に入るラスボスのようだ……
「つまりはここをボクたちの理想郷~Arcadia~に変えればいいのだよ。それをどうしてわざわざ手放す必要があるんだい。キミたち人間はまったくわけがわからないよ……おっと、こう言ってしまうと、まるでボクが“覚醒めた者”ような……クフフ……」
彼の妄言を真っ二つにするように。
「キモイです」
猫耳ルビアは言い放った。
ダークスくんは固まった。わたしも固まった。レスターもデズデモーナ嬢も、その場にいるみんなが固まった。芸人の団体芸のようだった。
その中で、ルビアちゃんひとりが首を傾げる。
「っていうか……声からして、まだ未成年の方ですよね? 学校はいいんですか? もう二度とご両親やお友達に会えないんですよ。好きな音楽だって聞けないし、スポーツだってできません。あなたの人生はそれでいいんですか? ゲーム以外ないんですか? それって寂しくないですか?」
アニメ声から放たれる正論に次ぐ正論。美少女の軽蔑の眼差し。
あ、わたしの心も折れそう。心臓が痛い。
「いや、そういうの、関係ないし……」
かろうじてぽつりとつぶやく。
ああっ、ダークスくん早くも涙目!?
ルビアは彼に据えた視線をまったく動かさない。強い。
「え、なんですか? そもそもあなた、おいくつなんですか?」
グイグイ行く。
「……16才だけど」
ダーくんが舌打ちしたので、ルビアちょっとイラッとしてます。
「じゃあまだ養われてますよね。高校生ですか? 授業は心配じゃないんですか? 戻ったら学校の勉強についていけなくなっちゃいますよ。だから早く現実に帰らないと――」
「――そんなの関係ないって言っているだろう!」
おお、ついにダーくんブチ切れた!
「ボクはこの世界ではヒーローなんだ! オンリーワンだ! ボクの力があれば夢だってなんだって叶うんだよ! ボクの世界を壊すようなやつは、みんなみんな死んでしまえばいいんだ!」
ちょっとちょっと。ダーくん荒ぶり出したけど。
大丈夫なのこれ、ルビアちゃん。
あれだけ毒吐いて、殺されない?
焦るわたしに対して、ルビアちゃんはあくまでも冷静。
「でもこの世界は、あくまでもゲームですよ」
「ボクたちにとっては現実だ!」
「あなたの現実は、高校生ですよ。やるべきことはもっともっとあるんですよ。こうしている間にも他のみんなは、学業に部活に友達作りに、毎日頑張っているんですよ。ストレス社会を生きているのはあなただけじゃありません。自分だけ甘えてどうするんですか」
や、やめろぉ。
ハッ、ついダーくんの側に立ってしまった。
ていうか割とみんな胸を押さえている。シスくんもイオリオもだ。
ルビアちゃん強すぎる。
「なにが学校だ! 意味ないね! ボクは今もっともっと大事なことをしているんだ! つーかあんなの将来なんの役に立つってんだよ! 言ってみろよ!」
髪をかきむしるダーくん。
ルビアちゃんは出荷されてゆく豚を見るような目つきで。
「あんなこともできないあなたは、この先、何の役に立つんですか? あたしに教えてくださいよ」
「え、あ……」
今のダーくんの表情を名付けるなら“絶句”。
「あなたはなにか勘違いしているんじゃないですか? ゲームの世界でならなにかを為せるっていうのだって、そんなことはありませんよ。ここであたしたちの道を阻んだところで、結局多勢に無勢で押しつぶされるのが関の山ですよ。あなたたちはゲームの世界ですらなにも残すことはできないんです。あたしたちはあなた方を倒して先に進みます。ちょっと面倒だったなあって思うだけです。あなた方は寺院で目覚めて、衰弱しながら『くっそう』ってグチるのが運命ですよ」
もうやめて! 彼のHPはゼロよ!
「うう、ボクは……ボクは……」
可愛らしい女の子に全否定されて、ダーくんはうなだれます。
み、見ていられない……
しかし彼に、ルビアちゃんはそのまま手を差し伸べました。
ニッコリと微笑みます。
「でも……そんなあなたでも、この世界からあたしたちを救うことができるんですぅ」
「えっ……ボクが……?」
あの辛辣な態度の直後に見たルビアちゃんの微笑みは、天使のように見えたことでしょう。
アメとムチ……!
「斜に構えた態度なんて、流行りませんよぉ。一緒にラスボスを倒して、本当の意味でヒーローになりましょぉ? ね?」
その笑顔に照らされて。
ダークスくんの体から邪気が抜け出てきます。
そうして彼はゆっくりと立ち上がる。
「好きだ……」
えっ!?
「にゃっ!?」
ルビアちゃんの尻尾がピーンと伸びました。
逆に今度は辺りがざわめき出します。
「ボクは本当に守るべきものを見つけ出した……そうか、ボクの本質はダークパワー……心に愛が満ちた今こそ光と闇が両方そなわり最強に見える」
なんか言い出した……
「え、えっとぉ、あの、そのぉ」
一方、コクられた猫耳ルビアちゃんのほうはさすがに焦った顔で、頬を赤らめながらわたしとダークスくんを交互に見つめています。なぜわたしを見る。
そんな急に恋する女の子みたいな表情になっちゃって。
先ほどまでこの場にいる全員を説教していたくせに。
ていうか本当に不憫なのは、皇帝、四天王、10傑(彼を含む)、3本柱などの超一流の方々だ。
リーダーが真の力に“覚醒め”ちゃって……
居場所がないだろう……
いたたまれないだろう……
みんな、『おい、どうすんだよこの空気……』みたいな顔をしているし。
リーダーは相変わらずルビアちゃん口説いているし。
ルビアちゃんは迷子の迷子の子猫さんみたいになっているし。
うん。
刀使いとして、ここは介錯をしてあげるべきでしょう。
わたしはルビアとダーくんの間に入り、両腕をクロスさせて高々と掲げた。
そうして叫ぶ。
「解散!!」
【ペスプチ】の方々はレッド・グレーネーム問わず、連合軍に編入されました。
なんだこれ。




