17話 非日常を求める
今回は止水さん視点です。次回は店長視点に戻ります。
それではどうぞ。
店長のお兄さんと別れて、私、止水サナカはダンジョンに一人で向かう。
入口からダンジョンの中に一度足を踏み入れると、そこは先ほどまでのビルが建ち並ぶ近代的な景色とは一変し、別世界が広がる。
私はこの非日常的な景色に包まれるのが好きだ。ダンジョンに入ることでしがらみから解放されたような気分になる。この気分を味わうために探索者を続けているようなものとも言える。ミナは別の理由みたいだけれど。
私の家はダンジョン発生期に権力と資産を大きく増やした旧家の一つで、それなりに古くからある家なのでとてもとても堅苦しい。
探索者になるのも両親との間でかなり揉めた(今思い返してみると、若い娘が危ない仕事につくのだから揉めるのは当たり前だっただろうか……)。
ああ、そこら辺にはかなり寛容で放任主義的なミナの家が羨ましい。
そんなことを思いながら、さっさと先に進む。
この辺りは上級探索者にとっては鍛錬の場にはならない。
ショートカットだショートカット。
それに立ち止まっていると男の探索者に話しかけられるかもしれない。
困ったことに、女性探索者が少人数で固まっているとダンジョン内でもナンパしてくる奴らがいるのだ。まったく、そんなことをしている暇があったら、ダンジョンの一つでも踏破して階級あげてから出直して来い、そう言いたい。強く言いたい。
今度そんな奴を見かけたらこの弓でぎりぎりの場所を射抜いてやろうか、そんな物騒なことを思う。
◇
ダンジョンの中をどんどん進む。この階層程度に出てくるモンスターは出合頭に瞬殺だ。
歩きながら、ふと先ほどまでいたコンビニのことを思い出してクスリと笑う。
まあ、あそこも非日常的といえば非日常的かな……。
ダンジョンができて10年以上が経ち、世界で人の住める場所は確実に狭くなった。この狭い日本であれば尚更だ。
聞いた話だと、当時、人の住んでいないところにできたダンジョンなんかは人が全く入らないまま大きくなりすぎて手遅れに近い状況らしい。ただ、ちょっと中は入って見てみたい気はするなあ。
ダンジョンができた周りの土地ではいつダンジョンから出てきたモンスターに襲われるか分からず、普通の感性をもつ人であれば恐くて住まない。国もなんとか住んでもらおうと色々なサポートをやっているみたいだけれど、まあ無理だろう。
現に、このダンジョンの周りも、ダンジョンが発生する前からあったビルは建ち並んではいるが、ほとんど人は住んではおらず、店舗は入っていない。
にも関わらずだ。あのコンビニ店を中心とした一区画だけは違っている。
やってくる人は探索者だけれども人が溢れていて、見た目は日常的。それがどれだけ異常なことだろう。
言ってみれば、孤島にポツンとあるコンビニエンスストアのようなものか。まあ、人はたくさんやって来るから孤島ではないかな。お店が晒される危険度は孤島とは雲泥の差だと思うが……。もちろん、ダンジョン近くの方が危ない。
そうそう、あのお店はダンジョン探索者の間ではそれなりに有名で、前から噂には聞いていた。パーティーのみんなも機会があれば一度寄ってみたいとは言っていたのだ。ダンジョンに最も近いお店。普通じゃないお店。
それに店長のお兄さんも普通ではないみたいだし……。
うん、あれは普通じゃない。
というかおかしい。とてもおかしい。
何か隠しているとは思う。いや、絶対隠してる。
私の勘が言っている。
何かは分からないけれども……。
そう言えば、この前、家にいるとき、兄さんが隣の部屋で叫んでたわね、異世界行きてーって。
なんでも、兄さんが持っているオタク小説。なんだっけライトノベル?WEB小説? それだと異世界に召還されたりして強くなるんだっけ。
店長も、なんてね。
あの後、気になったので、探索者の業界ではそれなりに顔の効く父親に店長とお店のことを聞いてみたけれど、とくに変わったことは見当たらないらしく、業界が一枚かんでいることもないらしい。それに店長も探索者の経験者ではないみたいだ。
やっぱり、本人からそれとなく聞くしかないわね。
「ん?」
少し先の方にかすかな気配を感じて、考えるのを中断し立ち止まる。
さっと背中に背負っていた弓を手に持ち、いつでも構えられる準備し、周囲の気配をうかがう。
感じる気配は一つか。
さっきまで感じた雑魚とはちょっと違う気がする。
気配は前の方から感じるけれども正面からは少しずれているような気がした。
慎重に前に進み、気配を感じた場所に近づいていく。
この程度の階層で遭遇するモンスターに遅れをとることはないだろうが、先日のキマイラのような特殊な事例もある。場合によっては逃げることも必要。油断は禁物だ。
「あれは……子供?」
弓を構えながら進んだ先、私は、前方に白い人のような影が見つけたのだった。
非日常フリーク止水
大人しそうな彼女ですがいろいろ考えていたり、それなりに物騒です。
また、誤字連絡が感想、評価ポイントいつもありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。




