14話 店長絡まれる
それでは続きをどうぞ。
コンビニから少し離れた場所。そこには探索者の格好をした若い三人組の男が立って、さっきまで貴崎ミナと話していた店長を妬みのある視線で睨んでいた。
彼らは今日はじめて、このコンビニ前にあるダンジョンにやって来た中級探索者。
「なんだよ、あの店員、ミナと楽しそうに喋りやがって」
一人がイラつきながら話すと、残り二人もそれに同意する。
「ちっ、コンビニ店員の癖しやがって調子にのってるよな」
「マジでそれ」
彼らは貴崎ミナと面識があるわけではなかったが、彼女や止水を含めた白銀の戦乙女はリーダーを筆頭に美女・美少女揃いで、探索者のみならず一般の人にも知られていてアイドル並みに人気があった。
このため、中には彼らのようなものも少なからずいた。
そうとは言え、彼女達が直接的な被害を受けることはなかった。彼女達はアイドル並みの人気を持っているとはいえ、実態は上級探索者。直接言ったところで相手にはされず、物理的な手段に出ようものなら、良くてあっさり返り討ち、運が悪ければこの世からサヨナラさせられる。
こうなると、その嫉妬や怒りの向かう先は、話をしていた相手に向かう。ましてや、相手が同じ探索者ではなく、一般人であればなおさらだ。
「ちょっとビビらせてやるか、なあ」
「そうだな」
「マジでそれ」
そう言って、タイミング良く(パートのお姉さんからなんとか逃げて)コンビニの外に出てきた店長に近寄っていった。
◇
俺は思い出したかのように奈月さんに話しかける。
「あ、そう言えばそろそろ外の見回りの時間でした。ちょっと行ってきます。話はまた後で」
「あら、そんな時間かしら。……まあ、仕方ないわね。後で聞かせてよね」
そう言ってレジに向かう奈月さんに背を向けて、コンビニの入口に向かい外に出る。
「ふう」
何とか逃げれたか。すぐに戻るとまた捕まるだろうと思い、少し時間が経ってから戻ることにして、俺は店の周りを見て回ることにした。
店の周囲を見て周り、店内からは見えない店の入り口から離れた場所に差し掛かった時、三方から人影が寄ってきた。
見ると、俺よりは少し年下だろうか、面識のない三人の若い男だった。
俺がじっと立っていると、男たちは、少し間を空けて立ち、そのうちの一人が話しかけてきた。
「あんたさ、ミナのなんなの?」
いきなり、予想外の言葉にぽかんとする。
「へ?」
「いや、だからさ。あんた、さっきまで貴崎ミナと楽しそうに喋ってただろ。コンビニの店員が誰の許可を得てミナと喋ってるわけ?」
「マジでそれな」
これは絡まれているんだろうな、俺。貴崎は有名人らしいから、妬まれたんだろう。
それに俺のことを知らないってことは、あまりこの付近には来ていないのかもしれない。
そう思う。ただ、客ではなさそうとはいえ、店長がいきなり手を上げるわけにはいかない。いくらダンジョン前のコンビニとはいえ、あそこの店長はすぐに手を上げると噂が広まるとやっかいだ。俺は冷静に返すことにする。
「えーと、君たちは貴崎の知り合いだったり、……いや、友達だったりするのか?」
それはないだろうと思いつつも話しかける。
「ああ? 違うけどよ。なんか文句あるのかよ、おっさん!」
どうやら逆に火に油を注いでしまったようだ。
いや、それより。
(おっさんはないだろ、おっさんは!)
見た目、そんなに変わらないであろうこいつからおっさんと呼ばれたことに憤りを覚える。
「おい! そこで何をしている!」
少し離れたところからこちらに向けられた男の声。
俺と、三人の男が顔を向けると、そこには背丈ほどのでかい鉈を背負った中年のおっさんが立っていた。
おっさんはゆっくりとこっちに向かって歩いてくる。
顔をよく見ると、イートインスペースによくいる常連の一人だ。
三人とおっさんの持っている装備を見比べると、三人の方が明らかに格下。三人もそれが分かっているのか、傍まで来たおっさんの顔を見た後、気まずそうにした後、
「ちっ」
そう言ってダンジョンの方に去っていった。
去っていった三人を見た後、俺の方に振り返ったおっさんが話しかけてくる。
「店長、大丈夫か? 大変そうだったな」
「ああ、大丈夫、気にしてないよ。それよりもすまない。助けてもらったようで」
御礼を言うと、おっさんは笑いながら。
「お互い様だ。それに店長がケガでもして、あの店が休みにでもなったら一大事だからな。もし、その原因があいつらと分かった日には、この店の常連に殺されちまうんじゃないか?」
そんな物騒なことを言う。俺は深く突っ込まずに礼だけ言って別れることにする。
おっさんもじゃあな、と手を挙げて帰っていった。
それを見ながら、これまで店の常連客とは最低限の会話しかしていなかったけれど(美坂たち、ほかのメンバーは結構話をしているみたいだが)、これからはもう少し話をしてみるかな、と思った。
(……それに。)
あっちの世界が少し懐かしくもなった。向こうでも冒険者ギルドなんかにはじめて行くとあんな感じのおっさんがどこからかやってきて、世話を焼いてくれたものだった。
……まあ、こっちに帰ってきてまで、そんなおっさんがいるとは思わなかったが。
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