10話 店長ですから
どうぞ
どうやら、モンスターはまだ倒されず、かなりこのコンビニに近づいたみたいで、時々、その全体の姿が見えた。
成人男性の背丈の二倍はあるそれを、止水はキマイラとか言っていたか。神話に出てくるんだったよな、たしか。
「なあ、美坂。キマイラってどんなだ?」
レジ前で立っていた彼女はこちらをチラッと顔を向け、訝しげに見た後。
「あんなでしょ」
と、店の外を見ながらそう言う。
「いやいや、俺が言いたいのは神話に出てくる方だ」
そう言うと彼女は納得した様子で。
「てっきり目が見えなくなったのかと心配しましたよ~。神話のですか? 見たことないですけど、頭が獅子と山羊で、尻尾が蛇でしたっけ? まさしく、あれはキマイラですよね」
そんな軽口を叩く美坂から視線を外し、店の外にやる。
たしかに外に見えるモンスターは今聞いたキマイラそのものだった。
そのモンスターの前、探索者の先頭に立った貴崎が大きな剣を振るうのが見えた。
危なくは無さそうだか、かといって、決定打も決められる状況ではなさそうだった。
周りの支援が上手くいっていないんだろうか。
止水も弓でサポートしているが、パーティーとは勝手が違うんだろう。他の魔法や矢に邪魔されて上手くいっていないようだった。
うーん、あの位置であれば、店の前からでも届くか?
出て行こうとする俺に美坂が声をかける。
「店長、どこ行くんですか?」
「ちょっと見てくる」
「はしゃいで怪我しないでくださいよ」
俺は背中越しに手を振り、店の外に向かった。
◇
コンビニの外に出て、少し先で繰り広げられる戦いにじっと目を向ける。
その時、止水がこちらに目を向けたので、軽く手を振る。
遠目ではあるが、びきっと、彼女の額に怒りの筋が浮かんだような気がした。
すると、さっとその場から抜けて、こちらに走ってきた。それはもうムッとした顔で。
「おにいさん! 何してるんですか!」
怒られる俺。
「ちょっと様子を見にな」
「様子を見に、じゃないですよ。さっさと逃げてください!」
俺はまあまあと手で抑えるようなジェスチャーをしながら。
「なかなか連携が上手くいってないみたいだな」
それを聞いた彼女はすぐには逃げそうにない俺に諦めたのか、ため息をついた後。
「そうですね。ここにいるメンバーだと負けることはないでしょうが、あのクラスが相手だと普通は事前に作戦を決めていたり、気心の知れたパーティーで挑むんで……」
「……そうか」
「あの、だから逃げてください。おにいさん達が生きていれば、またお店はできると思うので」
「そうか」
申し訳なさそうにする彼女に一言返事する。
仕方がない、店を潰されるわけにはいかないので、少し俯き加減の止水に声をかけることにする。
どうやらメンバの実力的には不足はないようだから、奥の手までは出さなくても良いだろう。
「あー、止水」
「え? えと、なんですか?」
「その弓、貸してもらえんか? まあ、支援はそれなりに得意なんでな」
そう言って止水の弓を指差した。
「はあ?」
目を丸く見開いて俺を見る彼女を気にせずに、さっさとよこせと手を前に出す。
まあ、こう見えても魔王討伐の元勇者。自分の店が危ないとなれば手を出すしかない。
しかも、今回は弓での支援、俺の役割だったのだから。
「な、何言ってるんですか! 頭おかしいんですか!」
「止水。俺は冷静だ。いいからそれを貸してくれ」
目をつり上げて睨み付ける止水。
少し睨まれた後に、少し冷静になったのか。
「……分かりました。一回だけです。弓を引けなければすぐに返してください。まあ、普通の人に引けるとは思いませんけどね」
そう言って、弓と矢を貸してくれる。
さて、それじゃやるか、店を守るために。
今はGWの終わりの始まり




