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レイドの覚悟⑩

「くっ!!」

「ちぃっ!!」


 マ・リダの脇腹あたりから伸びている幾つかの手の口から火炎と電撃のブレスが放たれるたびに、俺は攻撃魔法(ファイアーボール)を打ち込むことで僅かに速度を鈍らせてその隙に脇へ飛んで射線から逃れる。

 しかしその間に魔獣は後ろに軽く飛び退っていて、剣が届かない距離へと到達してしまう。

 再度、剣を構えながら飛び掛かろうとするがまたしてもマ・リダはブレスを吐きつつ後退を繰り返す。


(くそっ!! 完全に警戒されてるっ!!)


 ブレスなどの中距離攻撃で攻撃とけん制を繰り返しながら剣が届かない距離を保ち続ける……マ・リダは単純だが非常に厄介な戦い方を仕掛けてくる。

 何せこちらは剣が届かなければ魔獣の頑丈な皮膚に傷をつけることは敵わないのだが、それに対して向こうのブレスや魔法は一発でも当てることが出来ればそれだけで俺に致命的なダメージを与えることができるのだ。

 だから向こうの攻撃が当たらないように躱す必要がある俺は、どうしてもまっすぐ距離を詰めることが出来ずにいた。


(魔法なら届くけどあいつの皮膚に傷はつけられない……だからと言っていつもみたいに下手に剣を投合しようものなら……)


 マ・リダを睨みつける俺を向こうもまたまっすぐ睨み返してくる。

 その顔に焦りや苛立ちこそあるが、冷静さは全く失われているように見えない。

 

(こんな風に警戒されてたら、剣を投げつけたところで弾かれるだけだっ!! 何よりそれで行動不能まで持ち込めなかったらこいつは剣を失った俺にまっすぐ飛び掛かってくるはずだっ!! そうなったら……くそっ!!)


 こちらの決め手が剣しかないために、今までと違い冷静に立ち回れる魔獣を相手にするとこうも打つ手がなくなるのかと自らの不甲斐なさに歯がゆさを覚える俺。

 しかしそれはマ・リダもな同じようで、その表情に余裕の笑みはすでになく、この膠着状態に苦々しげにしている。

 尤も向こうからすれば、俺とは逆に有効打が幾らでもあるのに仕留めきれない事実に苛立っているだけかもしれない。


(このまま同じことを繰り返していればいずれどちらかの魔力が先に尽きて状況が傾き始めるはずだ……だけどそれが俺の方だったら……それに万が一にも何かの間違いで向こうの攻撃がまぐれ当たりでもしようものならお終いだ……その前に何か考えないとっ!!)


 そう思いながら休むことなく攻め立てようとして、またしてもブレスを吐かれながら後退されてしまう。

 さっと当たり前のように躱して見せるとマ・リダは一層顔をしかめて見せる。

 しかし実のところこちらは絶対に攻撃が当たらないよう細心の注意を払い、精神を集中させて回避しているのだ。


 内心抱えている重圧と疲労は凄まじい物がある……はっきり言って、いつまでもこんな紙一重の戦闘を成立させ続ける自信は余り無かった。


(これじゃあ先に俺の集中力が切れて攻撃が直撃するかもしれないっ!! くそっ!! 最初は壁際に押し込んでそこから一気にって思ってたのに……こいつ背中に目でもあるみたいに一度も振り返らず逃げる方向をちゃんと選んでやがるっ!!)


 今までの単純な魔獣達とは違い、マ・リダは戦闘経験こそ少ないようだが戦い方はしっかり熟知しているようだ。

 こうなると素の能力の差を覆すのが非常にきつくなってくる……それでも俺は諦めず状況を確認しながら次の一手を考え続けていた。

 現在俺たちは三体の魔獣を仕留めた通路から出入り口のある広間へと戻り、更に奥にある階段へと近づいていた。


(本当は反対側の通路の端まで追い詰めてやるつもりだったんだが……こうなったらあの階段の段差を利用して……もしくは向こうからこちらに攻めたてるつもりにさせることが出来れば……っ)


 とにかくこの剣が届く範囲に近づかなければ話にもならない。

 だからそのために俺は幾つか策を練りながら攻め立てて、何とか階段の方へと追い込みながら口を開いた。


「どうしたっ!! 攻めてこないのかっ!! 流石は仲間を見殺しにするだけあって臆病な奴だなお前はっ!!」

「よく言いますよっ!! 殺した張本人がっ!! それにそんな雑な挑発に乗るわけがないでしょうっ!!」

「はっ!! 雑も何も事実だろっ!! 最初にお前が仲間と一緒に前に出てくればとっくに俺なんか倒せてたはずなのになっ!!」


 あっさりと挑発は看破されてしまうが、あえて鼻で笑い飛ばしながら言葉を続ける。

 こうして口を動かすだけなら大した労力にもならない上に、これで万が一にも引っかかって攻めてきてくれれば御の字だ

 それともう一つ、俺が階段へと誘導してあることを目論んでいるのに気づかれないようにする意味もあった。


(悪口とか、余りこういうのは得意じゃないけど……とにかく事実を突っついて少しでも苛立つように仕向けてやるっ!!)


 実際にもしもこいつが仲間の魔獣達が居る時に、自ら前に進み出てきたら戦況は全く違いものになっていただろう。


「腐ってもお前がリーダーなんだろっ!? そんなお前が怖気づいているあいつらの前に立って進んで攻め立てれば心強く感じて俺の一挙動一挙動に怯えて隙を晒すような真似はしなかっただろうよっ!!」

「勝手なことをほざくなっ!! どうせお前のことだから私が前に出たら出たで戦い方を変えてくるだけでしょうっ!!」

「そうさっ!! その時はあんな風に一気に片付けることが出来ず慎重に立ち回るしかなかったさっ!! 本当に助かったよっ!! お前が自分の命大事さに前に出てこない臆病者でさっ!! おかげで厄介な魔獣共をあっさり全員始末できて助かったよっ!! 冷静に立ち回られたら一対一ですらこうなんだからあのまま複数体相手にしてたら今頃俺はとっくに死んでたよっ!! せっかくあんな有利な状況だったのに生かすことも出来ず、それどころかお前みたいな戦い慣れしていない上司の下手糞な指示で混乱して死ぬ羽目になった奴らは可哀そうだなっ!!」

「うるさいですよっ!! 黙りなさいっ!! 何度も言いますがそんな挑発には乗りませんよっ!!」


 口外に上に立つものとして失格だと嘲笑ってやるが、マ・リダは怒りこそ露わにするがやはり前に出てくることはなかった。


(ちっ!! まあこのぐらいで前に出てくるぐらいなら、それこそ他の奴らと一緒に前に出てきてるはずだもんな……唯一魔法が使えるから遠距離攻撃に徹したのか、司令塔のつもりでいたから全体を見通せる後方に居たのか……自分が偉い立場だから下っ端を利用したのか、それとも本当に命が惜しかったのかは分からないが……)


 どんな理由にしても仲間たちの行動を御しきれず、また守ることも出来ず失ったこいつは戦場を取り仕切る部隊長としては失格ものだ。

 おかげでこうして一対一に持ち込めたわけだが、こう考えるとこの国を支配しようとする奴らの中にもまともな経験を積んでいる人材はいなかったようだ。


(てっきり国を乗っ取るというか支配するぐらいだから能力の高い奴を派遣して固めてくるとばかり思ってたけど、唯一まともなのはこのマ・リダぐらい……そいつにしても冷静に立ち回ってはいるし、部下に重圧をかけて指示を飛ばせる立場でもあるみたいだけど……多分本来は戦闘面じゃなくて別の取り仕切りを担当してる奴みたいだな……しかしそうなると本格的に戦闘能力に優れている奴は一体どこに?)


 魔獣の大本となっている貧民街出身の人間たちは、基本的に才能がなくろくな教育も受けれていない人達だった。

 だから大部分の魔獣が後付けされた能力に頼り切りなのはわかるが、それでもその後にドーガ帝国内を襲った際にBからAランクの冒険者やそれに匹敵する実力のあるあの国の正規兵を素材に魔獣を作っているはずだ。

 魔獣になった際にどの程度人間だった頃の記憶が引継がれるのかは分からないけれど、それでも目の前にいるマ・リダ以上に戦い慣れしている個体が居ないはずはない。


(だけどここにも派遣されていないってことはそいつらは言うことを聞かないとか……いやでもそれならドーガ帝国内で大量にかっさらって人員を確保したりしないよな……多分何かしらで言うことを聞かせる方法はあるんだろうな……だけどなら一体そいつらはどこに配属されてるんだ? 一つの国を占拠する以上に大切な用事なんか……って今はそんなことを考えている場合じゃないだろっ!!)


 マ・リダの様子から思わず余計な思考をしてしまいそうになった自分を叱咤する。

 今は命がけで戦っている真っ最中なのだ……関係のないことを考えて集中力を切らせたらそれこそお終いだ。


(とにかくマ・リダを倒すことだけを考えないと……階段まであと僅か……攻撃を避けたタイミングで仕掛けるっ!!)


「ははっ!! 俺はただ感じたことを正直に言ってるだけだぜっ!! それが挑発に聞こえるってことは自分でもそう思ってるんだろっ!! 無駄に部下を見殺しにした無能だってさっ!!」

「っ!? わ、私は無能ではないっ!! 私こそが頂点に立つにふさわしい存在なのだっ!! 他のリダ達よりも魔術師協会や錬金術師連盟の奴らよりもっ!! この力がその証拠だっ!! 体内に巡る我が魔力よ、雷の矢となりて我が敵を貫け……ライトニングボルトっ!!」

「くぅぅっ!? ファイアーボールっ!! ファイアーボールっ!! ファイアーボールっ!!」


 そこで不意に俺の発した無能と言う言葉が何かの癇に障ったようで、急に激高したように叫びながら魔獣はわき腹から生える手の口からブレスを吐きながら呪文を紡ぎ本来の腕から魔法を同時に放ってくる。

 凄まじい勢いと威力を伴って広範囲を埋め尽くす魔法とブレスによる過剰攻撃を前に、俺は無詠唱で魔法を連続して放ちながら咄嗟にその場を飛び退いた。

 そんな俺の抵抗を無視するかのようにこちらの攻撃魔法をあっさりと飲み込んだマ・リダの攻撃だが、それでも僅かに勢いが鈍る。


 その隙に何とか攻撃範囲から逃れることに成功して一息つこうとした、そこへ更にマ・リダの声が聞こえてくる。


「はぁあああっ!! 体内に巡る我が魔力よ、今こそ我が意志に従いこの手に集えっ!!」

「なっ!!?」


 先ほどの攻撃が収まらないうちに二発目の呪文を唱え始めたマ・リダだが、今回は未だに収まらないブレス攻撃が煙幕となり向こうがどこを狙っているかが分からない。

 しかもいつもより詠唱を長々と唱えることでより多くの魔力を練り上げ始めている……つまりこれから放たれる一撃は今まで以上の威力を持って襲い来るはずだ。


(くぅっ!? こ、これは不味いっ!! だけどこれなら向こうもこっちの動きは分からないはずだっ!! ならば階段まで行かなくてもここで仕掛けられるっ!! 躱しながら今のうちに仕込みを……っ!!)


「そしてその性質を変じさせ敵を穿つ雷の矢となりて我が敵を貫け……ライトニングボルトっ!!」

「っ!!?」

  

 向こうの隙をつくために新しい魔法を無詠唱で発動していた俺の耳に、詠唱が終わり魔法が完成した合図が聞こえてきた。

 しかしその前に俺は反射的に剣を軽く上空へと放り投げ、ブレスの届かない位置から曇りない刀身の反射を利用して向こうの魔法がどの位置を狙って放たれているのか確認することに成功した。

 駄目で元々ぐらいのつもりで、最悪は勘で回避するつもりだった俺だが即座に魔法を回避すべく床を蹴った。


 次の瞬間、ブレスの煙幕の向こう側から俺の全身を包み込むほどの電流が放たれた。

 ギリギリのところで躱し切った俺の目の前で、マ・リダが放った魔法はその背後にある何もかもを貫通して一瞬で消し炭に変えていった。


(あ、アブねぇえっ!! こんなの当たってたら即死だっ!! 何よりさっきまでよりずっと威力が高いっ!! 本気で切れて全力で魔力を乗せてきたのかっ!?)


 何だかんだで今までは俺を魔獣に仕立て上げるためか原型が残る程度の威力の攻撃しかしてこなかった。

 しかし俺の挑発を受けて本気で怒りを覚えたらしいマ・リダは、本気で仕留めにかかってきたようだ。


(もしも最初からこの一撃を使われてたらどうなってたか……それこそ通路に隠れた俺をうち貫けたな……手加減してやがったってことか……だけどお陰で手の内は見えたっ!! 何より挑発に乗って激高している時点で俺の狙い通りなんだよっ!!)


 落下してきた剣を回収しつつ、こちらに迫ってくるブレスを確認してほくそ笑む俺。


(俺に魔法が当たったかどうかも分からないから、念のためブレスを吐きながら近づいて来てやがるのか……ふふ……さっきまでの俺から目を離そうとしないで警戒していたのが嘘見たいだな……これなら確実に行けるっ!!)


「どうだっ!! 私の凄さを理解したかっ!! これが私の力だっ!! 才能だっ!! 誰にも見下させるものかっ!! 私がっ!! 私こそが……っ!?」 

「……凍れ」


 自慢とも怒りともつかぬ叫びをあげながら、ブレスを止めることなく前に進み出たマ・リダはもちろん周りの確認が疎かになっていた。

 当然足元も……だから俺が先ほど無詠唱で放っておいた攻撃魔法(ウォーターショット)で床がびっしょりと濡れていることにも気付くことはなかった。

 その濡れている床をマ・リダが進み始めたタイミングで、俺は魔力を遠隔で流しその性質を変化させて凍り付かせた。


(よしっ!! できたっ!! 前にマナさんがやってたのを見てやれるとは思ってたけど……さあて不用意に踏み込んだ地面が凍り付いてたら……どうなるかなぁマ・リダ君よぉっ!!)


「な、何……うわぁっ!?」

「っ!!」


 狙い通り凍り付いた床に足を滑らせたマ・リダはバランスを崩し、あっさりとその場に転倒しそうになる。

 反射的にブレスを止めて、全ての手を利用して床に伸ばし頭を打つのを避けようとするマ・リダ……しかしその姿は隙だらけだ。


(これならブレスも使えないっ!! 魔法もだっ!! こんな隙を逃す手はないっ!!)


「はぁああっ!!」


 そこで俺自身が足を取られないよう凍り付いた水を元の液体に戻しながら、俺は全力で床を蹴りマ・リダの元へと迫る。


「ちぃいいっ!!」


 俺が近づく物音に気付いたマ・リダは、咄嗟に床に付こうとした手を逆に拳にして叩きつけることで反動を利用してその場を離れようとする。

 しかし急な状況で力を込めきれなかったのか、後ろに跳ね飛びながらもその勢いは大したことはなかった。


(これなら問題なく追いつけるっ!! やれるっ!!)


「これで終わ……っ!?」

「舐めるなぁあああっ!!」


 そう思った俺の前でマ・リダは背中から生える翼を蠢かせて強引に浮かび上がった。

 そして無理やり空中で体勢を立て直すと、わき腹から生えている手をこちらに向けてブレスを吐こうとしてきた。


(避け……いや今飛び掛かれば切りつけることができるっ!! こんな絶好の機会を逃せるかっ!!)


 ここで安全を取って引こうものなら、こいつは俺を完全に警戒してもう二度と俺を近づかせたりはしないだろう。

 こんな搦め手も挑発も次からは通じないであろうし、下手をしたら一方的に攻撃を喰らう羽目になる。


(多分もう逃がしてもくれない……ここで決めないと俺の負けだっ!!)


「死ねぇええええっ!!」

「はぁあああああっ!!」


 殺意を込めて俺を睨みつけ掌からブレスを放つ魔獣に向かい、俺は決死の覚悟を抱きながら全力で飛び込んだ。

 そしてこちらに伸ばす掌をブレスが届く寸前に切り捨てることに成功すると、そのままマ・リダの首を狙って剣を振り抜く。


「がぁああっ!?」

「ちぃっ!!」


 しかし向こうも必死で翼をはためかせ身体と首をひねることで攻撃を躱して見せた。

 それでも背中に生えている翼の中で、一番大きく飛行能力の大半を占めているであろうものを切り裂いた。

 だけどその時点で空中に居る俺の身体は伸び切って隙だらけとなる。


「がぁああああっ!!」

「く……がはぁっ!!」


 そこへ残る翼を動員して無理やり滞空時間を伸ばしたマ・リダが残った手を統べて握りしめて俺に向かい思いっきり振り下ろした。

 人間をはるかに超える怪力を持つ魔獣の一撃は俺の身体を猛烈な勢いで地面に叩きつけた。

 それでも最後の抵抗とばかりに地面に向けて無詠唱で攻撃魔法(ファイアーボール)を放ち、衝撃を和らげながら即死だけは避けようと左手と両足から床へとぶつかっていく。


「っっっ!!?」


 そんな俺の抵抗をあざ笑うかのように目の前が真っ白になるような痛みが走り、すぐに全身から感覚が消え失せていく。

 下手したら全身の骨が折れているのかもしれない……特に最初にぶつかった両足と左手は特に酷くて、ぐしゃぐしゃになって完全に押しつぶされてしまっている。

 それほどの文字通り指一本動かせないほどの苦痛に苛まれながらも、意識を保てたのはある意味奇跡だった。


(ぐぐっ……い、いや即死しなかったのが既に……お、おかげでさっきの立ち回りの中で念のために発動しておいたエリアヒールが傷を……だけどこんなの癒えるのにどれだけの時間が……くぅっ!!)


 既にろくに動くことも出来ない状態の中、それでも右手に保持してあった剣を持ち上げようとしたところでマ・リダが床にぶつかる音が聞こえてきた。


「がぁああっ!! くそっ!! よくも……よくもぉおおおっ!!」

「くっ……」


 すぐにマ・リダの怒りと屈辱に燃える叫びが聞こえて来る。

 痛みに震える身体を強引に捻り……それでもかなりの時間をかけて何とかそちらを確認すれば切り裂かれた部分を押さえて蹲るマ・リダの姿が確認できた。

 向こうも自動修復機能により回復は始まっているようだが、すぐにその傷が癒えることはないだろう。


(だけど向こうの傷は翼と後付けした腕だけ……本来の四肢は健在だ……くそっ!!)


「やってくれたなお前ぇええっ!! ええっ!? よくぞここまで私の身体を傷つけたものですねぇえっ!!」

「……っ」


 こちらを血走った目で睨みつけながら近づいてくるマ・リダの歩みは力強く、まだまだ戦闘可能であることがはっきりとわかってしまう。

 それに対してこちらは右手で剣を握っているのが精いっぱい……魔法は使えなくはないだろうが、俺ごときの魔法では魔獣には良くて掠り傷を付けるのが限界だ。


(最悪だ……これはもう……いや、諦めるな……仮に勝ち目が零に近くても、死ぬ寸前で……それこそ最後まであきらめず考え続けろっ!!)


 痛みに悶えながらも俺はマ・リダをまっすぐ睨み返し、ろくに体も動かない絶望的なこの状況でどう立ち向かうべきか必死に考えるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] リダは、日記の著者だと思っていたけれど。だから無能という言葉に過剰反応したと。彼は、錬金術師協会に属していたと思ったけれど、魔法能力もかなり高かったのかなあ。 さて、絶体絶命に近い状態だけ…
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