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レイドと最後の決断⑲

 アンリも部屋に戻った後からは、他国からやってくる外交官との会談が始まる。

 尤も話の内容は大抵が魔獣の管理に関わることであり、たまに結婚の予定などを聞かれるぐらいだ。


(そりゃあ俺たちの国は魔獣事件の被害で復興中の各国と比べて遥かに景気が良くて、おまけに軍事力もトップクラス……どうにかして縁を結んで後ろ盾にしておきたい気持ちはわからなくもないけど……だからって政略結婚を進められても困るんだよなぁ……)


 仮にも国王の座にある俺が独身だからと、どうにかしてそっちの話へと持って行こうとする外交官たちをごまかすのは中々骨が折れるものがある。

 それでも今日もまた何とか乗り越えた俺は最後の外交官が部屋を出て行ったところで、ため息をついて崩れ落ちそうになった。


「はぁ……つ、疲れたぁ……けど何とか乗り越えたぞぉ……」


 椅子に腰を下ろし身体を机に突っ伏しながらもなんとか一仕事終えられたことに安堵した。

 一番厄介な他国からの来客を出迎える仕事を終わらせることができたのだ……尤もまだもう一組残っているものの、これは今まで以上に気を抜いていても問題の無い相手だ。

 そしてそれが終われば、後は適当に書類の処理か国内の見回りと称して息抜きに散歩して過ごせばいいのだ。


(どっちにするかなぁ……まああの子達とあってから決めれば……おっ!?)


 そこでドアの外からドタドタと足音が聞こえたかと思うと、ドアがゴンゴンと激しくノックされてすぐに勢いよく開かれた。


「しつれーしますっ!! レイドお兄ちゃん居ますかっ!?」

「やあ、いらっしゃいドラコちゃ……おおっとぉっ!?」


 果たして姿を見せた可愛らしいドレスに身を包んでいるドラコは、俺を見るなり走り寄ってきて飛びついてきた。

 咄嗟に抱き留めてあげるとドラコは俺の腕の中で人懐っこい笑顔を浮かべて顔を摺り寄せようとしてくる。


「えへへ~、レイドお兄ちゃぁ~ん」

「よしよし……ドラコちゃんは今日も元気だねぇ……だけど頬擦りはしなくていいからねぇ……」

「えぇ~? でもエメラはこーするとわんわん吠えて喜ぶんだよぉ? してあげないとクゥンクゥン言って悲しむんだよぉ?」

「……あの人を基準にするのは止めようねぇ……はぁ……」


(本格的に困った人だなぁエメラさんは……しかしドラコちゃんは会うたび、どんどん元気になってきてるなぁ……)


 これが成長なのか、或いは魔獣事件で受けた心の傷が癒えている証拠なのかはわからないが良い傾向なのは間違いない。

 だからそんな無邪気に微笑むドラコを笑って受け止めてあげながら、ふと開かれっぱなしのドアを見てそこに誰もいないことに気付いた。


「あれ? 今日は他の子達はどうしたの? ドラコ一人?」

「ふふ、ドラコっ子ちゃん達とドランコちゃん達はパパドラさんと共にエメラさんの元へ向かいましたよ」

「ル・リダさん、お久しぶりです……そうですかエメラさんのところへ……」

「ええ、最近エメラと遊んでないから早く会いたかったみたいで……改めまして、お久しぶりですレイド様」


 疑問を口にしたところで遅れてドアの向こうから顔を覗かせて来たル・リダが答え、頭を下げながらドアを閉めて中へと入ってくる。

 そんな彼女の姿は成熟したドラコを思わせる見た目であり、ル・リダに気付いたドラコが俺から離れてそちらに飛びつくとまるで姉妹がじゃれているようにしか見えなかった。


(最初は違和感があったけど、こうしてみるとお似合いというかピッタリな外見というか……良い感じだよなぁ……)


 これは魔獣の能力というよりも合成されてしまったドラゴンの力を利用して化けているらしいが、もうル・リダさんは常日頃からずっとこの姿で過ごしていた。

 魔界で他のドラゴンの子供達の面倒を見るに当たって……また人間社会に関わって生きていくうえでも魔獣の姿を取っていては周りに嫌な思いをさせるだけだろうと判断してのことだった。

 その際に当時化けていたマリアの姿になる案もあったらしいが、それだとやはり周りに余計な刺激を与えてしまうし、何よりドラゴン達と暮らすならその子達と同じような見た目の方が良いに決まっている。


 それで現在の姿を取るようになったのだが、ドラコの態度からするにパパドラ以外からはそれなりに好評のようだ。


「ル・リダお姉ちゃん抱っこぉ~っ!! それでナデナデしてぇ~っ!!」

「はいはい、よしよし……ふふふ、本当にドラコちゃんは可愛いですねぇ……はぁぁ……幸せぇ……」

「エメラさんもでしたがル・リダさんも変わりませんねぇ……」


 ドラコにせがまれるままに抱き上げて頭を撫でてあげたル・リダは、それだけでうっとりと顔を緩ませてしまう。

 尤もこれで満足できる辺りがエメラとの違いなのだろう……そしてそれがペット扱いされるか年上のお姉さんとして尊敬されるかの差なのだろう。


「だってぇ……ドラコちゃんも他の子達もみんなみんな可愛くて仕方がないんですよぉ……そんな可愛くて健気でキュートな良い子達が私のことをお姉ちゃんて慕ってくれるんですよぉ……誰だってこうなって当然じゃないですかぁ……」

「えへへ~、ありがとール・リダお姉ちゃんっ!! ル・リダお姉ちゃんも可愛いよっ!! 私のそんけーする理想のお姉ちゃんだもんっ!!」

「はぅぅっ!! そ、そんな嬉しいこと言われたらお姉ちゃんまたチュッチュゲーム……はっ!?」

「……聞かなかったことにしますが、それでパパドラさんと良くうまくやって行けてますねぇ」


 一瞬怪しげな単語を呟いたル・リダだが、何とか自発的に理性を取り戻し慌てて口を噤んで見せる。

 やはりエメラよりマシだがこの性格だけはなかなか治りきらないようだ。


「そ、それはまあ……その……パパドラさんはエメラさんの監視で忙しいので……」

「そうだよぉ……おとーさん、最近はエメラとずっと一緒にお外で遊んでてズルいんだよぉ……あんなお胸が大きくてどこを弄っても面白い反応しか返さないエメラを独占しちゃってズルいんだぁ……レイドお兄ちゃんからもズルいって叱ってやってよぉ」

「そ、それはちょっと難しいなぁ……けどそうなんだ……あのパパドラさんがねぇ……」


 むぅっと膨れながら俺に無理難題をお願いしてくるドラコだが、それとは別にパパドラの現状を知って少し驚いてしまう。


(あのパパドラさんが子供たちの残ってる魔界から出てエメラさんに付いて回ってるなんてなぁ……ちょっとびっくりというか想像できないというか……何がどうなってるんだか……)


 疑問の余り首を傾げそうになる俺を見て、ル・リダがやはり苦笑したまま口を開いてきた。


「ええ、実はそうなんですよ……何だかんだで魔界の守りはドドドラゴンちゃんがいれば基本的に問題はありませんし、子供たちのお世話に関してはドラコちゃんがお姉ちゃんとして頑張ってくれていますから……」

「そうだよレイドお兄ちゃんっ!! 私ねこれでも年長さんとして皆のおねーさんしてるんだよっ!! 凄いでしょっ!!」

「ふふ、そっか……凄いし偉いね……良い子良い子……」

「本当に良い子ですよドラコちゃんは……それに他の子達も手の掛からない良い子ばっかりで……ありがたい限りですよ……」


 俺たち二人から頭を撫でられて嬉しそうに満面の笑みを浮かべるドラコだが、実際にこの子は他の子達の模範となるべく頑張っている。

 おかげでかどうかは知らないが、今ではドドドラゴンも含めて他の子達はドラコの指示には素直に従って動くほどなのだ。

 恐らく何れドラコが成長した折にはこの子がドラゴンの長になることは間違いないだろう。


「えっへんっ!! 私ル・リダお姉ちゃんを見習って頑張ってるもんっ!! それにねレイドお兄ちゃんっ!! ル・リダお姉ちゃんはもっと凄いんだよっ!! 背中の手を使ってね、皆をあやしたり寝かしつけたり食事を用意したりしてくれるのっ!! おとーさんよりずっと上手に皆のお世話をしてくれるから皆も物凄く懐いてるのっ!!」

「そ、そんなことないと思うけど……と、とにかくそう言うことでパパドラさんは私たちを信頼して魔界を任せてくれていて……逆にエメラさんだけは信頼できないと……他所で同じような真似をしないようにって付きっ切りで監視を……」

「うぅん……あの人嫌いでプライドの高いパパドラさんにそんな真似をさせるとは……逆の意味で凄いなエメラさん……道理であんなに飢えていたわけだ……」


 常日頃から傍にパパドラが居てプレッシャーをかけているとなれば、流石のエメラでも暴走し様がないという物だ。


(というか今もドラコっ子やドランコ達に囲まれた状態でパパドラさんに監視を受けてるんだよな……地獄だろうなぁエメラさん……まさか理性の限界を迎えてパパドラさんの目の前で手を出そうとしないよな……?)


「おとーさんは過保護すぎるのぉ……あれぐらいへーきなのにぃ……この間なんてちょっとお腹が減り過ぎたエメラが私の穿いてるパンツをパンと間違えて口に含みそうになっただけなのに凄く怒ってさぁ……涙目で正座させられて可哀そうだったよぉ」

「……お兄ちゃんは全面的にパパドラさんが正しいと思うけどなぁ」

「あ、あはは……この前会った時も大根と間違えたって言って太ももを齧ろうとして説教されてたんですけどねぇ……本当に懲りないというかなんというか……」

「うぅん……やっぱり問題しかないわあの人……というか良くパパドラさんに殺されないでいるなぁ……」

「ええ、本当に……で、ですが意外とあれでも普段は仲良くしているみたいですよっ!!」


 思わずぼやいてしまった俺の言葉を聞いたル・リダは反射的に頷きかけて、慌てて言いつくろった。


「いやぁ、それはちょっと無理がありませんかぁ?」

「ほ、本当なんですよぉ……前なんか急いでいる様子のエメラさんを文句言いつつも背中に乗せてあげていたぐらいで……」

「へぇ……あのパパドラさんが……俺ですら魔王を倒してから一度も載せてもらってないのに……」


 尤も頼んでみたことがないから本当は俺でも乗せてくれるのかもしれないが……少なくともあのパパドラのことだから嫌っている人間を乗せたりはしないだろう。

 そう思うと案外本当に仲良くやっているのかもしれない……が、やっぱり全く納得できなかった。


「何だかんだでエメラさんは素敵な方ですから……話していて面白いですし、何より私なんかにも優しく接してくれて……仮にも恩師の敵にも等しい存在だというのに……」

「ル・リダお姉ちゃん……それ言うの禁止だよぉ? エメラにも言われたでしょ?」


 そこで申し訳なさそうに呟いたル・リダを見て、ドラコが気遣うように呟いた。


「そうですよル・リダさん……もうそれは言いっこ無しですよ……何よりエメラさん本人が望んでませんから……」

「……ごめんなさい……分かってはいるのですが……」


 俺達に対して頭を下げるル・リダ……どうしても罪悪感はなかなか消えてはくれないようだ。

 

(まあ仕方ないよな……むしろエメラさんと仲良くやれているからこそ余計にこのことは気にしちゃうんだろうなぁ……)


 魔王を倒した後ですぐに魔界へ移住しドラゴンの子供達の面倒を見始めたル・リダだが、癒しを求めてちょくちょく尋ねて来るエメラとは何度も接する機会があった。

 そしてその中でマリアに関することも話し合い、ル・リダの持っている記憶をできる限り伝えた上で謝罪して処罰を願ったこともあった。

 しかしエメラは儚く微笑みながらマリアならそんなことは望まないと言い、何より実際に手を下したわけでもないル・リダには何の責任も無いと言い切ってくれた。


 その上で自分にとって……またマリアにとっても愛おしい存在であるドラコちゃん達を守ってくれたことを感謝してみせた。


(そう言うところは強い人だし尊敬できると思う……だけどそれ以外なぁ……)


「それよりル・リダさん……まさかまたドラコっ子達に変な服装着せて楽しんだりしてませんよね?」

「えっ!? い、いやですねぇレイド様ぁ……わ、私がそんな真似するわけないじゃないですかぁ……」


 この場の空気を換えようとあえてそんな話題を振って見たが、途端にル・リダは言葉に詰まりながら目を泳がせ始めた。


(あ、怪しい……何せこの人前例があるからなぁ……)


 少し前に鱗の生え代わり時期だとかで肌が柔らかくなり人間でいう大切な部分が丸見えになってしまった子が出てきた。

 その際にル・リダは肌が敏感になっているからという名目で、エメラが持ってきた傷口を保護するテープとやらで大事な場所だけを隠した状態で過ごさせようとしたことがあったのだ。


(あの時期は妙にエメラさんもル・リダさんもニコニコしてて、たまに会うといつも涎を垂らしながら楽しそうに会話してたからなぁ……変だとは思ったんだけど……)


「うぅん、およーふくのことはよくわからないけどル・リダお姉ちゃんはちゃんとエメラが持ってきてくれた洋服を二人で相談した上で着せてくれてるよぉっ!! それでいっつも二人して鼻血とか涎とか出してハイタッチしながら上から下までほつれが無いか丹念に観察してくれて……」

「……何か言うことありますかル・リダさん?」

「ご、ごめんなさぁああいっ!! で、ですがエメラさんがあんな魅惑的な衣装を持ってくるからっ!! そ、それに毎回耳元でそれを着たドラコちゃんの可愛さを口説いてくるんですよっ!! 耐えられるわけないじゃないですかぁっ!!」


 何故か途中から逆切れ気味に叫び出すル・リダ……そんな彼女の様子に少しだけ眩暈がしてくる気がした。


(や、やっぱり類友じゃないかぁ……まあエメラさんと仲良くしてるみたいなのはいいけど……はぁ……本当に魔界をこの人に任せておいて大丈夫かなぁ……何か不安になってきたぞぉ……)


 一応魔界とこの国は転移魔法陣で繋がっているのでいざとなれば様子を見に行くことも可能だが……もっとこの国の経営が安定したら、そっちもパトロールした方が良いのかもしれない。


「……パパドラさんにバレても知りませんよ」

「はぅぅっ!? そ、それは……うぅ……き、気を付けますぅ……」

「ル・リダお姉ちゃん? 泣いてるの? よしよしいい子いい子ぉ……」


 俺の言葉を聞いて想像してしまったのか、怯えたような声を洩らしたル・リダは涙目になり、それを見たドラコは優しくル・リダの頭を撫でてあげるのだった。


「やれやれ……全く困った人だなぁ……こんなんじゃ今晩の飲み会に参加したら本性がバレて大変なんじゃ……」

「あ……そ、そう言えば聞きましたよ……私達も参加していいみたいですね……ふふ、久しぶりなので楽しませていただこうと思ってます……も、もちろん泥酔して変なところは見せないよう気を付けますから……」

「そーだよぉっ!! 私達もお祭り参加するからねぇっ!! それでレイドお兄ちゃんに口移しでお酒飲ませてあげて、酔っぱらって倒れたらベットに連れて行って一緒に寝て良いんだよねっ!! 私頑張るから前みたいに一緒に寝ようねぇっ!!」

「えっ!? な、何それっ!? お、俺聞いてな……と、というか一緒に寝るってファリス王国の時の話だよねっ!? それはまた意味が違……」











「……どう違う意味なのか詳しく説明してくれまいか……レイド殿ぉ?」

「ぱ、パパドラさんっ!? ど、どうしてここへっ!??」

「ふん、あの馬鹿が貧血で気絶したのだ……放っておいても良いかとも思ったが念のために回復魔法を使える輩を呼び出そうと思い様子を伺いに来たのだが……さて、もう一度詳しく話を聞かせて貰おうではないか……我が娘と共に寝たとはどういう意味なのだレイド殿ぉ?」

「ご、誤解ですパパドラさんっ!! ほ、本当に誤解ですからっ!! ふ、二人からも何とか言っ……っ!?」

「エメラが大変だってっ!! 行こうル・リダお姉ちゃんっ!!」

「あぁ、そんな柔らかい手で握って引っ張られたら私は……す、済みませんレイド様、また後程っ!! 失礼いたしますぅうっ!!」

「ま、待ってぇえええっ!! おねがいだから置いて行かな……ひぃっ!? お、落ち着いてくださいパパドラさぁあああんっ!! マジで誤解なんですよぉおおっ!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にオールスターのグランドフィナーレだなあ。 本性はおなじでも、やはり理性の残り具合でパパドラの扱いも変わってしまうのね/w まあこれで、レイドが少なくとも結婚(多分婚約も)していないこ…
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