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終わりの始まり⑫

「……ということで、余り褒められたやり方ではありませんが転移魔法に詳しいお二人はどう思いますか?」


 早速思いついたことを二人に説明するが、内容がないようなだけに二人は少し顔をしかめてしまう。


「うぅん……それは……確かに上手くいけば……だけど……」

「確かに生き物とは違ってそのやり方なら……しかし私が言うのもなんですが転移魔法をそのような使い方をするのは……」

「気持ちはわかりますし、できれば俺もこんなやり方はしたくありませんが……恐らく現在もアリシアとパパドラさんを二人同時に相手にしてやり合えているあの化け物をどうにかするにはこれしか思い浮かばないのですっ!!」


 向こうから聞こえてくる戦闘音に気持ちが焦り、思わず語尾が強くなってしまう。

 もちろんあの二人がこのまま倒し切ってくれる可能性も無いとは言い切れないし、できればそうなってもらいたい。


(だけどアリシアの攻撃魔法(ファイアーレーザー)やさっきの爆発の直撃を受けてなおピンピンしてる相手だ……何よりヲ・リダさんの見立てが正しければ勝ち目は薄い……)


 しかしこちらの最高戦力であるあの二人掛かりでなお敵わなかった場合、もはや真っ当な手段での討伐は不可能だと断言できる。

 それでも敵わないからと言って戦うことを……仲間たちの命を諦めるわけにはいかなかった。

 その為にはどんな手段であっても躊躇している余裕などないのだ。


「……わかった、レイドの指示なら……だけどどうやってあいつに転移魔法を掛ける?」

「先ほども言いました通り、恐らく直接触れなければとても……しかしあそこまで桁違いの能力を持っている相手では私たちではとても……それこそアリシア殿でもギリギリどうにかなるかだと……無論命がけならまた話は変わるかもしれませんが……」


 そう言って決意を込めた眼差しで俺を見つめてくるヲ・リダ。

 恐らくはル・リダと同じ様に自らの身を犠牲にして、無理やりあいつと共に飛ぶことを考えているのだろう。


「ヲ・リダさん……俺は仲間の犠牲を出さないように勝利するつもりです……余り不穏な考えはなさらないでください……それよりも貴方にはお願いしたいことがあります……向こうにトルテさん達が居ますので、彼らと合流して万が一に備えて非戦闘員と共に避難をお願いします」

「そ、そんなっ!? こ、この状況で私だけ逃げるわけにはっ!!」


 取り乱したように首をふるヲ・リダへ真剣な眼差しで見つめて、俺はあえてリーダーとして命令した。


「駄目です、これはリーダーとしての俺の決定ですから従ってもらいます……マキナ殿が言っていたでしょう、まずは情報を持ち帰ることが大切だと……その為にも転移魔法陣の起動……もしくは再設置できて状況を細かく説明できる方に下がってもらわないと……それには貴方が適任なのです」

「っ!?」


 大きく目を見開くヲ・リダだが、彼も即座に俺の選択が正しいと理解してしまったのかそれ以上言い返してくることはなかった。


(俺は絶対に皆で生きて帰るつもりだけど、相手が相手なんだ……下手に手を出したら全滅の可能性もあるし、そうでなくとも逃走する隙は無くなってしまうかもしれない……その前に後方で待機している人達に情報だけは残さないとっ!!)


 ここでヲ・リダがドラコそっくりな子達を連れてマキナ達の元へ戻れば、恐らく彼女ならばこの子達を傷つけないように研究して向こうの魔法への対策を思いつけるかもしれない。

 そうなればもしも俺たちが全滅してもまだ先に繋がるし、この場で何としても食い止めなければという重圧に押されて無理をしなくても済むはずだ。


「お願いしますヲ・リダさんっ!! これは貴方の役割ですっ!!」

「くっ!! わ、分かりました……で、ですが無理はなさらないでくださいっ!! 私もあの子達を避難させて、マキナ先生に事情を話し次第また戻ってきますからっ!!」

「お気持ちはうれしいですが向こうに付いたらマキナ殿の指示に従って行動してくださいっ!! 頼みましたよっ!!」


 そう言って走り去っていくヲ・リダの背中に改めて指示を出しつつ、俺はこの場に残ったマナと見つめ合い頷き合う。


「行きましょうマナさんっ!! 道中で作戦は説明しますっ!!」

「わかった……何でも言って……何でもやるから……エッチな事もお触りまでならOK……」

「お願いしま……えぇっ!?」

「冗談……ふふ、レイドをからかうと面白い……ミーアの言ってた通り……」


 こんな状況で冗談を飛ばすマナに驚くが、よく見れば楽しそうな声のわりに真剣な面持ちで……その目は俺を気遣うように見つめていた。


(き、緊張を解そうとしてくれたのかな? け、けど滅茶苦茶ビックリしたぁ……まさかマナさんがこんな冗談を言うなんて……というかミーアさん、俺のことなんだと思ってるんですかぁ……)


 *****


 念の為にマナが防御魔法(バリアウィンド)を発動させた状態で、鎧を着ている彼女を盾代わりに使えるよう抱き上げながらアリシア達の元へと向かう俺達。


「ふふ……楽チン……お姫様抱っこも案外悪くない……どこぞのエルフに抱きしめられてる時とは偉い違い……落ち着く……逞しいレイドの腕の中だから?」

「ま、マナさぁん? あ、あのもう緊張はほぐれましたから冗談はそれぐらいにして……」

「もう少しだけ……男の人とこういう接触したことなかったから新鮮……これが最後かも……ううん、何でもない……とにかく向こうに付いたら真面目にやるから……」

「そ、そうですか……それなら別に構いませんけど……」


 作戦を説明している最中もし終わってからも何やら楽しそうに俺を揶揄い続けるマナだが、やはりその瞳には心配そうな様子が見て取れてしまう。


(てっきり俺を気遣ってくれてるのかと思ったけど……いやそれもあるんだろうけど……マナさん自身も怖い、んだな……)


 何せこれから向かう先にはドラゴンをも遥かに上回る力を持った存在が暴れているのだ。

 魔法は非凡でも身体能力は並でしかないマナが、死を身近に感じてしまうのも無理のない話だった。

 だからこうしておどけることで少しでも恐怖を和らげ緊張を解そうとしているのか……あるいは思い残しのないよう心のままに振る舞っているのかもしれない。


 その気持ちは物凄く理解できてしまう……だから強く止めることができなかった。


(俺だって時間が許せばあの二人に……あぁ……家宝の剣抜きで三つ首の化け物と戦い続けていたあの二人もこんな気持ちだったのかな?)


 今更ながらに自分が答えを出せずにいたことが悔やまれてならない。

 しかしだからこそ……絶対にここで死んでたまるかと言う思いも湧き上がってくる。


(勝てば……いや皆で生き残ればいいだけだっ!! 絶対に皆で生きて帰って、そして今度こそ俺は自分の気持ちを二人に伝えるんだっ!!)


「うん……向こうに付くまででいい……あの二人に見つかったらレイドが修羅場に……面白そうだからあの二人の前でキスして見てもいい?」

「だ、駄目ですぅっ!! な、何言ってるんですかマナさんっ!?」

「ちぇ……面白そうなのに……残念……」

「ま、マナさん……本格的にミーアさんから悪影響受けてませんか貴方?」

「ふふ……さあどうだか……だけどあの二人は……ううんレイドやあの街の人達は私の見た目に囚われないで能力を評価してくれる……慕ってくれる……前はアリシアとかデウスぐらいしか認めてくれなかったのに……だから凄く居心地がいい……幸せ……」


 そこでまたふざけた様子を見せながらも、マナは神妙な面持ちで呟いて……微笑んで見せた。


「マナさん……その気持わかります……俺もあの場所で皆にありのままの自分を受け止めてもらって……凄く居心地が良くて……」

「やっぱり……多分マキナの奴も同じこと思ってると思う……だからこそレイド、さっきはあんなこと言ったけど……どんなことをしてでも勝とう……そしてみんなで、生きて帰ろう?」

「ええっ!! もちろんですよっ!!」


 そしてマナはやっぱり俺と同じ考えに至ったようで、そんな彼女に俺もまた微笑み返しながらはっきりと頷いて見せた。


「そしてあいつを倒した実力を活かしてみんなで世界征服を始める……いい?」

「もちろ……えぇえええっ!? な、何言ってるんですかマナさんっ!?」

「大丈夫、もしあいつを倒したら世界を救った実績と実力からしてもう誰も口出し出来ない……そのまま全ての国に入り込んだ魔獣への対策を口実にして超法規的な権限を手に入れた上で今回の件に繋がった転移魔法を秘匿していた罪で魔術師協会と錬金術師連盟にメスを入れて不正を暴きつつ、私たちがトップに立つ……我ながら完璧な計画……惚れ惚れする……うっとり……」

「じょ、冗談ですよねマナさん? 」

「……ふふ、それは生きて帰ったら嫌でもわかる……それより、そろそろ……覚悟は良い?」


 とんでもない発言をするマナに度肝を冷やされて、そこでマナが図ったように俺から前方へと視線を移した。

 おかげで俺も自然と戦場へと視線を戻したが、最後の最後にとんでもないことを言われたためかその身体からは緊張が抜け落ちたままだった。


(死地……戦場が近づいたのに恐怖が殆ど感じない……やっぱり気遣われてたのは俺の方だったのかな? 最後のあの冗談は特別効果的だったし……冗談だよね?)


 むしろ違う意味での不安すら抱きそうになりながらも、とにかく肩の力を抜いて冷静な気持ちで戦場を見つめることができた。

 二人で話し合っている間も戦闘音はずっと聞こえて来たが、距離が狭まったことでその音はさらに激しく大きくなっている。

 そして両者が争う様子も見えて来て、彼らが叫ぶ声もまた届くようになってきた。


「ぁぁっ!!」

「おのれっ!!」


 アリシアが喉から絞り出すような声を洩らし、パパドラも怒りに顔を燃やしながらそいつに……ヲ・リダが説明した通りの見た目をしている人間にドラゴンの翼と尻尾、そして魔獣の手を生やした生き物に切りかかっている。

 その戦いは一方的であり、離れている俺ですら視認しきれない速度で攻めかかるアリシアとパパドラの攻撃にそいつは手も足も出ず打ちのめされているように見えた。


「やれやれ、困ったものですねぇ……まだわからないのですか?」

「な、何でぇっ!? どうして傷一つ付かないのぉっ!?」

「っ!!?」


 しかし踏み込みで地面がひび割れるほどの勢いを込めてアリシアが振り下ろした家宝の剣で切りつけられても、同じくきつく握りしめられたパパドラの拳が顔面に直撃しながらも……そいつは微動だにせず涼しい顔で呆れたような声を洩らしている。

 そしてその身体にはアイダが悲痛に叫んだ言葉通り、掠り傷一つ付いてはいなかった。


(う、嘘だろっ!? 俺ですら多混竜の皮膚に傷つけられるほどの剣だぞっ!? ましてあのアリシアが全力で切りつけてて何で掠り傷すらつかないんだっ!?)


 それどころかこいつは先ほどドドドラゴンやパパドラのブレスを喰らい、更にはアリシアの攻撃魔法(ファイアーレーザー)を受けていたはずなのだ。

 その上で無傷である事実に、俺は改めて目の前の敵が規格外すぎると悟らざるを得なかった。


「傷が付くわけないでしょう……私はもはや神にも等しい存在なのですから、ねっ!!」

「っ!?」

「ちぃっ!?」

「うぉおっ!?」


 アイダの言葉を嘲笑いながら、そいつが無造作に手を振るおうとして……その前に兆候を見切っていた二人が咄嗟に飛び下がった。

 結果として空を切ることになるその腕は、アリシアやパパドラをも遥かに上回る速度と力でもって空気を掻きまわし、それだけで破裂音と共に小規模な爆発めいた現象が発生する。


(な、なんだよそれっ!? ただ手を振るっただけでこんな現象が起こるだなんて、どんな馬鹿力して……っ!?)


 驚く俺の前でそいつは間髪入れずわき腹から生えている魔獣の手をアリシア達に向けて伸ばし、掌についている口を開いてブレスを放とうとする。


「ちぃっ!! させるものかっ!!」

「っ!!!」

「おお、跳び下がった後なのにもう距離を詰めて……本当に規格外ですねぇあなた達は……」


 しかしそれも見切っていたらしいアリシアとパパドラはその前に懐へ飛び込むと、その掌に空いた口へ剣と手刀を叩き込み強引に貫いて見せた。

 果たして掌の口の中も柔らかいのか、それとも魔獣の手は本体よりは脆いのかあっさりとちぎれて宙に舞った。


(おおっ!? や、やっ……てないっ!? な、何でっ!?)


 そう思ったのに次の瞬間、千切れた部分に癒しの光が閃光のように瞬いたかと思うと一瞬で完全に再生されてしまう。


「ず、ズルいよぉそれぇっ!!」

「ズルいのではありません、これが生物的な格の違いというものです……そんな物理的な接触を介しての細胞組織の破損などと言う原始的で野蛮な手段で私をどうにかしようなどとは……お笑いですよっ!!」

「っ!?」

「ちぃっ!!?」


 そのまま再生した手でもってアリシア達を殴りつけようとするが、二人とも即座に身体を捻るだけでこれを躱してみせた。

 おかげで距離が離れることがなく、再び二人掛かりでの攻めが再開されるがやはりどれだけ攻撃が当たろうとも傷は全くつかなかった。


(な、なんてやつだっ!! これじゃあ無敵じゃないかっ!!)


 尤も一連の動作から向こうも戦い慣れはしているようだが、それでもアリシアやドラパパに戦闘技術で劣っていることだけははっきりわかった。

 その上で向こうがこちらを見下して手を抜いているからこそ、何とか戦いらしきものが成り立っているようだ。


(やっぱり真っ当な方法では勝てないっ!! 一か八か、この作戦に掛けるしかないっ!!)


 俺と同じく目の前の戦いを見ていて血の気が引いているマナを軽く揺さぶり、俺の方へと意識を戻させる。


「あっ!? れ、レイド……ほ、本当にやるの?」

「ええ、むしろ他に手がありません……あのまま戦いを続けても……仮に俺たちが協力したとしてもこの調子では致命傷を与えるどころか一方的に疲弊させられて最後にはやられてしまいます……やはり向こうの隙を付いて転移魔法でケリをつけるしかありません」

「け、けどレイド……貴方が一番危険……ほ、本当に大丈夫?」


 心配そうに俺の服を引っ張って止めるような口調で呟くマナに、俺はあえて笑いかけてあげるのだった。


「大丈夫ですよマナさん……生きて帰って世界征服するでしょ?」

「え……あ、あれは冗談……あ………も、もうレイドの馬鹿……」

「ふふ……その調子でリラックスしていきましょう……ここまで桁違いなんですから下手に肩に力を込めても失敗するだけ……駄目で元々ぐらいのつもりでやりましょう」


 そう言いながらも俺は頭の中では絶対に成功させてやると意気込みながら、マナを置いてゆっくりと敵に向かって歩き始めるのだった。


(そうだ、皆で生き残るためにも失敗なんかしてたまるかっ!! それでも駄目だったら最悪はル・リダさんみたいに俺が……そう言えばル・リダさんの姿が見えない……まさかさっきの爆発に巻き込まれて……いやあいつなら余裕で庇えるよな? 予備がどうとか言ってたぐらいだから貴重に管理されているはずだから大丈夫だとは思うけど……じゃあ一体どこに……?)

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、引っ付いていられるアイダがものすごいな。Gも凄いだろうに。 なんか倫理にもとるような転移魔法の使い方。どうするんだろう。
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