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終わりの始まり⑨

 こちらを振り返ることなく早足で進むドラコのお父さんだが、会話が途切れたことで自然とこの場は沈黙に包まれかけた。


「そ、そぉいえばさぁ……まだ僕たちじこしょーかいもしてなかったよね?」

「あぁ……そう言えばそうでしたね……何せ出会い頭にそのまま戦いになってしまいましたから……」


 そんな空気を嫌ったのか、アイダが咄嗟に話題をふるが考えて見れば確かに俺たちはまだ互いに名前すら告げていなかった。

 しかしドラコのお父さんはこちらを振り返ることなく、前を向いて歩き続けながら不機嫌そうに鼻を鳴らしてみせた。


「ふん、貴様らがコソコソと忍び込んでおるのが悪い……ましてゴーレムが回収した我が同胞がやってくることになっていたあの部屋へと近づいてくるのだからな」

「そ、それであんたあの部屋で待ち構えてて……しかもピリピリしていきなり攻撃してきたってのかよ……」

「しかしよく俺たちが近づくのに気づけましたね……そちらの三つ首の子ですらドラコが傍に居なければ探知できなさそうでしたのに……」

「我らの感覚ならばその程度は容易いことだ……尤もこやつが元のような巨体でうろつき回っていたら、その振動で察知しずらかったことだろうがな……」


 あっさりと俺の疑問に答えてくれるドラコのお父さんだが、名乗ってくれないことにアイダは不満そうであった。


「それよりお名前聞かせてよぉ……ちなみに僕はアイダって……」

「必要あるまい……どうせ我らはこの場限りの縁だ……貴様らをあの者の元へ連れていき、疑問がすべて解消された暁には娘と合流し我はこの者達を引き連れて我らの住まう土地へ戻る……その後に魔獣共へ目に物を見せてやるために我だけは一度だけこの大陸へ舞い戻るであろうが、それで終いだ……無論その際にも貴様らと出会う理由も無ければ、それ以降も顔を見せる道理もありはしないのだからな」

「えぇ~……そんなぁ……せっかくこぉしてお話しできる仲になったのにぃ……ひょっとしたら何かのきっかけでまた会うかもしれないんだからせめてお名前ぐらい教えてよぉ……」


 冷たく切り捨てるドラコのお父さんだが、アイダは何とかして食い下がろうとする。


(アイダらしいな……出会った人を放っておけないというか、一人になった経験があるせいか仲間を増やしたがると言うか……尤もそのおかげで今の俺があるんだからありがたい限りだけど……)


「あ、アイダよぉ……不愉快そうだし余り機嫌を損ねるようなことは……」

「あの三つ首の奴滅茶苦茶強かったんだろ? それをあっさりと止めれるドラコの親父さんもヤバいぐらい強いってことだろうし……そんな人を怒らせたら大変だぞ? ただでさえこれから会う奴だって強いだろうに……なあ、強いんだよな最後の一人も?」

「さあ、どうであろうな……あやつが戦うところは見ておらんからな……尤もどれだけ油断していたかは知らんが魔獣如きに囚われていた個体だ……恐らく我は愚か色々と混ぜられて平均的な同族よりも力だけは勝るこの子より強いとは到底思えぬがな」

「「「ドゥルルルルっ!!」」」


 ドラコのお父さんに褒められたと思っているのか、三つ首の子は嬉しそうに咆哮を上げながらその場に浮かび上がる。


「うぅ……やっぱりドドドラゴンはふつぅのドラゴンより強かったんだぁ……おっかないようなこれ以上の個体がウロウロいるわけじゃないって知ってちょっとだけ安心したような……」

「……待て、なんだその呼称は?」


 しかしそこでアイダが三つ首の子を見上げながら呟いた言葉に、ドラコのお父さんは呆気にとられたように問い返してきた。


「そーだよぉ、いつまでも三つ首の子じゃかわいそうだし……だけどドラコのおとーさんがその子も含めて自己しょーかいしてくれないからさ僕なりに付けてみたの……三つの頭があるからドを三つに増やしてドドドラゴンっ!! 強そうで良い名前でしょぉっ!!」


 アリシアの背中でどこか自慢げに呟いたアイダの言葉を聞いて、ドラコのお父さんは一瞬だけ呆然として口と目を軽く開いて見せた。


「……我が娘をドラコなどと呼んでみたり……貴様らの感性は良く分からんな……」

「い、いやドラコはともかくそっちの名前は俺達もどうかと思うぞ……何考えてんだアイダよぉ……」

「えぇ~、分かり易くていい名前だと思うけどなぁ……レイドとアリシアはどう思う?」

「えっ!? お、俺はその……あんまり……」

「……ふ……ふ……」


 話を振られてつい返事に困ってしまった俺に対して、アリシアは何やら面白そうに微笑みをうかべて微かな笑い声を洩らした。


『アイダらしい率直 素朴で素晴らしい案だと思う』

「な、何で書き直したのぉ? もぉアリシアの馬鹿ぁ……むぅ……じゃあ他にもっと良い名前誰か考えてあげなよぉ……」


 そして書いてきた返事は率直と言う字の上から素朴と書き足されていて、そんな俺たちの態度を見たアイダは不満そうに頬を膨らませて見せた。


「も、もっといい名前ってなぁ……つぅか、ドラコの親父さんがもう名付けてるんじゃねぇのか?」

「……確かに名付けてはおるが、我が娘も含めてその名は我らが種族が本来の姿で呼ぶことを前提としている名前だ……恐らく貴様らでは発声も聞き取ることも難しいであろう……だからもうそれで構わぬ……ドラコにドドドラゴンと呼べばよい」

「えぇ……本当にドドドラゴン……勘弁して……」


 黙って聞いていたマナがぼそりと心底嫌そうに呟いたが、アイダは自らの案が採用されてご機嫌そうであった。


「ほ、ほらほらぁっ!! ドラコのおとーさんからのお墨付きだよっ!! じゃあこの子はドドドラゴンでけってぇえいっ!!」

「ど、ドゥルルぅ……っ」

「ドゥルルル?」

「ドゥルルルルっ!!」


 その名で呼ばれた当の本人は、三つの頭でそれぞれ困惑と不知さと喜びの異なる反応を器用に示して見せた。


「へぇ……頭ごとに意外と個性があるんですね……」

「なんつーか、あの右端の奴可哀そうだな……」

「真ん中は色々と抜けてる感じだなぁ……そんで左端は能天気なのかアイダと同じでズレてんのか……?」

「……」


 そんな興味深い光景が眼前に広がっているというのに、学者畑であるはずのヲ・リダは一切会話にすら加わろうとせずに建物内を見回しながら何事かを考えて続けていた。


(魔獣製造の装置を見落とさないように注意して……ってだけじゃなさそうだな……恐らくは最後の一体について色々と考えてるんだろうな……)


 これから会う最後の一体にはドラコのお父さんの細胞が混ざっているという。

 それはつまり魔獣側が手に入れた素材が使われているということになる。

 しかしリダ達の間で厳重に管理されていたその素材を、予め誰かが黙って合成に使う事は不可能だっただろう。


(だからこそヲ・リダさんはドラコのお父さんが乗り込んで暴れているドサクサで、魔獣の誰かが自らの身体に取り込んだって考えてるんだろうな……それでさっき、最後の一体は魔獣の可能性が高いって叫んだんだろうけど……)


 そこへ先ほど新たな情報としてドラコのお父さんは秘密裏に潜入しただけで暴れてはいないと……魔獣を取り込んで回ってはいないと知ってしまった。

 しかし生きたまま他の生き物を取り込める存在は頑丈な身体を持つドラゴンだけのはずだ。


(うぅん……駄目だ、俺の頭では何がどうなってるのかさっぱりだ……)


 尤も魔獣やドラゴンの素材について詳しいヲ・リダならば何か別の仮説を思いついているのかもしれないが、こうして悩んでいるところを見るとはっきりとした答えは出て居ないのだろう。

 声をかけてその仮説だけでも聞きたい気もするし、邪魔をしてはいけないような気もする。


(……本当に必要ならヲ・リダさんから言ってくるだろうし、どのみちこれから直接本人に会えばわかることだもんな……この場はそっとしておこう)


 最終的にそう結論を出した俺は結局何も話しかけることなく、改めて皆の方へと視線を向けた。


「……から、パパドラかぁドラパパでどぉ?」

「うぅん……ドラゴンファザーかファザードラゴンの方がよくねぇか?」

「だから好きに呼べと言っておろうが……どうせこの場限りなのだからな……」


 どうやらそっちではいつの間にかドラコのお父さんへの名付け大会が行われているようで、口々に提案される名前にドラコのお父さんは思いっきり嫌そうにして見せていた。


「じゃあ、やっぱりここは呼びやすいように短めなパパドラでっ!!」

「あぁっ!? ずっりぃぞアイダっ!? じゃあ最後の一体にはあたしが名付けて……」

「あやつの名前なら不要である……色々と混ざってドラゴンとは言い難い生き物になった自分をあやつはドラゴニュートだと名乗っおったからな……」

「新しいドラゴン……おニューのドラゴン……だからドラゴニュートとか……?」

「そ、それは本当ですかっ!? 本当に自らドラゴニュートと名乗ったのですかっ!?」


 そんなたわいもない会話をしていたアイダ達だったが、その言葉を聞いたところで急に沈黙を保っていたヲ・リダが驚いた様子で割って入ってきた。


「また我が嘘をついているとでもいうつもりかっ!?」

「す、済みませんっ!! しかしそうではなくてその名前が問題なんですっ!! 我々はドラゴンの力を身に着けた際に自らを新種として世界に大々的に宣言しようとしておりましたっ!! そ、そのための名前を幹部の間では内密に決めていたのですが、それこそが龍人族(ドラゴニュート)なのですっ!!」

「なぁっ!!?」


 ヲ・リダの言葉に俺たちはすぐに彼が何を言いたいのか悟り固まってしまう。


(そ、そんな偶然があり得るのかっ!? もし偶然じゃないとしたら魔獣が決めた名前を名乗ってるってことは……いや、知っている時点でそいつは間違いなく……っ)


「くっ!! まだそのような戯言をほざくかっ!?」

「し、しかし事実なのですよっ!! あ、改めて尋ねますが本当にその方はドラゴンだったのですかっ!? 何を根拠にそうだと断言して……ぐぅっ!?」

「黙らんかっ!! 先ほどから謀りばかり口にしおってっ!!」


 ついに怒りの限界を超えてしまったのか、ドラコのお父さんは一瞬でヲ・リダの元へ移動するとその首根っこを掴み上げた。


「お、落ち着いてよパパドラさんっ!! ヲ・リダさんは悪気があるわけじゃ……っ」

「よく言うわっ!! 我にはこやつの発言から悪意しか感じられんっ!! 何度も何度も我の言葉を否定し同族を汚すような内容ばかり口にしおってっ!! この場で縊り殺してくれようかっ!?」 

「ぐぐっ……か、構いません殺してくださっても……で、ですからどうかお答えを……お願いです……私が言って良い言葉ではないと理解しておりますが……こ、これ以上魔獣の欲望に振り回される人を……いや生き物を出さないためにも……ど、どうかっ!! せめて命を奪う前にお答えくださいっ!!」


 しかしヲ・リダは死を覚悟したようにまっすぐドラコの父親の顔を見つめて、はっきりと宣言した。


「き、貴様ぁああっ!!? 我らにこれほどの真似をしておいて、よくぞそのようなことを抜け抜けとほざいたなっ!!」

「ま、待ってくれよドラパパさんよぉっ!! そいつはマジで改心してて……」

「あ、ああっ!! マジでそうなんだよっ!! お、落ち着いてくれよファザドラさんっ!!」

「ここでヲ・リダを失うと厄介なことに……だけどパパゴンファザーを敵に回すのも……レイド、私たちに指示を……」

「「「ど、ドゥルルルっ!?」」」


 そんなヲ・リダの発言すら怒りに油を注ぐことにしかならず、この場が一気に緊縛した空気に包まれる。


(くっ!! 確かにこの状況でヲ・リダさんを失うのは色んな意味できつすぎる……だけど止めるったってどうやって……っ!?)


 チラリと傍で困惑したような声を出している三つ首の……ドドドラゴンを見つめるが、この場で戦闘になれば間違いなくこの子もまたドラコのお父さんの味方をするだろう。

 そうなれば戦力的にも厳しくなるが、かといって見殺しにするわけにもいかない。


「し、仕方ないっ!! とにかく俺も協力するから三人掛かりで麻痺させれるか試し……」

「よかろうっ!! 今すぐあやつの前へと連れていき、その化けの皮を剥いでくれるっ!! 来いっ!!」

「ぐぐっ!?」

「「「ドゥルルルぅっ!?」」」


 そう思ったところでドラコのお父さんは、ヲ・リダを掴んだまま翼を広げて浮かび上がると凄まじい速度で建物の奥へと移動していった。

 その後ろをドドドラゴンも翼を広げて追いかけていく。


「えっ!? ちょ、ちょっとぉおおっ!! パパドラさんてばぁああっ!!」

「や、ヤベェっ!! あんな速度俺達じゃ追いつけねぇぞっ!!」

「い、いやアリシアならっ!? アリシア頼むっ!! 剣で地面に傷つけて道しるべを付けながら後を追いかけてくれっ!!」

「っ!!」


 俺の頼みに即座に頷いたアリシアは、言われるままに剣を地面へと突き立てながら二人の後を追いかけていく。

 当然のように地面の上にはアリシアの移動に合わせてひび割れが続いていく。


「これを追って行けば迷わずに済むっ!! 俺達も行きましょうっ!!」


 遅れて俺達もまたアリシアの残した軌跡に沿うようにして、全力で後を追いかけて走り出すのだった。















「っ!!?」

「な、なんだこの爆音はっ!?」

「そ、それに振動もっ!? た、建物全体が揺れてんのかっ!?」

「こ、これは……ドドドラゴンの攻撃っ!? み、皆さん気を付けてっ!! 下手したらこんな建物吹き飛んで……っ!!?」

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― 新着の感想 ―
[一言] ドドドラゴン/w パパドラは何かを感知して向かったのかな。 いよいよ最後の一体が牙をむくのか
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