王都編――誘拐未遂事件④
ジェイクが屋敷へ踏み入るのと同時刻。
ゼスたちもまた使用人用通用口から、屋敷へ侵入した。
昼間は使用人が使っているだけあって、常に開けっ放しなのか鍵すらかかっていない。
入口直ぐで立ち止まったゼスが、魔法を使い人の気配を探る。
『一階には、五人。通路に人はいないようだ』
『うんじゃ、俺はじいちゃんとこ行ってくるわ』
『気をつけろよ。クレイ』
『フィンにぃもな!』
二カッと笑いクレイが俊足で走り抜ける。
残されたゼスはフィンと共に、行動を開始した。
この国に限られるが、大きな貴族邸には基本使用人用の階段と主人が使う用の階段がある。
主人用はジェイクとクレイが抑えてくれる。
それならばと、ゼスは考え使用人用の階段を探すことにした。
『使用人用の階段は、厨房から繋がる事がが多い』
『父さん、こっち』
部屋を覗き込んでいたフィンが、ゼスを振り返り呼ぶ。
足音を立てないよう気を付けながら移動したゼスは、部屋を覗き込みキッチンであることを確認すると頷いた。
中には、二人の男料理人が、今も忙しなく働いている。
『一撃で奪え』
『はい』
フィンが鞘付きのまま剣を持ち、部屋に入った。
「うっ」「はっ」と二度短く声が上がる。
人の動く気配が消えたのを確認したゼスは、他に人が居ないかを確かめながらキッチンへ入った。
火にかかったままのスープに目をとめたゼスは、何事か呟くと竈に向け指を振りかざす。
すると、音もなく火が消え失せる。
『父さん、あったよ』
『わかった』
見つけた階段は、人が二人通るのさえ難しいような幅しかなく、傾斜がきつい。
間違いなくこれだと確信したゼスは、フィンを先頭に駆け上がる。
ゼスたちが二階へ着くとフーマがすぐさま『コッチ』と前を飛び始めた。
フィンは、このまま階段に逃亡者を逃がさないため残るようだ。
『じいちゃん、俺が引き受けるから上に!』
『クレイ、頼むぞ! 出来るだけ傷つけるなよ!』
『りょーかい』
精霊たちのおかげで、別行動をしているジェイクたちの行動も手に取るように分かる。
更にありがたいのは、道案内だ。
『ジェイク、こっちだよー。ゼスたちはこっちにいるよー』
『ユーラン、来タ』
『父さん!』
『あぁ、待たせたな』
ひと際頑丈な扉の前で落ち合ったジェイクとゼスは、一呼吸置き頷き合うと扉を開いた。
「何者だ!」
「ここがボリス伯爵邸と知っての狼藉か!」
近くにいた二人の護衛が、ジェイクとゼス目掛け殴りかかってくる。
それをジェイクが、一歩前に出ると同時に剣の柄を使い弾き飛ばす。
勢いよく飛ばされた護衛は、奥の窓ガラスにぶつかると力なく崩れ落ちた。
ジェイクとゼスたちの視線の先は、既に金の装飾が施されたソファーに座る男女へ向いている。
男の方は、小太りで髪型は七三分け。
特徴的なのは、口元の髭がくるんと上向きに渦巻いている事とゴテゴテの金の指輪が多数指についていることだ。
逆に女の方は、やせ細り、オレンジがかった金髪、顎がとがっている。
特徴的な部分は、目が細く吊り上がっていることだ。
二人の男女は、抱き合う様にして互いに身を寄せ合っていた。
「お前がヘーリッヒ・ボリスだな?」
「お、お前らは誰だ!! ここがわしの屋敷だと知って乗り込んできたのか!」
一応の意味を込めて、確認をしたジェイクはゆっくりと剣を抜く。
ボリス伯爵は、いかにも小悪党だと言わんばかりの態度で答える。
「あぁ、知っているとも。お前が、私の可愛い娘を攫い、売り払おうとしたことをな」
「覚悟は、できておるな?」
「お前たちヤレ! やってしまえ!」
怒りを乗せたゼスの言葉をジェイクが引き継ぎ、ボリスの言葉と共に二人同時に臨戦態勢を取った。
三人の男たちが、二人に迫る。
と、その時だった。
突然、水を纏った竜巻が室内を襲う。
水を浴び、竜巻と共に護衛とボリス夫妻が情けない悲鳴をあげ、巻きあがる。
呆然とそれを見ていたジェイクが、ハッと気付いたようにゼスを見た。
だが、ゼスは自分じゃないと言う様に否定する。
『アリスの仇だー! 皆、やっちゃえー!』
『フーマモ、フーマモ、手伝ウ!』
そう、ボリス伯爵たちを襲った竜巻の正体は、ユーランとフーマだった。
手を出すことなく事態が収集してしまったジェイクたちは、二人で同時に噴出した。
「あはははは、これは参った」
「ふふふ、やられましたね」
まさか人の事に一切の興味を示さない精霊が、人に罰を下すとは思わなかった。
それほどまでにアリスは……、あの子は愛されていると言う事だろう。
一人そう考えたジェイクは、ユーランとフーマを呼び礼を伝える。
『クレイ、フィン、どうだ?』
『こっちは全員縛り上げて部屋に入れたぜ』
『私の方は、誰も来ないよ』
『ゼス、隠れているものが居ないか探査を』
『はい』
ゼスが探査をかけている間に、クレイとフィンが合流して七人を縛り上げる。
ボリス伯爵夫妻以外は、他の使用人たちと同じ部屋に移動させた。
『問題ないようです』
『わかった。では、探すとしようか』
『了解』
『フーマ、手伝ウ。何、探ス?』
『ボクも~』
『では、お願いできますかな? 探すのは隠し金庫。もしくは部屋です』
頷いた精霊たちが、一瞬消えると部屋の中を隅々まで確認するように飛んでいく。
下はクレイとフィン、ジェイクとゼスが探す。
「こっちにはなんもねーよ?」
「下にも、無しか……」
「ん? これは?」
フィンが、装飾を施された食器棚を前に不審げな声をあげる。
それに気づいたジェイクは、フィンの元へ歩み寄ると一緒に食器棚を調べ始めた。
扉を開けて、食器を動かそうとしたジェイクの手が止まる。
「くっついていて動かないな」
「えぇ、そうなんだ。飾りにしてはおかしいよね?」
「うむ。動かし方によって動くのかもしれんな」
『フーマ、奥、行ケル』
フーマの答えを聞いて、ジェイクもフィンもこの奥に部屋があることを確信する。
上の段は何もなし。
二段目は、同じく無し。
三段目、四段目と動かしてみるがやはり何もない。
そうして、確認しつつジェイクは、一番下の段のカップを持ち上げた。
ガコン、カラカラカラカラ。
からくりが動き、音鳴る。
間を置かず、食器棚が横にずれて隠し部屋が現れた。
ジェイクが見る限り扉のようなものは無く、人が二人はいればいっぱいになってしまうような小さな部屋だ。
所狭しと置いてある書類棚や金貨袋をどかせば、五人ぐらいは入れそうだな。
しかし、こいつはよくため込んでいるな。伯爵では決して手にできない大金だ。
一つ袋を持ち上げて、中を覗き見たジェイクは呆れを含ませたため息を吐く。
「目的は、奴隷売買の契約書。後は、王妃の署名が入った何かだ。フィン、書類以外は外に出せ」
「わかったよ。クレイ! 手伝って!」
「わかったー」
フィンに余計な物を出すように頼んだジェイクは、ゼスと共に目的の書類を探しはじめた――。




