真斗と宇宙
「白鳥さんの黒歴史」内の「しずかとしょかん」を読んでから本作を読むことをオススメします。
今回は僕の男友達について語ろうと思う。
僕の友達の名前は大久保真斗君。
僕は普通に「真斗君」と呼んでいる。
真斗君は容姿端麗、成績優秀、性格良し、陸上部のエースで運動神経抜群と嘘みたいなパーフェクト超人なのだ。
それに比べて僕は容姿も成績も中の下、性格は卑屈で、帰宅部と良い所を探す方が難しい。
そんな僕が何故、真斗君と友達になれたのか。
語れば長くなるが、僕達が仲良くなったきっかけは文化祭の劇の脚本を一緒に考えたところからだ。二人だけではなく、浅羽満月さんという文芸部員を中心として考えた。
僕は「しずかとしょかん」の経験を通して、満月さんと仲良くなり、恋心を抱くようになった。真斗君と満月さんは幼馴染で、真斗君が満月さんを好きだと知り、一時期、恋敵として嫉妬を抱いたりしたが、星空の下、語り合ったことで、その気持ちは消えた。
今まで人との間に壁を作っていた僕は、この二人と友達になれたことで一歩進むことが出来た。最近では一緒にプラネタリウムや買い物に行ったりしている。
ある日のこと。
「なあ宇宙、今度クラスの男子でスポッチャに行こうとしてるんだけど、どう?」
「スポッチャってラウンドワンの? サッカーとか?」
「うん。他にもテニスとかバレーボールとか出来るぞ」
「僕、運動苦手だから迷惑にならない?」
「そんなの関係ないぞ。ただの遊びだから、楽しめばいいじゃん」
真斗君と友達になるということは、真斗君の友達とも交流しないといけない訳だ。
「もっと色々な人間と関わった方がいい」
鷲羽先輩の手紙の言葉が僕にのしかかる。
「分かった。僕も行くよ」
「やった! 当日は楽しもうぜ!」
スポッチャ当日。
自転車で行くとのことから、僕は久しぶりに自転車を稼働させた。
特に錆びていたり調子が悪そうには見えなかったので、乗ってラウンドワンに向かった。
今回の遊びのメンバーは4人。
僕と真斗君と北原君と岡本君。
北原君は真斗君と、いつもテストの点数を競っている秀才。
岡本君はバスケ部の主将。
そんな中に僕が入って、浮かない訳がない。
僕は遊べる楽しさよりも不安が勝つ心持で自転車を漕いだ。
30分程でラウンドワンに着いた。
集合時間前だったが、もう3人とも着いていた。
「おまたせ」
「じゃあ揃ったし行くか」
まずはネットの張ってあるコートに入り、バトミントンをすることになった。
僕に得意な運動はない。
僕と真斗君がペアになってバトミントンをするのだが、僕がミスばかりするせいで真斗君に大迷惑をかけた。
何度目かのサーブミス。
「ご、ごめん……」
「いいって、いいって! 俺が取り返す!」
その宣言通りに、すぐに点差を元に戻す真斗君。
「次、何する?」
「フットサルとか?」
フットサルコートに向かう途中、他校の女子4人グループに話しかけられた。
「あのう、もし良かったら一緒にフットサルやりませんか?」
「いいよ! やろう!」
僕達に確認を取る前にノリのいい岡本君が誘いに乗ってしまう。
真斗君は一瞬困ったような顔をしたが、すぐに笑顔になって「じゃあ一緒にやろうか」と言った。
チームは僕と岡本君と女子二人。
岡本君は僕にパスを出さず、女子ばかりにパスを出している。
接待プレイだ。
たまたま僕にボールが来てもドリブルが下手で真斗君にすぐボールを奪われてしまう。
敵チームになった真斗君は容赦ない。
僕達のチームは負けてしまった。
「次はカラオケに行きませんか?」
女子4人が僕達を誘う。
「どうする?」
僕達は一日スポッチャをやるつもりで来たから、少し迷った。
岡本君と北原君は「別にカラオケでもいいんじゃないか」と言った。
僕は歌が上手い方ではなかったので、出来れば遠慮したかったが、多数決でカラオケをすることに決まってしまった。
「宇宙、大丈夫か?」
「ああ、うん。友達とカラオケなんて初めてだから少し緊張してる」
「宇宙の初めてのカラオケ、楽しんでもらえると嬉しいな」
「うん」
そういえば、中学の頃、心霊研究会でもカラオケは行かなかったな。
あの二人が、どんな歌を歌うのか、普通に興味はあったが。
カラオケルームに入り、僕が真斗君の隣に座ろうとすると、僕を押しのけて女子二人が真斗君を挟んだ。
あの二人、絶対に真斗君目当てだ。
カラオケが始まって女子の態度は露骨だった。
自分達と真斗君が歌っている時は盛り上げるが、男子残りの三人が歌っている時はケータイを見たり、トイレに行ったりする。
最初は盛り上げようとしていた岡本君も、その態度に、しゅんと落ち込んでしまった。
北原君はボカロやアニメ曲に詳しく、淡々と歌い続けていた。
僕はテレビで聞いたことのある曲のサビしか歌えなかったりするので、真斗君や岡本君にフォローしてもらった。
カラオケの4時間は、とてつもなく長い時間に感じられた。
僕達が帰ろうとすると女子の一人が真斗君に告白していた。
ちょっとフットサルとカラオケをしたくらいで告白かと思った。
真斗君は「俺、彼女いるから、ごめん」とすぐに断っていた。
女子は泣きそうな顔になっていたが、僕は同情する気はまるで湧かなかった。
真斗君と満月さんの絆が、その辺の女子に簡単に破られる訳ないのだ。
女子達と別れた後、僕達4人はファミレスで夕食にすることにした。
僕は父に「夕食いらない」と連絡し、ファミレスに入った。
「宇宙、ごめんな。カラオケ、あんまり楽しめなかっただろ?」
「いいよ、別に」
「俺が女子にはしゃいで一緒に遊ぶのOKしちゃったから……」
岡本君も残念そうな顔をしている。
「岡本のせいでもねえよ。あれは女子が悪い」
「僕のアニソンメドレーを虚無の目でケータイいじってるのは、ちょっと堪えたな」
「北原君、歌上手だったよ! 僕もあんな風に歌えたらいいなって思うよ」
「ヒトカラで練習してるからね」
その後も僕達は色んな話をした。
北原君と岡本君のことも、勿論、真斗君のことも、もっと知れた気がして嬉しかった。
北原君と岡本君が先に別れて、僕と真斗君の二人っきりになった。
「宇宙、今日は来てくれて、ありがとな」
「こちらこそ誘ってくれて、ありがとう」
「これからも時々、誘っていいか?」
「うん、勿論だよ」
宇宙君に新しい友達が出来ました。良かったね。




