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65話 手紙でバトンタッチ!


 朝の苔色アジト。リビングで寝ていたクロルは、鳥の飛ぶ音でゆっくりと目を覚ました。


 うーん、と伸びをして窓を開けてあげると、白い鳥がぴょんと窓から入ってくる。足に結ばれているメモを取ってあげると、鳥はペコリとお辞儀をして……そう見えただけかもしれないが、パタパタと飛び去っていった。ちょっと可愛いな、なんて思うクロルだった。


「えーっと、なになに?」


 早速、メモを広げて読み解く。で、ものすごく驚く。


「ブロン、すげぇな」


 これはレイン姉弟の片割れ・姉の方にすぐに報告しなければならない案件だろう。クロルは、手紙を持って階段を上がった。

    


 ここは二階の寝室。元々、クロルがこの寝室を使っていて、レヴェイユはリビングで寝ていた。

 しかし、エタンスがいつ訪ねてくるかわからない現状。普段から違和感のない生活をしなければならないということで、結局、二日目からはクロルがリビングで寝ることになり、彼女に部屋をゆずったのだ。

 だって、伯爵令嬢がリビングで寝ているところを見られたら、言い訳に苦しむことになるから。


「……ったく」


 無意味だと分かっていながら三回ノックをして、無意味だから返事を待たずにドアを開けたところで、この舌打ちだ。なんでこうもレヴェイユは、だらしがないのだろうか。


「レヴェイユ」


 声をかけながらカーテンを開けるが、当然彼女は起きない。一応、男と女なわけで、礼儀みたいなものだ。


 クロルは慣れた手付きで整えていく。まずは、きわどい下着がチラリと見えるほどに、まくり上げられたナイトドレスの裾をもどす。

 次に、広いえりぐりをぐいっと引っ張り上げて、さらけ出された白い肩を封印する。


 捕縛から三か月、ほぼ毎日やらされていることだ。女たらしのプロクズのクロルだって、こんな風に女の世話をしたことはなかった。スキルアップを実感せざるを得ない。


 そして、彼女の顔をのぞき込んで、背中に手を滑り込ませる。抱き寄せるようにして、今日も「おはよう、レヴェイユ」と告げるのだ。


「ん~、ふふっ、おはよぉ」


 目はパッと覚ましてくれるが、美顔に驚かない彼女。最初の頃は寝起きに驚いていたが、三か月も経つと小慣れてくる。どうか驚いて飛び起きてくれ。


 好きな人に起こされる朝。当初は彼女だって恥ずかしそうにしていたはずなのに、いつの間にか恥より欲が打ち勝っていた。それどころか、嬉しそうに微笑む始末。欲望に忠実すぎて、いっそ怖い。


「おはよ。相変わらず、一人で起きる気配ねぇのな」

「ふぁ、……んー、ごめんね」


 彼女のだらしない伸びから目をそらすと、そこには鏡があった。前髪が少しハネていることに気づき、面倒だったからテキトーにグチャグチャっと手で直す。グチャグチャでも美しい。


「正直、毎日起こすの超面倒なんだけど。未来永劫、俺が起こせるわけじゃねぇし、なんか起きられる方法ねぇのかよ。せめてペラペラのやつで寝るのやめれば? そのうち腹こわすぞ?」

「ん、そうね~」


 テキトーな相づちで返された。ペラペラのナイトドレスは続投らしい。レヴェイユに服の購入を任せた結果が、これだ。折を見て、厚手のパジャマを買ってくるべきか。


「ふぁ~、オルさんがくれるはずだった目覚まし時計があれば良かったのかも~」

「あぁ、サブリエに盗まれたやつか」

「うん、ホントこまっちゃう。リビングで寝たときは、トリズさんに起こしてもらって迷惑かけちゃったようなそんなような~」

「迷惑もかけてたけど、それより水をぶっかけられたの覚えてねぇの……?」

「そうだったかしら? あ~、ブロンがいなくなっちゃって、ホントこまっちゃう。あぁぶろんが恋しいよ~、寂しい、会いたいよ~」

「そのブロンから手紙が来たぞ」

「え! ホント!? ブロン元気かな? 一人で大丈夫かな?」

「お前に心配されるなんて心外だろうな、ははは」

「それ、心外~」


 彼女の膨らんだ頬を無視して、クロルはブロンからの手紙を読み上げる。


「『よくわからんけど、グランドの補佐役になった。以降、本部に潜入する。姉ちゃんは元気?』だってさ」

「え~、すごい~。ぱちぱち~」


 寝起きのせいか、とてもゆるい。


「姉は、ねぼすけか……。どういうカラクリかわかんねぇけど、やるじゃん、弟くん」

「ふふ、私もがんばらないと~」

「とりあえず朝飯だな」

「はぁい。伯爵令嬢がお料理しても良いかしら?」

「うーん……今日は俺が作るか」

「お世話になります。顔を洗ってくるね~」


 彼女はペコリとお辞儀をして、パタパタと足音を響かせた。


◇◇◇


 同時刻。王都の空を、同じく白い鳥が羽ばたいていた。届け先はもちろん黒髪碧眼男、デュール・デパルだ。


 着替えを済ませたところで、デュールは窓辺にちょこんと居座る白い鳥に気付いた。


「ブロンの鳥か」


 確かに、思い返してみればブロンの周りにはやたら動物がいた。小さい頃から犬猫に好かれていたし、彼の周りにはいつも白い鳥がいる。あれは連絡手段だったのかと、今更ながらに気付く。


 こんな便利な連絡手段を持っているならば、もっと早く教えてくれ。不満に思う色が、眼鏡に反射したのだろう。鳥は眩しそうに、まばたきをしていた。


 やたら建て付けの悪い窓をギィーッと開けて、足に結ばれていたメモを取る。鳥は庭にある林檎の木にぴょんとワンバウンドしてから、飛んでいってしまった。


「なるほど、返事はさせてもらえないわけか」


 無理やりに手紙を結べば届けてくれるのだろうが、そのためには鳥と格闘しなければならないわけだ。便利で不便。飼い主によく似ている、なんて思いながらメモを読み解く。


「ほう、ブロンがグランドの補佐に? まあまあの働きだな」


 さすがのデュールも最大級の賛辞を送らざるを得ない。色々とすっ飛ばして、まさかフラム・グランドの側近になるとは。


「……いや、逆に危ないとも言えるか」


 ブロンは短絡的だ。気長に待つということが、全くできない。ナイスアイディアだと思ったら大して考えずに実行してしまう。だからこそ、待たずに済むような鳥システムを開発したのかもしれないが。


 もしもブロンに思慮深さがあったならば、レヴェイユは泥棒になっていなかっただろう。悔やまれるが、それがレイン姉弟なのだ。


「仕方がない。早めに接触しておくか」


 デュールはマッチを擦って、手紙をじりじりと燃やした。








トリズがレヴェイユに水をぶっかけた話はカット。あとがきに載せるには長すぎたので、マイページに『SS雑多置き場』を作って置いておきました。


本編ストーリーには無関係ですので、読まなくても支障ありません。


URLです↓

https://book1.adouzi.eu.org/n6301ij/2/


(なろうはリンクを貼れない仕様でして、お手数おかけします)

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