卑怯者
薄暗い森の中における突然の襲撃。
それを前に、ギリギリで地面を転がりながら、小太刀の一撃を回避したユイはその表情に驚きを見せる。
「……東方の人間か!」
慌てて襲撃者へと視線を向けたユイは、その視界に黒ずくめの男の姿を捉えた。
すると、地面を転がり薄汚れたユイを目にして、思わずヤーマンは笑い声を上げる。
「私を追い詰めたつもりでしょうが、実は追い詰められたのはあなたですよ。しかしまさかたった一人でノコノコと追いかけてくるとは……ふふ、驚きました」
「はぁ、二対一……か。流石にこれは分が悪いな。ちょっと卑怯じゃないかい?」
懐から短銃を取り出して銃口を向けてきたヤーマンに対し、ユイは困った表情を浮かべながらそう告げる。
しかしそんな彼の言葉は、一笑に付された。
「卑怯? ここは戦場です。何を寝ぼけたことを言っているのですか。いえ、それ以上に我らの教皇を寝返らせたあなたにそのセリフを吐く権利はありませんよ」
「私が声をかけなくとも、彼は自分の後始末をするつもりだったから、はっきり言ってそれは冤罪なんだけどね」
両手を軽く左右に広げながら、ユイは思わず首を左右にふる。
一方、彼の背後で小太刀を構えた男は、苛立たしげにその声を上げた。
「司祭、もう良いか? 無駄口は好かぬ」
「そうですね……ユイ・イスターツ、何か言い残すことはありますか?」
「命乞いをしたいところだけど、それはダメそうだから一つだけ教えて欲しい。君たちが持ち込んだあの大量の銃の出どころは黒ずくめの彼によるもの……それで間違いないかい?」
黒ずくめの男とヤーマンを交互に見ながら、ユイはそう問いかける。自然と地面に散らばる枯れ葉が、彼らの足音に踏みしめられる音を立てていた。
すると、不意にヤーマンは笑いだし、ゆっくりとその口を開く。
「最後の時を自らの疑問解消にあてるというわけですか。まあいいでしょう。そのとおりです。我らの決起は、東方の――」
「その首……もらうわ!」
それは突然の声であった。
彼らの背後から突然駆け出してきた女性は、目の前の黒ずくめに向かい大きく刀を振るう。
彼女の髪が風に舞い、その勢いが空気を切り裂くようであった。
しかし黒ずくめはまるでその奇襲を予期していたかのように、小太刀で受け止めてみせた。
ただ鋭い金属音だけが、深い森の中を響き渡る。
「ふん、半人前が!」
「ふざけるな、乱破如きが大きな口を!」
苛立ちとともに、女性は刀を再び振るわんとする。
風が彼女の髪を乱し、木漏れ日を反射させた刀身が鈍い光を放った。
しかしその一撃は、黒ずくめの足払いによって果たされることはなかった。
「甘い……所詮はただの反逆者の娘だな」
慌てて距離をとる女性……咲夜に向かい、黒ずくめの男は吐き捨てるようにそう告げる。そしてそのまま慌てて構える彼女に向かい、更に言葉を続けた。
「気配も十分に断ち切れず、常に我らへの殺気が漂っていた。少なくともその男は殺気とは無縁だからな。となれば、貴様が忍んでいることは明らかだ……時が経とうとも変わらず半人前だな、反逆者の娘よ」
「いやはや、人を卑怯扱いしながら、奇襲の機会を狙っていたとは……さすが侮れませんね、ユイ・イスターツ」
一切の隙無く銃口をユイへと向けながら、一連の奇襲を目の当たりにしてヤーマンはそう告げる。
それに対し、ユイは軽く肩をすくめると、ゆっくりとその口を開いた。
「ここは戦場だからね……君の発言に基づくと、卑怯という言葉はふさわしくない。そしてだからこそ」
「グフッ……なん……だ……と……」
衝撃。
痛み。
出血。
そう、それは突然のことであった。
目の前の男に向かい引き金を引かんとしたその瞬間、彼の首筋には痛みとともに衝撃が走ったのだ。
「まったく相変わらず人使いが荒いわね、ユイ」
ヤーマンの首筋に刺さったクナイ。
それとまさに同型のものを手にした黒髪の女性は、呆れた様子でヤーマンの背後から姿を現す。
そう、それはまさに常にユイの影として行動し続けてきた女性の姿であった。
「超過勤務お疲れ様、クレハ」
「さん……三人……目……だと。卑怯……な」
急速に世界が空転し、止めどない嘔気が襲い来る中、ヤーマンはどうにかそれだけを口にする。
それに対しユイは、頭を掻きながらゆっくりとその口を開いた。
「卑怯? ここは戦場だよ。何を寝ぼけたことを言っているのかな。まあ彼女のクナイにはちょっとお薬が塗ってあるから寝ぼける気持ちはわかるけど……ね」




