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やる気なし英雄譚 ラストレイバー  作者: 津田彷徨


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16/30

相対

 ロセンドラス川。

 キスレチン共和国の国境に位置する川であり、この川より東はクロスベニア連合の国土となる。


 そして今、西方連合軍は川を背にしてクロスベニア連合の大地に陣を構築していた。


「ひとまずは予想通り……かな」

 はるか遠くに見える宗教軍の行動を確認したユイは、陣の内部に設営された会議テントそばの椅子に腰掛けると、ホッとしたようにそうこぼす。

 すると、そんな彼の彼のそばに立っていたノインは大きく一つうなずいた。


「まあやむを得なかったとも言えるだろうな。何しろ数の差は明らかだ。我々が先に渡河して陣を築いた以上、他に選択肢はないと言えよう」

「そうだね。しかし良かったよ、彼らが無謀な突撃を仕掛けてこなくて」

「それをさせないための背水の陣だったのだろ? たとえ見せかけだけだとしてもだ」


 二人の会話を聞いていたキスレチン共和国軍の代表たるカロウィン・クレフトバーグは、いつもの皮肉げな口調で、苦笑を浮かべながらそう言葉を差し挟む。

 それに対しユイは、軽く肩をすくめつつも小さく一つうなずいた。


「それはそうなんだけどね。ともかくこれで一応準備はできたかな。彼らが急いで陣構築をしている間に、例の準備を進めたいところだね」

「仮設橋の建設だな。安心しろ、そちらはそこにいるキスレチンの連中が真面目に行っている。何しろ西方各国の資金で工事が行えるのだからな。人様の金で行う公共事業ほどうまいものはない」

「簡単に言ってくれたものだ。戦場に民間人の事業者を連れてくることの困難だからこそ、不慣れな工事を行う苦労を、もう少しは理解してほしいものだな。まあおたくの国ならば、皇帝命令で有無を言わせず民間人を動員できるのかもしれないがね」


 ノインの煽るような発言に対し、カロウィンはすぐさま皮肉げにそう愚痴る。

 すると、ノインはそんなカロウィンの発言に対し、堂々と肯定してみせた。


「ああ、そのとおりだ。そのほうが効率的だからな。羨ましいと思うならば、次の大統領選挙の結果しだいで、貴様も皇帝になればいい」

「はっ、御免こうむるな。残念ながら俺は国民の代表となることは誇らしくあっても、奴隷たちのご主人さまとなるのは趣味じゃないのでね……しかしだイスターツ、赤髪の姿が見えないがあの男はどうした?」


 突然向けられたカロウィンの問いかけ。

 それは当然のものだと言えた。


 主に国内治安を担うリュート・ハンネブルグ親衛隊長に対し、軍政を担うアレックス・ヒューズ陸軍省次官は今回のクラリス派遣軍の頂点に位置する存在である。

 しかしながらそんなクラリス派遣軍に対し、この陣内部で指示を出しているのは建前上は本来部外者であるはずのユイ・イスターツであり、人目を引く赤髪の姿はどこにも見当たらなかった。


「彼にはちょっとばかり別の仕事をお願いしてね。今は帝国軍の人たちと行動してもらってるところさ」

「なに? そんな話は聞いていないが?」

「言っていないからね。ちょっと今回は混成軍である関係で、少しばかり情報は絞らせてもらっている」


 怪訝そうな表情を浮かべるカロウィンに対し、ユイは苦笑を浮かべつつもはっきりとした口調でそう告げる。

 すると、そんな彼の言葉を補足するように隣に立つノインが口を開いた。


「混成軍というよりも敵が宗教軍だからだろ。お前が情報を絞るのは」

「まあそうとも言うね」

「確かに我が国の兵の中に、元クレメア教徒がいないわけではない。しかし……」


 疑われたように感じたカロウィンは、苦い表情を浮かべながらそれだけを口にする。

 それに対しユイは、わずかに申し訳無さを覚えつつもはっきりと自らの判断を口にした。


「念には念をということさ。というわけで、帝国兵と私の友人たちは今回はしばらく別行動さ」

「私の友人たち……か。あまり秘密主義は好ましく無いがな」


 多くの腕自慢が集いし混成軍の中においても、別格とも呼ぶべき異質なる男の不在。

 その存在の大きさゆえに、カロウィンは思わず苦言を呈する。

 それに対し、ユイはただただ苦笑を浮かべてみせた。


「はは、民主主義だと色々と配慮がいるものだから気持ちはわかるよ。まあ安心して欲しい。今の彼は彼が配置されるべき場所にいるのは事実だからさ」

「まあ朱の悪魔が戦場まで来ておいて、戦いに顔を出しせぬはずがない。そのことは散々煮え湯を飲まされた俺が一番知っている」

「実際、彼抜きで戦いを終わらせると、きっと怒られることになるだろうからね。いや、もちろん彼抜きで勝てると一番ではあるけど」


 軽く肩をすくめながら、ユイは二人に向いそう告げる。

 すると、忌まわしき記憶を思い出したためか、ノインはやや不機嫌そうな表情を浮かべながら彼に向かい言葉を向けた。


「それでユイ、これからどうするつもりだ?」

「さて、それは向き合っている敵軍のお偉いさんに聞いてみないと。ただこのままお見合いとなると彼らは苦労するだろうし、前に出るとなると今の努力は無駄になるね」

「もともとの国力差と補給線を考えればその結論になる……か。相変わらず辛辣な選択肢を突きつけたものだ」


 称賛と呆れの成分が入り混じった声で、ノインはそう評してみせる。

 途端、ユイは軽く肩をすくめると彼なりの見解をその口にした。


「はは、まあ彼らには選択の自由があった。陣構築せずすぐさまこちらに攻め込んで来るか、それとも長期戦をにらみ現在行っているように陣を構築するか、それとも大軍を前に逃げ出すか……結果としてひとまず彼らは二番目の選択肢を選んだというただそれだけのことさ」

「ふん、自由な選択をさせぬ為に、わざわざ川を背にしておきながら良く言ったものだ」

「まあね。ともかく、そろそろ次の段階に移るとしようか。仕事と戦争はさっさと済ませるに限るから……ね」


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