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やる気なし英雄譚 ラストレイバー  作者: 津田彷徨


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13/30

中年たち

「遅いぞ、ユイ」


 ミラニールの中心部からやや外れた路地に存在する小さな酒場。

 人影の少ない酒場の一角に腰を据えた二人の中年男性。そして一人の黒髪の男がそこに存在した。


「はぁ……いや、面倒なおじさんたちに色々と怒られちゃってね」

「それは大統領と皇帝さんじゃないのかな?」


 赤髪の男……アレックスは苦笑を浮かべながら、確信を持った口調でそう問いかける。

 すると、黒髪の男は間髪入れるくことなく首を縦に振った。


「ああ、その二人さ。まったく私は国民でも臣下でもないというのに横暴だと思わないかい?」

「ふふ、どうだろう。そこにいる少し白髪が混じった銀髪のおじさんも君に説教したそうだよ?」


 そう口にすると、アレックスは向かいの席に腰掛けるリュートへと視線を向ける。


「ふん、もはや今更こいつに苦言を呈しても無駄なことはわかっている。だからもはや何も言わんさ。それよりもだ……レムリアックを放り出して何をしていた?」

「そうだね、最も楽に事件を収められる方法を模索していたというのが正直なところかな」


 リュートの問いかけに対し、ユイは軽く頭を掻きながらそう告げる。

 それに対しアレックスが、確認するように問いを向けた。


「それで導き出した答えが暗殺だったのかい?」

「まあね」


 まったくの迷いもなく紡ぎ出された言葉。

 それを耳にして、リュートは疲れたように一つため息を吐き出す。


「お前らしくはあるが、暗殺が正攻法はないだろ。まあともかくだ、答えを暗殺としながら、なぜそれを選ばなかった?」

「解の一つではあったけど、最適解ではなかったからかな」


 先ほどとは異なり、少し迷いの残った口調でユイはそう回答する。

 途端、アレックスは興味深そうな視線を彼へと向けた。


「それが暗殺を選択肢に入れながら、僕に声をかけなかった理由かい?

「いや、そうじゃない。君に声をかけなかったのはあくまで成功確率を上げたかったからさ。大駒が減ると警戒する人が出るだろうからね」

「お前も姿を隠していただろうに」


 ユイの発言に対し、リュートは呆れたように苦言を呈する。

 だがユイは苦笑を浮かべるばかりで、正直な現状を改めて二人へと告げた。


「既に私は表舞台に居ない。そして同行してもらった彼女のことも表に出していない。だから二人でと考えたのさ?」

「……クレハは?」

「彼女は別件でね」


 リュートの問いかけに対し、ユイはわずかに視線をそらしながらそう答える。

 すると、リュートは眉間にシワを寄せながら、ユイに対し詳細を迫った。


「別件?」

「今回の糸を引いている御仁が何者かを確認してもらいたくてね」

「……どういうことだ。犯人はケティスではないのか?」


 思いがけぬユイの回答に対し、リュートは怪訝そうな表情を浮かべながらそう問いかける。

 それに対しユイは、すぐさま首を左右に振ってみせた。



「彼はむしろ事態をコントロールしようとしている。自らの命をかけてね」

「では何者がこの事態を起こしているのだ」

「……東方さ」


 少しばかりの逡巡のあと、ユイはゆっくりとその名を紡ぎ出す。

 途端、リュートはピクリと両眉を動かした。


「東方……ということは、お前の――」

「そう。基本的に銃を持つトルメニアに枷を課すことで、西方の争いは少なくとも十年は抑え込めると考えていた。でも残念ながら盤面の外には別の思惑を持っている人達がいたようだ」


 軽く肩をすくめながら、ユイはリュートに向かいそう告げる。

 すると、リュートは確認するように目の前の男へと言葉を向けた。


「それが東方ということか」

「まだ確証はない……かな。いや、彼らも奥ゆかしい性格みたいでね、どうやらできる限り証拠を残さぬよう動いているんじゃないかな」

「もしかして、彼女を連れ回しているのはそのためかい?」


 アレックスの口から発せられた思いがけぬ問いかけ。

 それを耳にしたリュートは、途端に一つの事実を脳内で結びつける。


「彼女……そうか、あの女は剣の巫女か!」

「……まあね。少なくとも今のところは、彼女には私の護衛をしてもらっている」

「実態は逆なのにかい? 本当は彼女を単独にしないための方便というところかな」


 いつもの糸目のまま、アレックスはユイの目をそのまま覗き込む。

 それに対しユイは、軽く苦笑を浮かべるとごまかすように再び頭を掻いてみせた。


「いや、私ももう歳だからね。あらごとは彼女に任せたいというのは本当だよ」

「ふふ、君らしいね。しかしだとしたらどうして、表に出ることにしたのかな」

「面倒ではあるけど、見せておく必要があると思ったんだ」


 ゆっくりと紡ぎ出されたユイの回答。

 それを受けて、リュートはそのまま彼に向かい問いを向ける。


「見せておく?」

「そう、この西方の隙を伺っている連中に、そんなものは存在しないということをね」

「隙を見せない……か」


 繰り返すような形で、リュートはユイの言葉を反復する。

 すると、そんな彼に向かいユイは少しばかり補足するように言葉を紡ぎ出した。


「いや、本当は隙だらけでも良いんだ。彼らの目の前で、今限り隙が無い様に見えるハリボテを用意すればいい。そう、私という名のハリボテをね。だから……手伝ってくれないかな?」


 どこか申し訳無さそうに紡ぎ出された言葉。

 それに対し、二人の中年男性は互いの顔を見合わせると、どこか呆れたようにその口を開く。


「今更愚問だね、ユイ」

「……はぁ、まったくお前は。仕方ない、議会でクラリスの協力は決まった。ならばオレも手伝わなければならないだろう」


 予期こそしてはいた。

 彼らならばこの回答をしてくれると。


 しかしながらそれでもなお、ユイは二人を積極的に巻き込むことに申し訳無さを覚える。

 だからこそ自然と彼の頭は二人に向い下がっていた。


「ありがとう。ふたりとも」

「ふん、いつものことだから構わん。だがユイ、今回は事が終わっても逃げるなよ」

「逃げる……?」


 リュートの口にした言葉の意味を測りかね、ユイは思わず首を傾げる。

 すると、リュートはどこか呆れたように一つの事実を彼へと告げた。



「クレイリーがお前しかできない書類仕事が積み上がってると先日嘆いていた……事が終われば書類に埋もれるのをせいぜい楽しみにするんだな」


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