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やる気なし英雄譚 ラストレイバー  作者: 津田彷徨


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10/30

暗殺者

「予定通り、キスレチンでの爆破工作は継続中。西方会議に出席した面々は国外への脱出すらままならず。彼の地にて身動きが取れぬ模様」

「ふむ、クルスターン司教。先手はうまく取れたようだな」


 クルスターンの報告に対し、プレメンス大司教は確認するようにそう問いかける。

 だがそんな彼らの会話に対し、疑念の声を上げる存在がいた。


「確かに爆破工作は行えているとは伺っています。ですが、かなりの失敗と捕縛者も出ているとか……現在の所、予定の半数も計画が遂行し得ていないと伺いますが?」

「それは……もともと爆破工作は予定通り進むようなものではない。柔軟に対応した結果が現在だと考えてもらいたいな。実際、各国首脳をあの地に拘束し、どの国も対応ができずにいるのだ」


 ヤーマン司教の疑念に対し、クルスターンは途端に憤りの声を上げる。

 だがそんな彼の反論に対しても、ヤーマンは異議を唱えてみせた。


「それなのだが、逆ではないのかな?」

「逆? どういうことかね、ヤーマン司教」


 思いがけぬヤーマンの発言に対し、プレメンスはそう尋ねる。

 するとヤーマンは軽く両腕を広げ、苦笑を浮かべながら語り始めた。


「西方会議に出席した面々は、帰れないのではなく帰らないのではありませんかな。つまり現在の爆破工作に危険を感じず、何らかの対応を行っているところだという見方もできるように思えますが」

「憶測でものを言うな、ヤーマン!」


 ヤーマンの発言に対し、クルスターンは苛立ちとともに椅子から立ち上がる。

 だがそんな彼を冷ややかに見つめつつ、ヤーマンははっきりと一つの疑念を口にした。


「実際、爆破件数に対し、被害者の数が少ないのではないかという報告が私のもとに上がってきていましてね。つまり無駄に信徒を自爆させているのではないですか?」

「貴様! 己の命をかけて神へと至らんが為に行動を成した信徒たちを愚弄するか!」

「落ち着かぬか、二人とも」


 ヒートアップするクルスターンを制するかのように、その叱責は会議室内に響き渡る。

 そして室内に居たものの視線が、声の主であるプレメンスへと集中したところで、彼はゆっくりと改めてその口を開いた。


「現状において、連中は我らに対し無策であることは事実だ。なればそれで良しとすることで問題なかろう。むしろ今は我らのうちで揉めるよりも、この好機を活かすことを考えるべきではないかね?」

「おっしゃるとおりですな。出過ぎた発言を行い、申し訳ありませんでした」


 プレメンスの発言を受けて、ヤーマンはすぐに謝罪の言葉を述べる。

 その変わり身の速さに苛立ちを覚えつつも、クルスターンはあえて彼に向かい言葉を放った。


「それでヤーマン司祭、例の準備はどうなっているのだ?」

「もちろんつつがなくですな。我らが聖戦軍をあげ、混乱のさなかにあるキスレチンは防衛線を築くことさえままなりますまい。もちろんそれはクルスターン司教の手腕によるところでしょうが」


 どこか小馬鹿にしたようなヤーマンの発言。

 それに憤りを感じつつも、クルスターンはどうにか自らの怒りを抑え込む。


 そんな両名の反応に頭痛を覚えつつも、プレメンスは改めて事ここに至り、その視線をこの場における最高責任者へと向ける。


「それでは決起の準備が整い次第、行動を開始するかたちでよろしいでしょうか、ケティス教皇猊下」

「ええ、もちろんです。みなさまの強き意思に、きっと神も正しき行為とみなされることでしょう」


 その言葉とともに、ゆっくりとケティスは席から立ち上がる。

 そんな彼に向かい、プレメンスは慌てて声を向けた。


「どちらへ行かれるのですか、教皇猊下」

「定時となりましたので、祈りを捧げに参ってきます。後のことは貴方におまかせしますよ、プレメンス大司教」


 言葉とともに、ケティスはそのまま部屋からその姿を消す。

 途端に、ヤーマンが軽口を放ってみせた。


「我らの象徴、ケティス新教皇……か。のんきなものだ。あんなものを担がねばならなかったとはな」

「ヤーマン! 貴様、言葉が過ぎるぞ!」

「だが事実ではないか。計画の最終段階で、奴がいつの間にか我らの指導者の地位を得ていたのだ。クレメア教の改革を準備してきたのは我らだと言うのにな」


 声を荒げるクルスターンに対し、ヤーマンはどこか冷ややかな声でそう告げる。

 だがそんな彼に対し、今やこの場において最上位となったプレメンスは意味ありげな苦笑を浮かべてみせた。


「ふふ、まあそう焦るでない。使える多くの手駒を連れてきたのはあの男の功績だ。さすがは元枢機卿と評するべきではあろう。しばらくはせいぜい踊らせておけばよいのだ。奴が連れてきた駒を我らが完全に掌握するその時まではな」



***



「会議中、礼拝室に変わったことはありませんでしたか?」


 クロスベニアに急遽用意された礼拝堂。

 その最奥に存在する礼拝室の入口へとたどり着いたケティスは、礼拝堂の警備兵に向かいそう問いかける。

 途端、警備兵は姿勢を正しながら真摯に報告を行った。


「いえ、特に変化はございません」

「そうですか、ありがとうございます、それではこれより祈りを捧げますので、こちらで待機していて下さい」


 自身の護衛部隊に対しそう告げたケティスは、一人で礼拝室の扉を開ける。

 そして中央へと歩み片膝を床へと付けかけたタイミングで、彼は一瞬その動きを止めた。


「どなたかはわかりませんが、ここは教皇用の礼拝室です。さて、こんな場所へ忍び込まれて私にどんな御用ですか?」

「……参りましたね。事に至る瞬間までは、姿を隠しておくつもりだったのですが」


 上方から突然発せられた言葉。

 そして同時に、ケティスの背後に一組の男女が天井より落下してくる。


「貴方は……なるほど、流石と言うべきところでしょうか?」

「さてどうでしょう。本当ならば小火も生まれ得ぬ内に処理したかったところですが、お恥ずかしながらようやく貴方のところへたどり着けました。もしかすると、彼に怒られてしまうかもしれませんね」

「ゼス様はああ見えて寛容な方です。愚痴の一つをこぼされる程度でお許しになられるのでは無いですかな」


 背後に降り立った男の顔を見つめながら、ケティスは笑みさえ浮かべつつそう言葉を紡ぐ。そしてそのまま彼は、眼前の男に対しそのまま言葉を続けて。


「何のためにここへと言うのは、今更愚問ですね。しかし私の排除のためにこのような手段を選ぶとは思っていませんでしたよ」

「はは、私は正攻法の方が好みでして。なので、こうして私なりの正攻法で貴方と対峙すべきだと考えただけです」


 軽く頭を掻きながら、黒髪の男は苦笑交じりにそう言葉を返す。

 途端、ケティスは大きなため息を吐き出し、ゆっくりと眼前の男の名を口にした。


「……英雄殿、貴方はこれを正攻法と呼ぶのですか?」

「ええ、実に私らしい正攻法だと思っています。というわけで、この場にて貴方を暗殺させていただきます。正統クレメア教の教皇たるケティス・エステハイムさん」


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