7 再会
雄樹くんの部活の時間はわかった。
前に夕方に行った時には会えなかったし、友達とどっか寄ってくる可能性もあるよね。とにかく、土日で2回チャンスがあるんだから、まずは土曜の夕方に待とう。何か作ってあげて、一緒に食べる感じでいいかな。
うちで作った方が、道具とか調味料とか楽なんだけど、いきなり「うち来る?」とか言ったら引かれちゃうよねぇ。
本当は、この前の事情とか話したり、これからどうするかとか話す方に時間使いたいから、料理にはあんまり時間かけたくはないんだよね。夕飯だから、おにぎりやサンドイッチみたいな、作り置きして持って行きやすいものは避けなきゃだし。
こんなこと考えてると、重い女だって思われちゃうかなぁ。
あ、生姜焼きなら! 男の一人暮らしでも、フライパンくらいあるだろうし。炊飯器もあるよね、たぶん。この前ちゃんと見とけばよかった。なんて、そんなことできるくらいなら、逃げたりしてないって!
豆腐買っとけば、最悪、味噌汁も作れるかな?
よし、豚肉、豆腐、乾燥わかめ、生姜、念のためにといだお米2合。ポテトサラダも作ってきた。
さすがに味噌と醤油はあるよね。
あとは、炊飯器、フライパン、鍋を借りれば、超簡単な夕飯くらいは作れるよね。
豚肉の賞味期限は明日だから、最悪今日会えなくても明日に回せる。
よし、いつでも来い!
エレベーターが昇ってくるたびに、心臓が跳ねる。人間の一生の鼓動の回数は決まってるって話があるけど、もし本当なら、あたしはこの1時間足らずで随分寿命を縮めたんじゃないだろうか。
雄樹くん、早く帰ってきて。
もう7時50分か。ずっと立ってて、ちょっと疲れちゃった。ダメダメ、雄樹くんが帰ってきた時に、玄関前で座り込んでる女なんて、かっこ悪すぎだよ。
あ、またエレベーターが…いた! 雄樹くん! 帰ってきてくれた!
ちょっと疲れた風情の雄樹くんがエレベーターから降りてきた。「DAISAN」ってプリントされた、うちの学校の指定ジャージ姿だ。
「あ…お、おかえり…なさい…」
うわ~~、なんて言って出迎えようか、ずっと考えてたのに、“これはない”って思ってた「おかえりなさい」が出ちゃったよ! 久々に現れたと思ったら「おかえり」だなんて、変な女だって思われなかったかな。
「え…みやこさん…」
雄樹くんは、呆然って感じであたしのこと見てる。覚えてくれてはいるんだよね?
「あの…久しぶり。この前は、いなくなっちゃってごめんなさい。
その…あなたに会いたくて、待ってたの」
なんとか状況の説明はできたかな。
嫌われてないかな。
「なんで…ここに…」
雄樹くんは、まだ呆然としてるみたい。
あなたに会いたくて来たって、今言ったじゃない。
「会いたかったの、ずっと。時々ここで待ってたけど、会えなかったから…」
「会いたいって、俺に?」
あなた以外に誰がいるのよ!
「もちろん! …あの、迷惑だった、かな?」
「あ、えっと、そうじゃなくて、え? 時々待ってた?」
「あの、詳しいことは、できれば中で話したいなぁ、なんて…ダメかな?」
さすがに、誰が通るかわからないとこで告白はしたくないよ。
「え、あ…。
えっと、じゃあ、どうぞ」
微妙にぎこちない態度で、雄樹くんは部屋に入れてくれた。玄関入った時、雄樹くんの汗の匂いがした。この前、抱かれながら嗅いだ匂いだ。思い出して、ちょっと頬が熱くなった。…気付かれてないよね?
あたしの部屋の真下だけあって、レイアウトは全く同じ。この前との違いは…わかるほど見てなかったからね。
なんだろう、雄樹くんがソワソワしてる。
「どうしたの?」
「や、俺、部活終わったばっかで汗臭いから…」
別に臭くなんてないのに。あ、でも、そうか。
「じゃ、さ。シャワー浴びておいでよ。
あたし、その間にご飯作るから、一緒に食べよ? えと、会えるかわかんなかったし、簡単なものしか用意してないけど」
「え?」
「あの、あの、炊飯器使わせて? あと、鍋とフライパン、1つずつ貸してくれると助かる」
「鍋?」
雄樹くんの目が、あたしの荷物を見る。戸惑ってるのかな。そりゃまぁ、あたしが来るのなんて、予想外だろうしね。
「え、手料理、作ってくれんの!?」
「うん、生姜焼きとお味噌汁くらいだけど」
「すげえ! ホントに!?」
雄樹くん、喜んでくれてる! よかった…。
「ちょっと時間がかかるから、ゆっくりシャワー浴びてきていいからね」
なんか、新婚さんみたい♡




