最終話 体から始まった恋じゃない
「もうすぐ結婚1周年だなあ」
「あなたの就職1周年もね」
大きくなったお腹を撫でながら答える。
産休を取れる時期には少し早いんだけど、有給をプラスすることで、卒業式後すぐに休みに入った。
理想的な、生徒達を送り出してからの産休入りだ。
幸運にも、結婚して割とすぐに妊娠できて、予定日は5月頭だ。怖いくらい順調に、理想どおりに進んでいる。
「あ、また蹴った」
「元気だから、男の子かな?」
「元気な女の子だっているわよ」
赤ちゃんの性別は、産まれてからのお楽しみってことで、教えてもらわないままきている。
雄樹との子だもの、男の子でも女の子でも、可愛いに決まってる!
「女の子だったら、お前に似てるといいな」
「え~? 30まで独身とか、やだなぁ。
あたし、定年までには孫抱きたい」
「ん…たしかに、社会人になった後で“高校生と付き合い始めた”とか言われたら、俺もショック受けそうだ」
「でしょでしょ!
あたし、親不孝だったかも」
「いや、お義父さんもお義母さんも、うちの親父達も、“孫が生まれる”って大喜びしてたじゃねえか」
「まぁ、孫抱かせてあげられそうで、ホッとしたよ」
核家族だし、育休2年とって、新年度から復帰っていうのが理想かな。
育休中だから、保育園も入れやすいだろうし。
「カナって、ホントきっちり計画立てるよな。
付き合ってた時も、段階踏んで話進めてたし。
当時は気が付かなかったけど、なんだよあの恋愛相談。うまいこと俺を誘導してたんじゃねえか」
あ、気が付いてたんだ。そんなこと、今まで一言も言わなかったのに。
でも、笑いながらってことは、本気で怒ってるわけじゃないよね。
「その節はご迷惑お掛けしました」
わざとらしく頭を下げる。
「こんだけ計画的なのに、なんできっかけがああだったんだろうな」
ほんとにね。普通だったら、一夜の過ちで終わっちゃうよね。
「ん~、あたしもそれは思わないでもないけど、ああいいうのを“運命的な出会い”っていうんじゃないかなぁ。
そりゃ、酔ってたのもあるかもだけど、好きになったんだもの。このまま別れるのは嫌だ、抱かれたいって思っちゃったんだよ。
いや、まさか高校生だなんて思わなかったよねぇ」
「カナは童顔だからな。
あのトミーセンセーが妊娠して、生徒はさぞ驚いたんじゃねえか?」
「妊娠どころか、結婚したこと自体、すっごい驚かれたからねぇ。
あたしの擬態がどれだけ優れていたかってことよ」
メイクも髪型もスーツも、“アラサーのキツい女”をイメージしてやってたからね。
「育休明けは、どこに復帰すんだろな」
「わかんないけど、その時は34~35だし、もうキャラ作んなくてもいいかもね」
さすがに後半は、パンツスーツなんて着ていられなくて、ゆったりしたマタニティルックだったしね。
「生徒に惚れられたりしないでくれよ。
高校生と付き合ってた前科があんだから」
「“高校生”じゃなくて、“富井雄樹”と付き合ってたのよ。
あなた以外に惹かれるなんてあり得ないから」
「わかってる。
言ってみただけだ」
「あたしも、言ってみただけ。
あなたがあたしの我が儘に付き合って、1年以上も我慢してくれたこと、一生忘れないから」
「惚れた弱みってやつだな」
「うん、本当に、好きになってくれてありがとう。
あたし、あなたに会えてよかったよ」
偽らざるあたしの気持ち。
9歳上という現実は、この先も何度もあたしの前に立ちはだかるだろう。
でも、それでも構わない。あたしは雄樹が好きだから。
感謝も、後ろめたさも、全部ひっくるめて、あたしは雄樹が好き。
この想いは変わらない。
一目惚れに近い、衝動的な恋だったけれど、6年磨き続けたんだもの。
体から始まったんじゃない。いきなりそれほど好きになったってだけ。
あたしは、最初から雄樹が好きだったから。
そして、あたしは死ぬまで終わることのない恋をしながら生きていく。
「ずっと一緒だから」
これにて完結です。
去年の12月に読切を書いてから、実に半年の準備期間を経ての連載となりました。
調べてみたら、1話を打ち込んだのは1月末でした。えらい時間掛かってますね(^^;)
仕事の都合上、まとまった執筆時間は取れないだろうと、全話書き上げてからの毎日連載にすることに決め、打ち込みが終わったのが6月半ば。
いやもう、本当に時間が掛かりました。
その割に、10万字ちょいしかないんですが。
この作品は、「ナイショの結婚生活」の逆パターンで、男子高校生と女教師の恋です。
「ナイショの~」では、結婚してからの秘密の生活を描いたのですが、今回は、“卒業するまで結婚しない”、“当初はカレにも秘密”という展開にすることにしました。
まぁ、18過ぎれば淫行じゃなくなるから、そこまでは秘密でえっちなしで、なんてやったら間が持たないこと…。
当初、全26話でやるつもりが、修学旅行とキョーセンセーへの目移りなんかも書きたくて、52話に増えちゃいました。アニメだと4クール、1年分です。
香苗とキョーセンセーの二面性は、頭でっかちな香苗の性格描写と、“自分自身が恋敵”という展開を求めてのものでもあったのですが、香苗は一途で、しかも不器用なので、キョーセンセーに香苗と通じるものを感じて惹かれる雄樹には気付きませんでした。
雄樹にしても、えっちできなくて欲求不満から、香苗とどこか通じるものを感じたキョーセンセーに惹かれたわけです。
どこまでも、外形的な部分に拘る香苗の頑なさと、それでも雄樹を求めずにはいられない恋心を感じてもらえたら嬉しいです。




