50 結婚準備
「やったカナ! 市役所受かった!」
「おめでとう、雄樹!」
「これでやっとお前と結婚できる!」
「うん!」
「もちろん、結婚してくれるよな?」
「当たり前じゃない! ずうっと待ってたのよ。あなた以外となんて考えられないわよ!」
長かった。25の4月から付き合いだして、あたしはもうじき31になる。
雄樹が卒業するのを待って入籍する。その大前提となるのが雄樹の就職だった。とにかく自立しないことには、結婚なんてできるわけもない。
雄樹は、工学部で都市工学を専攻して、市役所の都市開発課に採用された。
「んじゃ、親父達には春に籍入れるっつっとくぞ」
「式挙げるわけじゃないし、無理していらっしゃらないでくださいって言っといてね」
雄樹のご両親──もうじきお義父さんとお義母さんになる──は、相変わらず海外を転々と移り歩いている。雄樹のことは心配ないからって、定年まで海外の支店を渡り歩くのだそうだ。
あたしの両親には、雄樹が20歳になった時に紹介済みだ。
特に反対はなかったけど、まだ大学生ってことで難色は示された。なにしろ、最短でもあたしは31まで結婚できないわけだから。
ただ、そこで反対してもあたしの婚期が遅れるだけだってわかってるのか、強く反対はされなかった。
「あんた年増なんだから、捨てられないようにしなさいよ」とか身も蓋もないことまで言われたっけ。
もちろん別れる気なんか毛頭ないけど、言い方ってもんがあるでしょうが!
そんなわけで、親の了解はあるので、円満に結婚できるわけだ。
式については、雄樹のご両親は海外だし、そんなお金もないしで、挙げないことにした。
まぁ、レンタル衣装で記念写真くらいは撮ろうと思ってる。一応、ウェディングドレスに憧れはあるしね。
あとは、学校への報告だ。
結局、あたしは去年転勤したんだけど、赴任先が前の学校のすぐ近くの高校だったから、引越はしないですんでる。半径3km以内に公立高校4校とか、市内中心部って素晴らしい。
雄樹と話し合って、籍を入れるのは3月末にした。
雄樹が採用になった段階で配偶者ありになっていた方が、手当とかの関係でキリがいいのと、あたしが新年度当初から“富井先生”になっていた方が都合がいいからだ。
そんなわけで、4月から名字が変わることを校長に報告しとかないと。
「3月末に結婚することになりました。新学期からは富井になります。正式な届け出は入籍後になりますが、手続きの方をよろしくお願いします」
「それはおめでとうございます。
では、新学期配付予定の書面は、トミイ先生で準備させます。富山の富に井戸の井でよろしいですか? ワカンムリだったりとかは?」
「いえ、ウカンムリです。
それと、私も年齢が年齢ですので、結婚すれば産休育休をとることもあるかと思います。その際は、できるだけ早く報告いたしますので」
「ああ、ええ、そうしていただけると助かります。
その際は、遠慮なく申し出てください。
最大限尊重します」
年配の教諭に聞いた話だと、昔は育休なんてそうそう取れなかったらしいけど、今は積極的に制度を利用させるようお達しが来ているんだそうだ。
高齢出産はリスクが高くなるし、できるだけ早めに子供が欲しい。
なにせ結婚してすぐにできたとしても、産む頃にはあたしは32だ。
理想を言えば、学年末くらいから産休に入ると、誰にも迷惑をかけないですむんだけど、まぁ、こればっかりはね。
あとは新居をどうするか、ね。
立地からいうと、今のとこが最高なんだけど、子供が産まれることを考えると狭いのよね。
なんせ一人暮らし用だし。
どのみち雄樹の今の部屋は解約だし、近くに安いとこないか捜してみようか。




