48 新年度
「ごめんね、入学式見に行ってあげられなくて」
「いや、俺の保護者じゃねえだろ、カナは。
夜の方を楽しみにしとくから」
「うん、わかった。ちゃんと仕込んであるから」
雄樹は地元の国立大に合格したけれど、ご両親は結局帰国しなかった。
それどころか、海外から海外への転勤を命じられたとかで、自分たちの引越でバタバタしているらしい。
あたしの存在は一応伝えてあるらしいけど、あまり関心がないみたい。
どういうことなのか、一人息子が心配じゃないのか、とか思ったけど、雄樹から返ってきた答えは「親父達、できちゃった婚だったから、その辺気にしてないんだ」だった。
大学生ができちゃった婚しちゃったら、それって相当ヤバい状況だと思うんだけど、それについてはコメントがなかったらしい。ラブコメ漫画の親か!とツッコミを入れたい。
ともかく、ご両親から雄樹への要求…というか要望は、“4年で大学を卒業して就職する”ことだけだったそうだ。
放任主義なんて言葉では収まらないレベルに感じるんだけど。
あたしとの関係をどこまで把握してるのか、気になるところだ。
とっくに肉体関係があることは予測していると思うけど、結婚しようなんて約束してることは予想の範囲外だと思うんだよねぇ。
雄樹のご両親を揶揄する気はないけど、あたしは職業柄もあって、できちゃった婚するわけにはいかない。大人だから自由と言えなくもないけど、生徒への悪影響や、今後のあたしに対する周囲の目なんかを考えた時、それはまずい。
婚前交渉を忌避するほど古くもないけど、避妊を疎かにするほど後先考えないのは認められない。
そりゃ、避妊は100%にはならないだろうけど、気を付けていれば限りなく100%に近くなるはずだ。
あたしは、今年は1年のクラスを持つことになった。
たぶん来年も転勤はなしで2年を受け持つことになるんだろう。
雄樹とは、通い同棲の状態が続いている。
さすがに2人分を土日で作り置きするのは厳しいから、買い置きと雄樹に頼んでの買い足しでなんとかしている。
大量に作ってゆっくり消費という技は、副菜の方ではまだ有効なので、日々作るのは味噌汁と主菜ということになる。
試験期間とかを除けば、なんとか回ることはこの1年で実証できたし、なんとかなるだろう。
食費に関しては、折半するようになったことが大きな変化といえるだろうか。
一応、雄樹はご両親からの仕送りがあるから、それなりに消費する必要がある。
これについては、以前雄樹から
「生活費送ってもらってるし、俺の方がカナより食うんだし、作ってくれてんのカナなんだし、せめて半額くらい出させてくれよ」
なんて言われた。
うん、まぁ、そこまで言うなら、ありがたくもらっておくよ、ということでそうなった。
正直言うと、親のお金で生活してる雄樹にお金を出させることには抵抗があったんだけど、あたしは雄樹をヒモにする気はないんだからと割り切ることにした。まだ親の庇護下にいる以上、雄樹を経済面で支えるのは恋人じゃなくて親であるのが正当なのは間違いない。
雄樹は、大学に行ったらコンパやらなんやらで女の子と同席する機会が増えたけど、基本、一次会で帰ってくる。
今時は未成年者の飲酒にはうるさくて、コンパでも未成年には飲ませないことになっているらしく、飲まずに二次会はキツいってことで帰らせてもらえるんだそうだ。
来年になったら、二次会にも行くってことになりそう。
まぁ、あたし自身が、酔った時にいたしちゃってるから、お酒の席については不安があるんだけど、雄樹がお酒に飲まれる人でないことを祈ろう。
来年…あたしの転勤がないことを祈るしかないよね。




