47 試験終了
2日間にわたる共通テストが終わって、疲れ切った雄樹が帰ってきた。
試合の夜だってこんなに疲れてないんじゃないかってくらい疲弊してるけど、やりきったって清々しい顔だ。
試験は当然土日だから、3食全部フォローしてて、なんか奥さんっぽいなぁって思える。うん、良妻だね。
雄樹のお母さんは、お父さんを海外で一人暮らしさせるのが嫌でついていったと聞いている。息子は1人にしていいのか。おかげでこんな虫がついちゃいましたよ。
ともかく、そんなわけで、あたしは担任だった時期を含めて雄樹のご両親とは言葉を交わしたことすらない。
ご両親と雄樹の間に確執があるとかじゃなくて、単に海外から戻ってくるのが大変だから、ということみたい。
正直言うと、先々ご挨拶とかすることがあった時、ご両親に、あたしが元担任という情報がないのはありがたい。主にあたしの気分的に。
「はい、お疲れ様。
疲れてるだろうから、今日はリゾットにしたよ」
消化のいいものを、と考えて、うどんやおじやも候補に入れたんだけど、なんか寂しいかなと思ってリゾットにした。魚介系で油っこくなくてって感じ。うん? アクアパッツァとはどう違うんだろう? 正直、あたしのレパートリーにはなくて、ネット検索したレシピのまんま作ってるから、詳しいことはわからない。
フワトロのオムライスも考えたんだけどね。チキンライスが油っこくて、疲れてる胃には優しくないよね、とか思ってやめた。
うん、やっぱり奥さんっぽい。
試験の手応えは、あたしからは訊かない。
雄樹の方から言ってくれば別だけど。どうせ、明日には自己採点して結論が出るんだし、せめて今夜は心穏やかに過ごしてほしい。
「なあカナ、今日、泊まってってもいい?」
! 正直、求められるかも、とは思ってた。
むしろ、求められたいと思ってた。
こういう時、傍にいてほしいと思ってもらえるってことは、それだけ心を許してくれてるってことだから。それだけの絆はあると自負してるけど、いざ求められると涙が出そうなくらい嬉しい。
「もちろん、いいよ。じゃ、後で背中流してあげよっか」
一緒にお風呂に入って、ベッドに行くところまででワンセット。
明日は、雄樹は自己採点のために学校行くし、あたしは通常勤務だ。
まぁ、雄樹も疲れてるし、1ラウンドで終われば明日寝過ごすような心配もないでしょ。
…一応、目覚ましは6時にセットしておこう。
目玉焼きを焼く余裕くらいは作っとかなきゃ。
神経は高ぶってたけど、やっぱり疲れてたよね。
雄樹は、ことが終わるとそのままあたしに覆い被さるみたいに寝てしまった。
どうしようかな? さすがにこのままじゃあたしが寝られないし、裸のままじゃ雄樹が風邪ひきかねないし。
あたしは雄樹の下から抜け出して一応パジャマを着て、雄樹にはタオルケットを軽く巻いて、寄り添って眠ることにした。
翌朝は、普通に起きられた。
もちろん、学校には別々に行ったけど、採点結果が気になる。
授業に集中できなくて、かなり焦った。あたしのメンタルもあんまり強くないんだなぁ。
結果が気にはなるけど、訊きに行くわけにもいかない。
悶々としてたら、準備室の近くで雄樹とすれ違った。こっち来る用事なんてあるわけないから、わざわざ来てくれたんだろう。
言葉こそ交わさなかったけど、雄樹は体の脇で小さくサムズアップした。よかった、いい点取れたんだ。信じてたけど、やっぱり嬉しい。
あたしも、眼鏡を直すふりして、顔の前でサムズアップして返しておいた。ちゃんと伝わったからね。
夜になって、直接話を聞けた。
「とりあえずA判定出たよ。よかった~~~」
「よかったね、ほんと。
体調の方は大丈夫? 裸で寝ちゃったけど、寒くなかった?」
「ん、カナがついててくれたから。
あと半月かあ。
ちゃんと受かんねえと、カナと一緒にいられなくなっからな。がんばんねえと」
第一志望なら地元にいられるけど、そうでないと遠距離になっちゃうもんね。
あたしとの未来を考えてくれてることに、心が温かくなる。
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、雄樹の将来のためってのがメインだからね? そのためにも頑張ろうね」
軽くキスしながら言うと、雄樹は笑った。
「おう、2人の将来のためにな」
1か月後、無事、雄樹は第一志望の大学に合格した。




