46 初詣で
受験生らしくクリスマスイベントもチキンとイチャ(×1)くらいで終えて、お正月。
今年は、一応帰省はしたけど2日に戻って来て雄樹と初詣でだ。
さすがにこんだけ寒いとスカートはきついんだけど、ヒート系のレギンスで頑張ることにしてる。キャラ分けは、あたしの生命線だからね。
初詣でに向かう人の波に、うっすら積もった雪と、さすがに腕を組んで歩けるような状況じゃないし、普通に手を繋いで歩いている。
手を繋ぐのが普通かどうかは人によって判断が分かれるところだろうけど、まぁ一般的な行動の範疇でしょ。
「俺、初詣でとか、あんま気にしないんだけどな。さすがに今年は神頼みしたい気分だ」
まぁね、“苦しい時の神頼み”ってやつよね。
でもさ。
「この前の模試、A判定だったじゃない。十分いけるって」
夏以降の頑張りで、雄樹はここ2回の模試で志望校がA判定になってる。
そりゃ、絶対なんて保証はないけどさ、実力を発揮すればまず間違いなく合格でしょうよ。
もちろん、担任の先生に訊けばもっと詳しい分析が出るんだろうけど、あたしの立場じゃそんなことできないからね。
「そりゃそうだけどさ、あんなんデータでしかないからなあ」
「そのデータで食べてる人だっているんだから、信憑性は十分だよ。もちろん絶対はないだろうけど、“まず大丈夫”って評価は自信持っていいよ」
あたし達の番になった。やっぱこういう時は5円なのかな? いいや、500円入れとこう。
雄樹が第一志望合格しますように。
全然信心深くないあたしの願いが届くのかはわからないけど、こういうのは気分だからね。
「どうする? おみくじ引いとく?」
「そだな」
「あたし、吉。恋愛“成就する”だって」
「俺、中吉。学業“努力すれば叶う”」
「幸先いいじゃん」
そんなことを話してたら、声を掛けられた。
「トミーじゃねえか」
「巽先輩!?」
見ると、でっかい人。
体つきは雄樹よりがっちりしてる。
巽先輩ってことは、この人が例のカノジョ持ちの先輩かな。1人で来てるってことは、遠距離になってるか、別れたか。
「おう、隣にいんのはもしかして例のカノジョか?」
えっと、あたしの名前は言ってなかったはずだよね。
だったら、カナで通すのもありかな。とりあえず、あたしはこの子知らないから、雄樹に任せた方がいいかな。下手にしゃべってボロ出すとまずいしね。
“例の”って入れたのは、去年──今からだと一昨年か──から続いてるのかって確認だろう。別れて新しいカノジョと付き合ってるって可能性もあるから、下手に話を出してこじれると面倒だもんね。話に聞いてたよりデリカシーあるじゃない。
「ええ、例のカノジョの…その…カナです」
「はじめまして、カナです」
「…社会人なんだよな?」
「童顔なんす」
あたしが社会人に見えなかったらしい。雄樹が代わりに答えてくれた。
まぁ、若く見えるんだって、前向きに受け取っとこう。
「四捨五入すると雄樹と同い年よぉ♪」
本当は四捨五入すると30になるけど、ここは若めに言っとこう。
「受験前の神頼みはちゃんとしたか? 賽銭けちってねえだろうな」
「しっかり拝んどきました」
「俺みてえになんなよ。後輩と同学年なんて気まずいぞ」
あ~、この子、浪人しちゃったんだ。もしかして、それでカノジョと別れちゃったとか?
「あんまプレッシャーかけないでくださいよ」
「トミーがこんなんでプレッシャー感じるタマかよ。
ま、俺みてえに愛想尽かされねえようにな」
「大丈夫~。あたし、ベタ惚れだから♡」
縁起でもないことを言ってくれちゃってるから、腕組んでラブラブアピールしとく。
社会人らしくないけど、きっちりやると“京先生”っぽくなっちゃうからね。
「カナ~~、頼むから、お前までプレッシャーかけんな」
「大丈夫大丈夫、何があっても離れたげないから」
「は、1人もんにゃきついな。
じゃあな、頑張れよ」
そう言って、先輩くんは離れていった。
「まぁ、煽っちゃったけどさ、気にしないでいいから。
あたしの旦那様は、そんなヤワじゃないでしょ」
雄樹の左腕にぴっとりくっつくと、雄樹はすごく困った顔で見下ろしてくる。
「だから、それがプレッシャーだっての」
「うんうん。大丈夫、あたしがついてるよ。一緒に頑張ろ?」




