39 バレンタイン(SIDE:雄樹)
「お前は何もらったんだ?」
バレンタインの翌日、巽先輩がニヤニヤしながら聞いてきた。自分は手作りチョコをもらったって自慢げに写真を見せられた。美弥子さん、こういうの予想して高級チョコだったんか。
「手作りはムリっつって、こういうのです」
写真を見せると、先輩は
「チッ、やっぱ社会人は違えな。これ、高いやつだろ」
なんて、少し悔しそうだった。別にマウント取る気もないから、テキトーにおだてておく。
「カノジョ、一人暮らしだから料理は慣れてっけど、お菓子とか作れねえんですよ。
先輩の方こそ、金じゃ買えないもんでしょ?
愛情たっぷりの手作りチョコとか、うらやましいっすよ」
「お、そうか?」
先輩の機嫌が目に見えてよくなった。まあ、この人は自分のカノジョを自慢したがるとこがあるからな。
「で、んな高いもんもらって、何返すんだ?」
「これから考えます。頭痛いっすよ」
テキトーにごまかしといた。さすがにアレは言えないもんな。
「…って言われたんだけど、女の人ってさ、好きって言ってほしいもん?」
「そりゃあ、言われた方が嬉しいだろう」
「センセーも?」
センセーも、恋人から好きとか愛してるとか言われてんのかな。なんか、それ、ちょっと面白くない。
もし俺が「センセー好きだよ」とか言ったら、どんな顔すんだろ? や、俺には美弥子さんがいんだけどさ。
「だから、プライベートな質問には答えないと言っているだろう。
…一般論として、男女問わず、言葉を欲しがる層というのが存在する。
どうやら、カノジョから言葉をねだられたようだが、キミ達の場合、少々特殊だからな。
あまり表立って一緒にいられない分、言葉や態度で確かめたいと思うのは不思議じゃないな」
そっか。美弥子さん、不安なんだ。俺がフラフラしてんの感じてんのかな。
浮気はよくないよ。
美弥子さん、色々悩んでるみたいだけど俺のこと好きでいてくれてんのは間違いないし、俺だって美弥子さんのこと好きなのは嘘じゃない。
嫌なとこがあるわけでも…デートもできねえってのは、つまんないし、キスしかできないのも嫌だけど…。
あと2か月の我慢だ。
そうすりゃ、もうちょいなんとかなんだろ。
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「いらっしゃ~い!」
ホワイトデーは、やっぱ平日だったけど、美弥子さんちに呼ばれた。
土曜と同じようにメシ食って、風呂に入った。
「いつも我慢ばっかりさせちゃっててごめんね。
大好きよ」
いつもなら、入ってすぐ泡をつけるのに、そのまま抱きついてキスしてきた。俺が抱きしめても、そのまま手を動かしても嫌がらない。
今までで一番長かったんじゃないかってくらい長いキスの後、2人で風呂に浸かってもう一度キスした。
お湯から出た美弥子さんは、体中泡をくっつけて、卵から手足が出てるみたいになった。
「いっぱい洗って? 泡がなくなるまで」
初めて会った日みたいな、いたずらっぽいみたいな、甘えてるみたいな目で俺を見てる。
泡の塊の中に手を突っ込むと、
「泡落とさないと洗えないね」
なんて笑う。ったく、なんだよそのいたずらっ子みたいな目は!
左手で美弥子さんの右手を掴んで、右手で腹んとこから泡をすくい取って右腕をこする。
同じように左腕も。それから、しゃがみ込んで足を洗う。見上げると、泡が薄くなって体が透けて見えた。
「ほら、体も洗って?」
透けてんのわかってんだろうに、美弥子さんは楽しそうに笑ってる。
背中は泡を伸ばしながらこする。
「下まで洗ってね。洗い残しは駄目よ?」
背中からだけど、笑ってんのがわかる。
前の方を洗う頃には、なんかもう我慢できない感じになってきてた。
洗い終わってシャワーで泡を流しても、美弥子さんは笑ってた。
「ほらぁ、まだ洗ってくれてないところがあるじゃない。洗い残しは駄目だって言ったでしょ?」
なんて言いながら、また抱きついてきた。
風呂場だし、最後まではしなかったけど、今までで一番あちこち触った夜だった。




