38 バレンタイン
バレンタイン。手作りのチョコとか作る腕も余裕もないので、デパートで有名メーカーの詰め合わせを買った。
まぁ、ね。あたし個人の好みとしては、チョコは日本のメーカーのが一番だと思うんだけど。
愛情をお金に換算するのはどうかと思うけど、買ってすませるなら、金額とか見栄えとかって大事だとは思うんだ。男の子にそれが通じるかって問題もあるから、自己満足だけどね。でも、先輩くんに写真見せるだろうから、ある程度押し出しも必要だと思う。
あと、もう1つ、ホワイトデーの問題もあるけど。倍返しとか、求めてないからねって言っとかないと。
バレンタインは平日だったけど、ここはその日のうちに渡したい。だから、仕事を早々に切り上げて、急いで帰ってきた。
メイク落として、もう一度プライベートモードで化粧し直して、髪も直して。今日のために温めるだけの料理も用意してる。
「雄樹くん、今日は一緒にご飯食べよ。おうち帰ったら、教えて」
って朝のうちにメッセしといたし、返事もあったから、今は連絡待ち。
「今帰ってきたから。速攻シャワー浴びてそっち行く」
よし、温めよう。
「はい、バレンタイン。大好きよ、雄樹くん」
「ありがと。わ、なんか豪華なんだけど」
「社会人だし、先輩くんに写真見せても大丈夫なものをって思って。
お返しはね、ホワイトデーの夜、お姫様みたいにお風呂で洗って?」
「…そんなんでいいのかよ」
「うん。あと、いっぱい好きって言ってほしい」
「全然釣り合ってねえだろ。子供の肩たたき券かよ」
あ、そういう取り方もあるんだ。
「お金より、気持ちを言葉にして、態度で見せてほしいの。
あと2か月で、やっと普通の恋人同士になれるし、ホワイトデーはその1か月前だし」
「言葉?」
雄樹くん、不思議そうな顔してる。男の子だと、そういう感覚わかんないのかな。
「うん、あのね、わかっていても言葉にしてほしいことってあるの。それで、抱きしめられて、大好きだよって耳元で囁いてもらって幸せに浸るの」
「囁かれっと幸せになんの?」
「そうだよぉ。女の子って、案外単純なことで喜ぶんだから」
次の週末、雄樹くんとの面談の日。
結局、2週に1回のままずるずる続けてる。そういえば、三者面談は、ご両親がお正月明けにまた出国しちゃったせいで、できずじまいだったなぁ。
「女の人ってさ、好きって言ってほしいもん?」
雄樹くんは、この前のこと、納得できてないらしい。
「そりゃあ、言われた方が嬉しいだろう」
「センセーも?」
「だから、プライベートな質問には答えないと言っているだろう。…一般論として、男女問わず、言葉を欲しがる層というのが存在する。
どうやら、カノジョから言葉をねだられたようだが、キミ達の場合、少々特殊だからな。
あまり表立って一緒にいられない分、言葉や態度で確かめたいと思うのは不思議じゃないな」
なぁんて、全部あたしのことだけどね。
タチの悪いマッチポンプよねぇ。自分の言葉に自分で裏付け与えるなんて。
ホワイトデーは、いっぱい「好き」って言ってもらえた。
隅々まで洗ってもらって、ちょっと舐めたりとかもあったけど、一応セーフ。




