37 実家で
「ごめん、美弥子さん、親が帰ってくることになっちまって、クリスマスとか、じいちゃんとこ行かなきゃなくなった」
なんか雄樹くんが深刻そうな顔してると思ったら、ご両親が帰国するらしい。このマンションじゃ、3人で寝泊まりするには狭いし布団もないしで、県外にある父方のおじいさんの家に行くことになったらしい。
終業式が終わってすぐ、ということは、クリスマスはこっちにはいないことになる。雄樹くんは、それを言うのに気後れしてたみたい。
申し訳ないことに、あたしは喜んでしまった。もちろん、クリスマスも年末年始も会えないというのは寂しいんだけど、クリスマスに盛り上がってつい体を重ねてしまうというリスクを考えると、外的な理由から会えないという状況は、むしろ歓迎できる。
「実はさ、あたしも家から、お正月は帰ってきなさいとか言われちゃってて、どうしようかと思ってたんだぁ。クリスマスからなのは残念だけど、どうせクリスマスは平日だから次の土曜にやるつもりだったし、駄目なら駄目でしょうがないよね」
最近は実家に連絡してないけど、たまに母さんから電話が来ると、決まって「いい人いないの?」って訊かれる。
今付き合ってる人がいるって言ったら、きっとしばらくは静かになるのは予想できる。万が一駄目になったら、そりゃもう大変だろうけど…大丈夫、そんなことにはならない。しない。
あたしは、絶対雄樹くんと別れない。
終業式の後も、御用納めまで仕事して、実家に帰った。
クリスマスに、一応メリクリメッセは送ったけど、もう1週間以上雄樹くんに会ってない。
当然というか、電話もできてないし。
「あんた、もう四捨五入したら30よ。
いい加減、いい人いないの?」
もう、いないの前提にまくしたてられた。
うん、カレシ作る気ないって言ってたからね、しょうがない。でも。
「実は、今、付き合ってる人がいるの」
「ホント!? どんな人!?」
予想どおり、母さんは目の色変えて詰め寄ってきた。まぁ、受け持ちの生徒だとバレなければいい話だからね。
「春から付き合ってる。ほら、この人」
クラゲの水族館に行った時の写真を見せる。
「ずいぶんがっしりした人ねぇ」
よし、うまく話をはぐらかした。この外見だと誰も高校生とは思わないから、長い目で見てちょうだい。変にかき回されたくないの。
「ちゃんと考えてるのね?」
「うん、それは大丈夫」
母さんは、あたしから言質を取って、一応満足したらしい。
細かいことを訊かれても「内緒!」の一言でごまかし続けた。ツーショット写真があるから、それでも信じてもらえる。あたしが一時凌ぎの嘘を吐くタイプじゃないのは知ってるから。うん、あたしの融通の利かなさがこんなところで役に立つとは思ってなかったけど。
いずれは、大学生だって紹介しなきゃいけなくなるんだろうけど、少なくとも高校生のうちは無理だもんね。あたしの結婚は、早くても30過ぎになるけど。雄樹くんがいいんだもの、仕方ないよね。
「心配掛けてごめんだけど、すぐに結婚とかって話にはならないの。しばらく見守っててくれると嬉しい」
本当に見守られたら困るけど、もちろんその辺はわかってるだろう。要するに、変に手を出さないで放っといてくれってこと。
あたしが干渉されるの嫌いなのは知ってるだろうしね。
その夜、雄樹くんにパインした。
「親に、付き合ってる人がいるって言っちゃった。
もちろん詳しいことは言ってないけど、結婚を前提に付き合ってるからって」
少しして返信が来た。
「え、マジ!? 俺も言っちゃっていい?」
あ、文章から、喜んでくれてるのが伝わってくる。
「さすがに、雄樹くんは結婚を前提とか言わないでね?
あと、あたしが26だってことも。絶対心配されちゃうから」
前にも言ったことだけど、つい流れで言っちゃいそうだから、念を押しとく。
「そっか。俺、うまくごまかせないから黙っとく」
あはは、この前の会話のまんまだ。
雄樹くんの気持ちが伝わってくるよ。胸があったかくなる。やっぱり雄樹くんが好き。雄樹くんじゃなきゃ嫌だ。
「ハッピーニューイヤー! あと4か月弱で18だね!」
新年になると同時に、ニューイヤーメッセを送ったら、20秒くらいで返ってきた。
「ハッピーニューイヤー! あと4か月、長いな~(^^;)」
うん、あたしもそう思う。
あたしが雄樹くんの担任でなくなって、雄樹くんが18になったら。
もう、隠し事はなし。内緒にしてたこと、怒られるかもしれないけど、それで駄目になるような信頼関係じゃないって信じてる。
まぁ、びっくりするんだろうけどね。




