34 修学旅行の夜(SIDE:雄樹)
修学旅行っつったら、新しいカップルができたり、班別行動をこっそり抜け出してデートしたりって感じで楽しくやるもんだと思うんだが。
なんせカンジンのカノジョが来てないんだから、何もできない。
美弥子さんは社会人だし、無理なのはわかってたけど、ダメ元で、こっちでこっそり会えないかって言ってみたんだけど、まるっきり本気にもされないで「そんな漫画みたいなこと、無理だよ~」なんて大笑いされた。
いや、わかっちゃいたけどよ。休みとんなきゃなんねえし、交通費だってバカになんねえだろうし。でも、“う~ん、行きたいのは山々だけど…”とか考えてほしかったよなあ。
相手にされなくて「おみやげ買ってくる」って言ったら、「お菓子とかはいいから、お揃いの小物がいいなぁ」とか言われた。
お揃いの小物か。ストラップとかそんなんかな。
巽先輩に何買いましたって聞いたら、ナントカ織っていう布でできたストラップを買ったらしい。カノジョさんが選んだやつだって。
売ってる場所とか聞いといたから、近くに行ったら買おう。
夜は行動制限が厳しくて、ほとんど部屋から出られないんで、みんなスマホでゲームしたりしてた。
お約束の先生の見回りまでちゃんとあるから、ハメを外せない。枕投げなんて都市伝説だ。
見回りで注意を受けると、自由行動の時間が反省文書きの時間に変わるらしい。冗談きついって。
キョーセンセーは、例によってきっちりかっちり厳しくチェックするらしい。
「ルールの範囲内ならうるさいことを言う気はないが、1歩でもはみ出したら、きっちり対処せざるを得ないからな」
とか真顔で言ってたからな。ああいう顔してっ時のキョーセンセーは、マジで冗談が通じない。
気を付けようと思ってたんだけど。
ちょっと飲み物買いに1人で部屋を出たら、キョーセンセーに見付かった。いや、自販機に行くくらいは許されてっから、怒られるこたないと思うけど。
キョーセンセーは、髪が濡れてて風呂上がりっぽいのに、いつもどおりのスーツ姿で見回りしてやがる。
普通、そこはジャージじゃねえの? ほかの先生は、男も女もジャージなのにな。
「富井、どうした? もうじき消灯時間だぞ」
「ちょっと飲み物買いに。すぐ戻るんで」
「ならいいが、急いだ方がいい。部屋に戻る前に消灯時間になると、ことだぞ」
通り過ぎたキョーセンセーは、シャンプーかなんかの匂いがした。美弥子さんとは違う匂いだけど、いい匂いだ。
髪の毛濡れてっと、なんか、こう、いいよな。
センセーは美弥子さんよか胸大っきいんだなあ。
おっと、さっさと買って戻んねえと。
修学旅行の夜と言えば恋バナ…なのは女子だけど、男子だってそういう話はする。ただ、恋バナというイメージよりも下品で露骨なだけで。
誰がカノジョ持ちだとか、どこまでいったとか、そんな話だ。カノジョがいる奴はヒーローになる。
俺は、カノジョがいることは部活以外では言ってないし、細かいことは巽先輩にしか言ってない。クラスでは、言うと面倒なんで、カノジョいない組に入ってる。
意外と言うべきなのか、当然と言うべきなのか、7人中2人しかいないカノジョ持ちは、とっくにやることやってるそうだ。
「なあ、どうやってそういう方向に持ってくんだ?」
って聞いたら、「んなもん、部屋までついてくりゃオッケーってこったろ」とか返ってきた。そういや、俺も部屋に入れた時だったな。…って、あれは別な話だよな。
そんな話をしてたら、「キョーセンセーも胸デケエよな」なんて言い出した奴がいた。うん、確かに。今まで気にしてなかったけど、さっき見たアレはなかなかのもんだった。美弥子さんよりだいぶ大きそうだ。
「富井ってさあ、キョーセンセーんとこよく行くじゃん。何か話したりすんのか?」
「そりゃ、多少は」
多少なんてもんじゃなくて、恋愛相談とかしてっけど。
「よくもまあ、あんなカタブツのとこ行くよな~って思ってたんだ。
顔とか胸とか、まあまあだけど、“~~だぞ”とか、ほんとに女かって」
たしかにキョーセンセーはカタいとこもあるけどな。
「わざわざ資料とか作ってんだぜ、努力家なんじゃねえ?」
そう言ってやっても、みんなピンとこないみたいだった。
まあいいさ。キョーセンセーのいいとこは俺が知ってれば。
キョーセンセーの話題が出たせいか、俺にカノジョがいるかって聞いてくる奴はいなくて、無事に切り抜けられた。
美弥子さんへのおみやげは、予定どおり布のストラップにした、
俺のとお揃いのストラップを嬉しそうにスマホに付ける美弥子さんは、すっげえ可愛かった。




