28 ピンクのお風呂
マッチポンプもいいところだけど、バスバブルを使ってのお風呂タイムは大成功だった。
状況的に、触る以上のことはできないし、それなりの接触はできるしで、かなり満足感がある。
雄樹くんとしても、部活の先輩から色々言われてストレスだったのが、無難に話せる経験にできたし。
バスバブルなんて、こっそりとは使いにくいアイテムだし、一般的な高校生ならホテルになんて入らないだろうから、先輩くんにも新鮮な話だよね。
これくらいで、うまくブレーキをかけておけば、あと9か月、なんとかなるかも。
金曜日の昼休み、いつものように雄樹くんを相談室に迎えると、満面の笑みだった。
「センセー、さんきゅ。カノジョも楽しそうだったし、先輩もうまいことやれたわ」
それはなにより。キミが満足してくれて、あたしも嬉しいよ。
「何より、美…カノジョが可愛くてさ。
や、元々可愛いんだけどさ、明るいところで裸見んの初めてだったし、恥ずかしがる姿も、もう…」
ちょっと! そりゃ、褒められるのは嬉しいけど、裸見た感想とか他人に言う!?
まさか、先輩にもそんなこと言ったんじゃないでしょうね!?
「んん! あ〜、そういう細かい情報はいらない。キミはもう少しデリカシーを持て」
けど、雄樹くんはご機嫌で、次の予定を話してくれる。
「この前はハイレグだったから、今度は普通のビキニにしようかな。
カノジョの裸、ちゃんと見たことなかったし、なるべく肌が出るようにしようかと」
そんな理由だったの!? そりゃ、初めての時は、部屋暗くしてたし、じっくり裸見る余裕なんてなかったんだろうけどさ。
「あ~…触るのはともかく、絶対に舐めないように。アレは石鹸だからな。
舐めるなら、ちゃんと泡を落としてから。シャワーで落としてもいいし、体を洗ってあげてからというのでもいいし」
それくらいなら、きっと大丈夫。泡を落としてから抱き合ったりできるし。
「背中流してもらわなかった…」
なんか、愕然って感じで雄樹くんが言う。
そっか、残念だったんだね。じゃあ、明日はあたしが背中流してあげるよ。
「明日洗ってもらえばいいじゃないか」
ニヤけてしまわないように注意しながら、さも何でもないことのように言ってみせる。だって、可愛いじゃない。さんざんあたしのこと洗ってくれたのに、自分が洗ってもらうの忘れたとか落ち込むなんて。
きっと幸せっていうのは、こんな気持ちのことを言うんだと思う。なんてことない小さな一言を嬉しく感じる。ドラマチックである必要なんてないの。あたし、今、幸せだから。
「そっか! そうだよな! また明日があるもんな!」
「そうだろう? キミとカノジョは、まだまだ先が長いんだ。焦ることはないよ」
教師らしくちょっと偉そうな言い方で締めて、話は終わった。
「さんきゅー、センセー」
お礼を言うのは、あたしの方だよ。
ありがとう、あたしを好きになってくれて。こんなメンドクサイ女でごめんね。
さて、と。
バスバブルはいろんなのが出てるから、あたしの方でも買ってみようかな。
土曜日の買い出しで、ちょっと足を伸ばしてデパートに行って、バス用品のコーナーを覗いてみる。
当然というか、香り付きのものもあるんだよね。定番だと、やっぱりバラ系だよね。
お湯もピンクになりつつ、泡も出る。まぁ。泡自体は普通に白いんだけどさ。
雄樹くんもまた持ってくるのかもしれないけど、それを今日使わなきゃいけないってこともないし、今日はあたしが用意しよう。
次回分とかも併せて、いくつか買っていこうか。そんなしょっちゅう来るのもアレだしね。
「じゃーん! 今日はあたしが面白いものを用意しました!」
ご飯の後、プラスチックの箱に入ったピンク色のボールを見せると、雄樹くんが目を丸くした。
「…なに、これ?」
「これはですねぇ、バスボールといって、バスバブルの一種なのです♪
今日はこれ使ってみない?
色付きなんだよ。あたしも使うの初めてだけどさ」
「俺、この前のと同じの、持って来たけど」
「うん、ありがと。それは次回にとっておいて、今日はこっち使わない? 売り場で見付けて、色々買ったんだ♡」
「あ…うん、いいけど」
「お風呂溜めるよ? あ、これ、ゼリーみたい」
バスボールは、表面はゴムかなにかみたいな感じで、中に液体が入っていた。
なんだろう、ちょっと柔らかいゴムボールみたいな。雄樹くんも触ってみて驚いてた。
お湯が溜まって、水面の上には、もこもこの泡がいっぱい。
「なあ、なんか、泡がピンクっぽくない?」
雄樹くんがそんなことを言う。おかしいな。泡は白いって聞いたんだけど。
「ほんとだ、ピンクに見えるね」
たしかに、薄いピンクって感じだ。まぁいいか。
ちょっと掬ってみると、泡は白かった。
「あれ? 白いよ?」
「ホントだ。なんでだ?」
とりあえず、掬った泡を雄樹くんの胸にくっつけてみる。せっかくだから、胸があるみたいに盛ってみようか。
「ちょ、美弥子さん、何やってんだよ!?」
「ん~、雄樹くんにも泡のビキニをやってみようかなぁ、なんて」
「なんで俺がビキニなんだよ! おかしいだろ!」
雄樹くんは文句言ってるけど、本当に怒ってるわけじゃない。恋人同士のじゃれ合いだね。なんか、こういうことやれるのって、いいよね。
「せっかくだから、今日はあたしが雄樹くん洗ったげる」
雄樹くんを椅子に座らせて、背中を洗う。そういえば、そんなことするの初めてだ。子供の頃に、お父さんの背中を洗ったことはあるけど。
やっぱり雄樹くん、男の子だねぇ。バスケやって体鍛えてるから、背中は広いし、筋肉もすごいし。
ああ、逞しい背中って、こういうのを言うんだね。
「お…」
雄樹くんが驚いたような声を上げた。
あ、あたし! 思わず背中から抱きしめちゃってた!
「あ、ごめんね」
慌てて離れると、雄樹くんが残念そうな声を出す。やだ、抱きしめてほしくなってきちゃった。
なんとか我慢して、体を洗って、2人してバスタブに浸かった。
泡がピンクに見えたのは、お湯のピンクが透けてたからだって、浸かってから気付いた。




