26 泡のビキニ
7月になった。ありがたいことに、雄樹くんはあたしのお願いを聞いて、色々と我慢してくれている。
申し訳ないと思うと同時に、大事にしてくれているという喜びがわき上がってくるのがわかる。
そのせいで、雄樹くんは部活の先輩からどうなったか訊かれても答えられなくて困っているらしい。
4月の頭に、あたしのことで相談しちゃったのが発端らしいから、そうなるのも仕方ないのかもしれない。
そんな申し訳なさから、あたしは毎週金曜のお昼休みに進路相談室で雄樹くんからの相談を受けることにした。
日時が決まっている方が、相談室の予約とか時間調整とかやりやすいから。
お弁当を食べる時間が短くなっちゃうけど、雄樹くんに掛けている負担の大きさを考えれば、これくらい軽いものだ。
どうやら、雄樹くんは嘘が吐けないというか、知ったかぶりができないようで、“カノジョとのえっち”の話をごまかせないみたいだ。3か月間ずっと正常位だけでフェラとかもしてないことに、“ワンパターンで嫌われるんじゃないか”という助言を与えられたらしい。正直、余計なお世話だけど、先輩くんとしてはきっと親切心からなんだろう。
この辺は、本当に雄樹くんに申し訳ないところだ。最初の1回だけなんだから、そりゃ説明に詰まるよね。
本当は、あたしも、雄樹くんに抱かれたい。
最近では、キスしていると、もっと触ってほしい、このまま抱かれたいって、口を突いて出そうなくらい。でも、あたしの言葉を受けて、若い雄樹くんが我慢してくれてるのに、あたしの方からそれを崩すことなんてできない。
「一緒に風呂でも入ったらどうだ?」
妥協点として、あたしはお風呂場でイチャイチャすることを提案してみた。
お互い裸で触れ合えるし、淫行にも当たらない。
…詭弁だってことはわかってる。
外にバレたら、結局は淫行って言われてしまうことだ。
えっちのためじゃないって自分に言い訳できるようにして、少しでも触れ合いたいだけだ。
昔一度だけやってみた、バスバブルの泡のドレスをやって遊んだら、先輩くんも参考にできるし、雄樹くんも嘘を吐かずに間を持たせられるだろう。
雄樹くんに提案してみると、いい感じに食いついてきてくれた。
念のため、あたしも1個用意しておこうか。あれは、普段のお風呂でも使えるものだし。
「ねえ美弥子さん、今日はさ、一緒に風呂入らない?」
きたきた! とりあえずとぼけて。
「お風呂? 雄樹くん、もうシャワー浴びてきたんじゃないの?」
「うん、それはそうなんだけどさ、今日は風呂で遊びたいなあって」
「遊ぶの? お風呂で? まさか水鉄砲じゃないよね?」
「違う違う、あのさ、こんなのがあるって聞いてさ」
雄樹くんは、バッグから小さな箱を取り出した。
「なにそれ?」
「バスバブルっていうらしいんだけどさ、これ風呂に入れると、すっげえ泡が出るんだって」
「ああ、あれね。うん、泡出るよね。あたしもたまに使ってる」
「え!? 使ってんの!?」
あ、泡のドレスのことだと思ってるかな?
「いい香りがするよね。昔映画でさ、ユニットバスでバスバブル泡立てて、ボディブラシで背中洗ってる画を見て憧れたのよ」
「ボディブラシって?」
「でっかい歯ブラシみたいなので、体を洗うのよ。見たことない?」
「全然」
「あたしも実家にいた頃は使ったことはなかったんだけどさ、一人暮らしになって、自分だけで泡消えちゃっても誰も困らないから、やってみたのよ。
入浴剤代わりにたまに使ってるよ」
「そっか。
うん、ちょっと面白い使い方聞いてきたからさ、やってみない?」
あ、雄樹くん、上手に誘ってる。
「一緒にお風呂入るの? …うん、わかった。
付き合ってるんだもん、一緒にお風呂くらい、いいよね」
2人で並んでお湯を張りつつ、バスバブルを放り込む。お湯が溜まれば勝手に止まるから、それまでおしゃべりしてよう。
「初めてだね、一緒にお風呂なんて。楽しみ♡」
「俺も嬉しいよ」
雄樹くんの目が複雑な色を宿してる。
欲望の籠もった感じ、本当に楽しみな感じ、断られないでホッとしてる感じ。
お湯が溜まって、2人で脱衣所で服を脱ぐ。雄樹くんはもう自分ちでシャワー浴びてきてるから、脱いだものはそのままカゴに入れてもらって、あたしのは洗濯機に入れる。
「明るいところで裸見られるのって、やっぱり恥ずかしいね。あたし、胸大きくないし」
雄樹くんは、あたしが脱ぐのをじっと見てる。明るいところでっていうか、落ち着いてあたしの裸を見るのって初めてだもんね。そりゃ見たいよね。
ちょっと恥ずかしいっていうのは本当だけど、今日はそういうのも込みでの話だから、いっぱい見ていいよ。
「うわ~、すっげえ泡!」
「うん、こんな感じだよね。これで、どうやって遊ぶの?」
「えっとね、こう…」
泡を手のひらですくって、あたしの胸にのせる。
次々とすくってはあたしにつけて、あたしの胸には泡の塊ができた。…前だけ。
「わ…あたし、巨乳になっちゃった♪」
おどけて言ったら、雄樹くんはへへって笑って、今度はお尻に泡をくっつけた。あたしからは見えないけど、感触からするとかなり狭い範囲みたい。その後、前の方にも盛って、どうやら完成したらしい。
「これ…何?」
一応訊いてみると
「泡のビキニ。すっげえ似合ってる」
なんて笑う。
「ちょっとキワドくない?」
胸はカップが隠れてるだけだし、下も相当なハイレグだ。きっと後ろの方なんかほとんど隠れてないに違いない。
「美弥子さん、チョー綺麗」
わぁ…。なんて目で見てるの? 恥ずかしいカッコがどうでもよくなっちゃうような、愛おしいって想いが溢れてくるような目。
抱いてほしい。あの目で組み敷かれたい。そしたら、きっと幸せになれる。
自分で決めたことなのに、破りたい気持ちになっちゃう。
「美弥子さん、体、洗ったげる」
「うん…」
椅子に座って、背中を洗ってもらう。雄樹くんは、優しい手つきで、撫でるように洗ってくれた。時々、勢い余って下に下がりすぎたりもしたけど、これは背中を洗ってもらってるだけ。
前も洗ってもらって、バスタブに2人で浸かる頃には、あたしはのぼせかけていた。
また一緒にお風呂に入る約束もした。次は、あたしが雄樹くんを洗ってあげるからね。




