25 お悩み相談室(SIDE:雄樹)
「なんだあ? ま~だバックやってねえのか?」
「カノジョ、恥ずかしがり屋なんですよ」
「口もか?」
「俺達会うの、メシ時だけですんで」
7月になっても、毎週のように巽先輩とそんな話をしてる。
先輩としては、ヤジウマ根性だけじゃなくて一応俺の心配もしてくれてるらしい。
オススメのデートコースとかも教えてくれるし。
とはいえ、先輩もまだ高校生なわけで、教えてくれんのは近場であんま金のかかんねえとこなんで、正直あんま参考にならない。
美弥子さん、近場は嫌がるから。
ゴールデンに言ってた県内の水族館へは、夏休みになったら行こうってことになってる。
とりあえず先輩としちゃ、俺と美弥子さんの進展具合が気になってるみたいだ。先輩のカノジョは同じクラスの人らしいから、社会人と付き合ってる俺らがどうしてるのか聞きたがる。
美弥子さんの悩みとか心配とか考えっと、あんま軽はずみに話すわけにはいかないんだけど、最初、俺が落ち込んでた時に心配してくれた人だから、相手しないわけにもいかないしな。
そんなわけで、いつも答えに困ってたんだけど、救世主が現れた。
「センセー、メシは食ったの?」
「一応ね。正直、もっとゆっくり食べたいところだけど」
毎週金曜日の昼休み、俺は進路相談室でキョー先生に相談に乗ってもらってる。
「ごめん、センセーしか頼れる人いなくてさ」
「ここは一応“進路”相談をする部屋であって、青少年のお悩み相談室ではないんだけどな。
まぁいい、そんなことを言っていても時間の無駄だ。
それで、先輩がどうしたって?」
「相変わらず。
なんでほかのことしねえのかって」
「本当に相変わらずだな。
毎週相談する必要があるのか、甚だ疑問なんだが」
センセーは、いかにも頭が痛いって感じで額に指を当てた。
悪いとは思ってるけど、先輩に変に疑われっとなんか面倒なことになりそうなんだよ。
「ホント、悪いけど知恵貸してよ。
俺じゃ、どう答えりゃいいかわかんねえんだよ」
両手を合わせて拝む。
なんつーか、やってないことをうまくしゃべる自信ないし、バカ正直にヤらない理由言うわけにいかないしで、どうしたらいいかわかんねえんだ。
「まぁ、恋人の意向を尊重したいというキミの気持ちは高く評価するよ。
キミくらいの年代だと、自分の欲を優先しがちだからな。
だからこそ、こうして相談にも乗っているんだが……正直、適当にごまかせ以外の答えはないぞ」
「そのテキトーがわかんねえんだって」
「そもそもだな。恋人同士の付き合い方などというものは、本来千差万別だ。
会ったその日に最後まで行くカップルもあれば、1年以上そういう関係に進まないカップルもある。
それぞれの考えというものもあるし、したから、しないから、いい悪いというものでもない。
キミの先輩のそれは、余計なお世話というものだ」
余計なお世話、か。そりゃそうなのかもしれねえけど、だからって無視できねえんだって。
「そりゃまあそのとおりなんだけどさ、部活の先輩だし、そういうわけにもいかねえんだって」
「確認するが、キミはカノジョの意思を尊重して、18になるまで我慢するつもりなんだな?」
「まあね」
「大事に想っているんだな。
最初が最初だから、少々無理もあるが、相手はこれまでの恋人とも正常位以外したことがないとか、そういった方向で押すしかないだろうな」
「ならやってみればって言われっからなあ…」
そう言うと、センセーは少し目をつぶって考えた後
「それなら、違う方向でアプローチしてみるか」
と言った。
「違う方向?」
「要するにだな、その先輩はキミ達の恋人らしいエピソードを聞いて楽しみたいのだろう。ならば、キミ達にできるレベルで、なおかつ先輩がやっていないであろうイチャつき方をすればいい。
一緒に風呂にでも入ったらどうだ?」
「風呂?」
「食事の後、一緒に入って体でも洗ってやれ。その場で多少の睦言でも囁いて、それを先輩に話してやればいい」
「先輩もカノジョと風呂くらい入ってんじゃねえ?」
「高校生同士だと、一緒に風呂に入るには、親の留守を狙うかホテルにでも行くしかない。あまり経験はないと思うぞ。可能性はゼロではないが。
ならば、もう一歩先だ。泡のドレス、というのを知っているか?」
「なにそれ、知らない」
「洋物の映画などで、バスタブが泡で埋め尽くされているのを見たことはないか? あれはバスバブルというのを入れるんだ。
キミのところはジェットバスはついているか?」
「ジェットバスって?」
「バスタブの中で、水流や空気でマッサージする系の機能だ」
「ないとダメ?」
「ないなら、お湯を溜めている段階で入れれば大丈夫だ。
そうすると、水面の上に大量の泡ができるんだが、これはかなり腰の強い泡でな。
泡だけ掬い取って体につけると、かなり厚い泡の層ができる。肌が見えないほどにな。
胸と腰だけ覆えば泡の水着、肩から腿まで覆えば泡のドレスだ。
そうやって遊んだ話をすれば、あちらもマネできるし、満足するんじゃないか?」
「美弥…カノジョ、やってくれるかな…」
「キミがこんなことを知っているはずがないから、実際にやらずとも話をすれば先輩は納得するんじゃないか?」
「俺、嘘ついてごまかすの下手なんだよ」
「ならば、恋人を説得するのだな。
背中の流し合いをしたいとでも言えば、さほど抵抗はなかろう」
「ちなみに、バスなんとかって、どこで売ってんの?」
「バスバブルだ。
少し大きなスーパーなら、1個数百円で売っているぞ」
「通販で買えっかな…」
「そりゃあ、売っているんじゃないか? 送料を気にしなければ便利だ」
「ん、サンキュ、センセー。
やってみる。風呂でイチャイチャできたら、俺も嬉しいし」
「盛り上がりすぎて、うっかり先に進まないようにな。まぁ、相手が嫌がらないなら、それも悪くないが」
「ん、気を付ける。
結果はセンセーにも報告するよ」
「いるか、そんな報告。他人の情事に首を突っ込む趣味はない」
キョーセンセーのありがたい助言に感謝しながら、俺は相談室を出た。
帰りにスーパー寄ってみっか。




