22 初デート(SIDE:雄樹)
ゴールデンウィーク中に、部活の休みが入った。1日くらい休み入れないと辛いという意見と、大事な時期なんだから毎日少しずつでも練習するべき、という意見がぶつかって、結局“半日休みじゃ何もできない”から連休の中日を休むということで話が決まった。
「よう、トミー、これで愛しのナントカさんとデート行けるな。土産忘れんなよ」
なんて巽先輩に絡まれたけど、実は先輩こそデートする暇がなくて困ってたことを俺は知ってる。
「1日しか休みないのに、みやげ買うほど遠くに行けるわけないじゃないすか」
笑ってごまかしとこう。ホントに遠出できたら、買ってきてもいいけど。
「1日中部屋から一歩も出なかったなんてことになんなよ」
からかう気満々な先輩の言葉に、「んなことしねえっすよ」と返しておいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「じゃあさ、あたしの車でちょっとお出かけしない? ちょっと遠いけど、行ってみたかった水族館があるのよ」
「水族館?」
ホントに遠出になったよ。
でも、水族館だったら遠くに行く必要なんてねんじゃね?
「クラゲに特化した水族館があるの。
一度行ってみたいとは思ってたんだけど、ほら、水族館って割と一般的なデートコースじゃない? ぼっちで行く度胸がなくて、今まで行けなかったのよねぇ」
「クラゲ?」
クラゲ!? なんでクラゲ!? 一緒に行きたいとか言われりゃ、そりゃ悪い気はしねえけど。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
美弥子さんの車は、軽じゃなかった。家族以外で乗るのは俺が初めてだ、なんて言われたら、そりゃ嬉しいに決まってる。
水族館まで海沿いの道を走る。窓を開けて潮風を浴びたり、いつもより美弥子さんも楽しそうだ。遠出が久しぶりなのもあるんだろうけど
「雄樹くんとお出かけだよ? そりゃテンション上がるでしょ~」
とか言われっと、なんかすげえ嬉しい。
水族館までの2時間半くらいノンストップで走ったけど、美弥子さんは疲れたって感じもなく、クラゲのくっついた看板を見てはしゃいでる。看板をバックにスマホで写真撮ったり。考えてみりゃ、美弥子さんと写真撮んの、初めてじゃねえか。
ウミネコのショーも見た。イルカとかアシカとかならわかるけど、ウミネコだ。カモメと何が違うのかわかんねえけど、違う鳥らしい。
最初のうちは、小魚を放り投げたのを空中で食うなんてのをやってたけど、そのうち棒の先に魚かなんかくっつけたのを取らせるようになった。しまいには、手で持ってるのを取らせる。
斜めになって飛んでって、通りすがりに取ってくらしい。ウミネコって器用なんだな。
色んなクラゲの展示はあったけど、ウミネコが一番楽しかった。美弥子さんもウミネコ見てる時が一番楽しそうだった。
食堂のメニューも、無理矢理クラゲに引っかけたラーメンとかあって笑っちゃったけど、美弥子さんは真剣な顔でラーメン食べて、「おいしくない」って残念がってた。
後は、おみやげだ。
先輩の話じゃねえけど、カノジョと遊び行ってきたって証拠だ。美弥子さん、年の差気にしてんのか、俺と一緒にいるの見られたくないみたいで、ちょっと不安になる。
バカみたいだけど、なんとなく、美弥子さんいつの間にかいなくなって、いたって証拠もなくなっちゃうんじゃないかって心配になるんだ。今日、初めて2人の写真を撮らせてくれたし、これ先輩に見せて、俺にカノジョがいるって証拠見せたい。
「俺のカノジョです~って? 写真も見せちゃう?」
「ダメ?」
いいって言ってくれよ、頼むから。俺のカノジョだって自慢させてくれ。
「いいけど、恥ずかしいからアップの写真は見せないでね。若作りとか言われたら、立ち直れないかも」
美弥子さんは、照れながら許してくれた。
「これで雄樹くんにあたしがいることが知れ渡れば、ライバルが出てくる危険も減るだろうし」
ライバルなんて、出てくるわけないけどな。
「心配だよぉ。だって、こんなにステキな彼氏なんだもの」
ハートが付きそうなくらいとろけた顔で、美弥子さんが笑った。
ちゃんとここにいる、俺のカノジョだって、すっげえ嬉しかった。




