21 初デート その2
敢えて大人2枚としてチケットを買って入った水族館は、確かにクラゲの展示が多かった。
「生まれたばかりのクラゲだって、ほら! 全然クラゲっぽくないのね」
「なんかプランクトンみたいだな…」
アシカやイルカのショーもあったけど、一番面白かったのはウミネコの餌やり。
飼育員のお姉さんが先に何か──たぶん、肉──を付けた棒を掲げると、ウミネコがす~っと飛んできて、棒の近くを通り過ぎる。それだけのように思えるけど、棒の先の肉はなくなってた。
「ほら、雄樹くん、肉持ってかれたよ」
「ホントだ、すれ違っただけなのにな」
ウミネコは、水族館で飼ってるってわけじゃなくて野生だから、何羽もいる。近くで旋回していて、タイミングの合ったのが飛んで来るみたい。
飼育員のお姉さんは、棒をだんだん短く持つようになって、しまいには直接手で持つようになった。ウミネコはそれでもすいっと肉を奪っていく。
「すげえ、直接手から持ってってるよ。よく指食いちぎられねえな」
雄樹くんが感心したって感じで興奮してる。
「そうだね。一応、手袋してるみたいだけど、怖いよね」
「は~い、それじゃあ、やってみたい方いらっしゃいますか~?」
お姉さんの言葉に、あたし達は顔を見合わせた。雄樹くんの目が“やりたい”って言ってる。
「やってみようか?」
質問の形にはしたけど、これはもう決定事項。2人でうなずき合って、手を挙げた。
残念ながら、当選したのは小学生の男の子だった。まぁ、そりゃそうだよね。
男の子は、さすがに棒でやってた。
お昼は。水族館の中の食堂で食べる。なんか、クラゲ入りのラーメンとかある。
「クラゲ入りだって…」
「クラゲって食えんのか?」
「そりゃ、食べられないものは出さないでしょ~」
「だって、毒あるって、さっき」
さっき、クラゲの解説してたお姉さんは、確かにそう言ってたけど。
「毒のある種類が多いとは言ってたけど、全部が全部ってもんでもないんじゃない?
フグだって食べられるわけだし」
「毒のあるとこ取るんだっけ?」
せっかく来たんだし、話のタネに、クラゲ入りラーメンを食べてみることにした。
「ん~、なんていうか、寒天みたいな? 不味くはないけど、美味しいとは言えないなぁ」
「うまくはないな」
そして、ついでにお土産のコーナーも覗いてみた。
案の定、クラゲ入りの饅頭なんてものが売られている。見た目は、普通の水饅頭っぽいんだけど、どこにクラゲが使われてるかわからないから、ちょっと躊躇する。あ、そっか。あたしはお土産いらないんだった。
雄樹くんは買うつもりあるみたいで、真剣に迷ってる。
「おみやげ買うの?」
誰に、とは訊かない。うっかり親あてか訊いて違うと困る。
「部活の連中にさ、カノジョと遊びに行ってきたって持ってっていい?」
「部活?」
「美弥子さんのこと話したの、巽先輩1人だけなんだけど、イマイチ信じてないみたいで。
県外にデートに行ったっつったら、社会人だって信じてくれっかなって」
部活の先輩…京先生だってバレない限りは問題ないかな。あ、今日、そこそこ写真撮ってるし、それ見せちゃうのかな?
「えへ、俺のカノジョです~って? 写真も見せちゃう?」
「ダメ?」
ちょっと不安げな目で見つめてくる。やっぱりまだ心配されてるかな。
「いいけど、恥ずかしいからアップの写真は見せないでね。若作りとか言われたら、立ち直れないかも」
おどけて答えてみせる。雄樹くんが目に見えてホッとしてる。
あ~あ。あたし、悪いカノジョだね。カレをこんなに心配させちゃうなんて。
「ん~、そういうことなら、おみやげはネタに走ってもよさそうだね。このクラゲ饅頭は話のタネになると思うよ。
部活って何人?」
「30くらいかな」
「じゃあ、2箱で足りるかな」
きっと味はビミョーだと思うけど、ネタとしては悪くない。きっといじられるけど、その分、あたしが何者かという部分は流されるだろう。
少なくとも、雄樹くんに女がいるってことは部活内で周知される。
「美弥子さん、なんか嬉しそう」
「そりゃね。これで雄樹くんにあたしがいることが知れ渡れば、ライバルが出てくる危険も減るだろうし」
「ライバルなんて…」
「心配だよぉ。だって、こんなにステキな彼氏なんだもの」
腕組んでひっついたら、雄樹くんは照れまくってた。




