20 初デート その1
管澤捻さまにいただいたイラストを貼ってあります。
「部活さ、ゴールデンに1日休み入ったんだ」
いつものようにご飯食べながら、雄樹くんが言った。
「休みもらえたの!? すごいね、大会前でしょ?」
「1日骨休めだって。さすがに3日連チャンで1日中練習ってのはキツいし、半日ずつ3日とかより、中1日休み入れた方がいいだろうって」
ああ、なるほど。確かに合理的かも。それをあたしに言ってくるってことは、その日に何かしようってお誘いだよね。
「そっかぁ。じゃあ、1日一緒にいられるね。
どっか行く? あ、でも、体休めなきゃいけないのかな?」
「アスレチック行こうとかだとさすがにまずいけど、遊びに行くくらいなら疲れないって。俺達、付き合ってからずっと部屋でしか会ってないし、たまには外で遊ばねえ?」
そっか、お出かけのお誘いなわけね。
近場だと人目があるから、どっか別のとこがいいね。
「じゃあさ、あたしの車でちょっとお出かけしない? ちょっと遠いけど、行ってみたかった水族館があるのよ」
「水族館?」
「そう。クラゲに特化した水族館があるの。
一度行ってみたいとは思ってたんだけど、ほら、水族館って割と一般的なデートコースじゃない? ぼっちで行く度胸がなくて、今まで行けなかったのよねぇ」
「クラゲ?」
あ、目が点になってる。
「雄樹くん、クラゲ嫌い?」
「好きとか嫌いとか、考えたこともなかった。
いや、クラゲって水族館行きゃ必ずいるよな?」
「いるんだけど、あそこはクラゲ特化をウリにしてるのよ。どんなもんか見てみたいじゃない?」
「じゃない?って…まあ、デートで水族館はたしかに定番だよな。ま、いっか。
あ、入場料とか、自分の分は出すかんな。
なんでもかんでも美弥子さんが出すのはやめてくれよ」
「わかった。
車なら、日帰りで行ってこられるから」
「どこにあるって?」
「お隣の県。県境からすぐだし、県外ってもそんな遠くないよ」
「俺、運転できないからなあ。美弥子さんばっか疲れねえか?」
「昼間なら、どってことないよ。
これでも、免許とって5年くらい経ってるからね」
遠出したことはあんまりないけど、あっち方面には行ったことあるし、暗くなる前に帰れば、どってことないよね。
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そして、連休の中日、9時出発ということで雄樹くんちに集合した。
ずっと運転することになるし、水族館だしで、パンツ系の方がいいんだろうけど、あんまり持ってないんだよね。京先生との区別のために。
階段の上り下りとか考えて、キュロットを選んだ。
そこそこ活動的で、でも可愛い系で。
正直、雄樹くんを悩殺よ! とかは考えてない。外見的なところで気に入られようとかしても無意味だし。なんせあたしは京先生でもあるんだから。意図的に外見を変えてる以上、そのどちらを気に入られても、それは本当のあたしじゃない。
今回必要なのは、“誰が見ても京先生とは思われない外見”に過ぎない。その意味で、満足いく格好になったと思う。
車の方は、仕事には使わないから、中に仕事関係のものは入ってない。そりゃ、車検証でも見られたら名前が載ってるけど、そんなもの見たがる高校生はいないはず。
ピンポーン
インターホンを鳴らすと、ドタバタした気配の後で、雄樹くんが顔を出した。
Tシャツの上からシャツを羽織ってジーンズという、いつものスタイル。
「おはよう、美弥子さん。
すっげえ可愛い」
「え…」
あ、ヤバい。顔が熱い。いや、悩殺とかそういうのはね? 全然考えてなかったのよ? ほんとよ?
あ、ちょっと、何か言わないと、ほら…
「あ、あの…あ…ありがと」
ちょっと! ウブな高校生じゃあるまいし、ちょっと褒められたくらいでなに照れてんのよ、あたし!
「あ…その…行こ?」
「あ、うん。じゃあ、その、よろしく」
「うん…」
「雄樹くんの身長だと、ちょっと狭いかもしれないけど、乗って」
「おじゃま~」
軽でこそないけど、5ナンバーだからなぁ。
なんか、雄樹くんには狭そう。
初めてのドライブ。それこそ、前カレの時は免許取りたてで、車なんか持ってなかったし。親を乗せるくらいしかしたことがない。
「親以外を乗せるの初めてだよ。なんか緊張するね」
「美弥子さん、免許いつ取ったの?」
「3年の夏休みに、合宿免許取ったんだぁ。あ、大学のね。高3の夏はまだ17だったから」
「なのに、誰も乗せてねえの?」
「車買ったのは就職した後だし、基本、買い物と実家帰る時の足だからね」
水族館まで片道2時間半、普段よりゆっくりしゃべれた気がする。




