19 2人の不安
「ごちそうさま」
「はい、お粗末様でした」
3回目の夕飯は、和やかに終わった。
正直、前回みたいに気まずくなったらどうしようと思ってたんだけど、特に引きずることもなく。1週間あいたのがよかったのかも。
「美弥子さんてさ、ホント料理上手いよな」
「気合い入れて作ってるからね。
好きな人に喜んでもらおうって思ったら、気合い入っちゃうよ。普段はこんなに力入れてないよ」
あ、思いっきり“好きな人”って言っちゃった。まぁいいよね。口に出さないと伝わらないこともあるし。
「そうなの? 普段ってどんなの食べてんの? そういうのも食ってみたい」
え…いや、だって、手抜き料理だよ?
「う~ん…さすがに、それはまだ見せられないかな…。きっちり胃袋掴んだ後でないと、落差が…」
「味噌汁とかも違う?」
「作り方は同じだよ。出汁もとってる。
ただ、いっぱい作って、3日くらい同じの食べてたりって感じだから」
「そうなの? 意外」
そりゃ、ちゃんとしたところしか見せてないもの。
「平日はね、結構いっぱいいっぱいなのよ。
バタバタしてて、ちょっとお見せできないっていうか。大人の見栄みたいなもんかなぁ」
半分嘘。正体バレると困るからよ。
「俺がガキだから、頼りにならない?」
そっか。この前、急に姉さん女房がどうのって言い出したのは、そういうことだったんだ。あたしが年上なのを気にしてるのと逆に、雄樹くんは年下だってことを気にしてるのね。
「そういうんじゃなくてね……うん、そうだ、ちょっとぶっちゃけようか。
たぶん、ここはちゃんと話しとかないと、しこりを残すから」
「しこり? ぶっちゃけるって?」
「あたしはね? 雄樹くんより9歳年上だってことを引け目に思ってる。で、たぶん、雄樹くんは自分が年下だってことをマイナスに感じてるってことだと思うのよ。違う?」
「うん…まあ…。俺、金持ってねえし、部活忙しくてバイトもできねえし」
「たぶんね、あたし達がお互い感じてる引け目は、表裏一体なの。あたし達がこの先付き合っていく上で、ここを飲み込めないと、上手くいかなくなるとこなのよ」
「うまくいかなくなる?」
「不安に負けちゃうっていうかさ。それで、お互いを信じられなくなると破局するの。
だからね、不安はちゃんと口に出していこうよ」
「不安って…」
「あたしはね、周りからの有形無形の圧力で雄樹くんと別れさせられるんじゃないかって不安なの。
いくらあたしが本気で好きって言ったところで、世間から見たら、25の女が高校生に手を出してるとしか見てもらえない。それが世間ってもんよ。だから、雄樹くんが高校出るまでは、周りに隠し通したい。
でも、そうすると、雄樹くんにも負担が掛かっちゃう。今は部活が忙しいからいいけど、ロクにデートもできない女なんてつまんなくなっちゃうんじゃないかって」
「デートもできない?」
「人目に付かないようにってことは、一緒に出掛けられないってことでしょ?」
雄樹くんは、少し考えてこう言った。
「美弥子さん、見た目若いから大丈夫だと思うよ」
見た目若いって…本当は若くないって言ってるようなもんじゃない。
「わかっちゃいるけど、見た目だけ若いって言われるのは嬉しくない」
拗ねてみせたら、雄樹くんが吹き出した。
「ほら、大丈夫。美弥子さん、若いって!」
「それはガキだって言い方じゃないの!」
「言いたいこと言い合うんだろ?」
「もう、ああ言えばこう言う!」
「社会人やってる美弥子さんからすりゃ、高校生なんてガキなんだろうけどさ、美弥子さん包めるような大人になるよう頑張るからさ」
うわ、なんてまっすぐな目なの。
「うん、期待してる」
好きになってよかった。こんなにいい人…。
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…はっ!?
ついつい流されてたけど、これって、このまま抱かれちゃう流れじゃない! 正直流されたいけど、そういうわけにもいかないのよ!
「あ…だめ、雄樹くん、これ以上。
あたし、用意してないから。あの、デキちゃうとまずいから…」
「えっと…あれのこと?」
「ごめん、用意してないし、生は絶対だめ」
「あ、ああ…」
すっごく気まずそうに、雄樹くんは離れた。
そうだよね、ここまで盛り上がってたのに、ここでおあずけなんて酷だよね。
でも、生は絶対にだめなの。
子供を作るって決めるまでは、絶対に。




