16 大人になりたい(SIDE:雄樹)
家に帰ったら、美弥子さんにパインを送る。
んで、大急ぎでシャワーを浴びて、美弥子さんとこに行く。
明日も練習あるから、あんまり長くはいられない──美弥子さんが心配する──からだ。
インターホンを押したら、「今開けるね」と声がしてすぐにドアが開いた。
そりゃ、確かに行くってパイン送ったけど、確認もしないでドア開けちゃダメだろ。もっと警戒してくれよ。
…と思ったんだけど、美弥子さんは一応モニターを確認してから開けたらしい。そう言われちまえば、もうそれ以上は言えないな。あんまり束縛しすぎると嫌われるっていうし。
そしたら、美弥子さんが抱きついてキスしてきた。
舌が口ん中入ってきて、なんていうか、求められてるっていうか、愛されてる?って感じで。
あん時もそんな感じだったな。俺も胸に手を伸ばしたけど、服の上からだとブラの感触しかしない。
えっと、どうやって脱がせばいいんだ? 前ん時は、美弥子さん自分で脱いでたから、よくわかんねえ。
そしたら、美弥子さんがバッて離れた。真っ赤な顔して、鍋、火に掛けてるからって。
実際火を消してる音がしたし、言い訳ってわけじゃないんだろうけど、このもう1回できるかもって気分はどうすりゃいいんだよ。
肉じゃがは、普通にうまかった。
なめこの味噌汁も、ちょっと変わってるけどうまかった。普段食べてるのがまだ育ってないやつだとか、知らなかったな。
来週は何食べたいかなんて話をしてたら、美弥子さんがそんなにレパートリーないって言い出した。あんまり作りたくないって話かな? あ、でも、毎回作ってもらってると、材料費とかも掛かるしな。
「元カレに作ったりしなかったの?」
あんまり気にしちゃいけないんだろうけど、美弥子さんは初めてじゃなかった。年上だし、そういうもんなんだろうけど、なんか悔しい。俺がもっと大人なら、美弥子さんを甘えさせてやれるのに。
前のカレの時は、作るんじゃなくて食べに行ってたって。きっと男の方が奢ってたんだろうな。
俺じゃそんなことできない。プレゼント買う金だって、俺の小遣いじゃたかが知れてる。
それどころか、美弥子さんは、買ったんじゃないプレゼントの方が嬉しいとか言い出した。それって、子供の肩たたき券じゃないかよ!
でも、たとえば俺がバイトしてアクセサリーとか買ってやれるかっていったら、無理だ。部活が忙しくて、バイトなんかしてる暇がない。
美弥子さんも、そんなことわかってて言ってんだろう。
早く大人になりたい。
メシ食った後で続きができるかもとかいう気分はどっか行っちまった。




