15 歳の差
今日は肉じゃがだから、和風でまとめようね。
サラダじゃなくておひたしとか。味噌汁の具は何がいいかな。
実は、味噌汁はバリエーションに乏しい。あたしは薄揚げの入った味噌汁が好きなもんだから、キャベツでも大根でも薄揚げ入れたくなる。薄揚げの油で美味しくなるからね。この前は油抜きしたけど、実は油抜きしないままの方が美味しいと思ってる。
人に食べさせる分には、そこは押しつけないけどね。くどくて嫌って思う人多いらしいし。
豆腐となめこにしようかな。なめこは、傘が開いたやつで。なめこってヌルヌルしてて、あのとろみがいいって人と、それが嫌って人に分かれる。
あたしはとろみが嫌なクチ。傘が開いたなめこは、とろみが少ないし、味も開いてないのより美味しいと思う。この辺は、好みによると思うけど。
あとは、意外性かな。なめこっていったら、普通は傘が閉じててヌルヌルってイメージだから、そこを敢えて外す。
話題にもなるし、いいよね。
ピコン
7時20分になって、雄樹くんからパインが入った。
「これからシャワー浴びて行く」って。少し部活が長引いたみたいね。
「待ってるね。急がなくていいよ」って返す。
鍵開けとけたら楽なんだけど、ここ、オートロックで開けっぱできないのよね。
合鍵渡すのは、さすがに今は無理だし。きちんとするまではリスクは負えないもの。
肉じゃがは、一般的なレシピで作った。最大公約数的な甘じょっぱいやつ。
牛肉、ジャガイモ、タマネギ、しらたき、ニンジンの入ったオーソドックスなもの。
シャワーとかであと10分ちょいだろうから、味噌汁を温め始めよう。
肉じゃがの方は、完成した後、一旦休ませて味が染みこんだところで弱火で温め中だ。
ゆっくり温めないと、ジャガイモの中心がまだ冷たいなんてことになりかねない。
冷たい肉じゃがというのもたしかにあるけど、外が熱くて中が冷たいというのは、やっぱりいただけない。雄樹くんを満足させられる肉じゃがにしないとね。
ピンポーン
「今開けるね」
インターホンの画面に雄樹くんが映ってるのを確認して、すぐにドアに向かう。合鍵渡せれば楽なのに。
ドアを開けると、ちょっとムッとした顔の雄樹くんが立ってた。あれ、もしかして怒ってる? なんで?
とりあえず部屋に入ってもらって、雄樹くんが座るのを待って訊いてみる。
「なんか機嫌悪いね。何かあった?」
雄樹くんは、少し目を泳がせて、ばつが悪そうにしてる。
「別に、怒ってるとかじゃないんだけどさ。
ピンポン鳴らしただけでドア開けんのは、どうなんかなって」
あ、あたしが不用心だって心配してくれてるのか! え、これって、愛されてるってことだよね? 口元がニマニマしてきちゃう。
「心配してくれてるのね、ありがとう。
大丈夫、ちゃんとモニターで雄樹くんだって確認したから」
「それにしちゃ早くね?」
「来るのわかってたんだもん、パッて確認したよ。早く来ないかな~って待ってたんだから」
「お? あ、そ、そう。なら、いいけど…」
雄樹くん、顔赤いよ。
「大丈夫だよ、でも、心配してくれるの、すっごく嬉しい」
思わず抱きついちゃった。
こんな小さいことなのに、愛しさが溢れてくる。
抱き返してくる雄樹くんの腕を感じながらキスして、胸揉まれて…って!
「やだ、あたしったら」
ガバッて感じで体を離して、雄樹くんの顔を見る。
「あの、あの、先にご飯食べよ? 火かけっぱなしなんだ」
あからさまに残念そうな顔をする雄樹くんに少し嬉しくなりながら、ご飯をよそいにいく。肉じゃがの火は弱火にしてたから、こがしたり水分なくなったりはしていなかった。
ご飯と味噌汁をよそって、肉じゃがも盛り付けて。冬菜のおひたしにパックの削り節を載せて。
「はい、召し上がれ」
「すげえ。こんな、いかにも家庭料理なんて感じの、すっげえ久しぶりだよ」
雄樹くん、目を輝かせてる。作ってよかった。
「雄樹くんの胃袋を掴むべく、家庭的に攻めてみました。おかわりあるからね」
うん、肉じゃがも味がちゃんと染みてて美味しい。ジャガイモの固さもいい感じね。
「肉じゃが、うまいよ。なんかこう、手料理って感じで。
これ、余ったら持って帰っていい?」
「余ったらね。でも、持って帰るために食べるの遠慮とかっていうのはなしね? 目の前で食べてもらった方が嬉しいから」
味噌汁すすった雄樹くんの箸が止まった。
お、気が付いたね。どう? どう?
「え、これ、このキノコ、なに?」
「なめこだよ」
「うっそ、なめこって、もっとこう、ニュルニュルしてるもんだろ?」
うんうん、そうだろそうだろ。
「それは、未成熟ななめこね。成長して傘が開くと、ヌルヌルが減るのよ。ちょっとしたトリビアでしょ」
「へえ…普通に売ってるなめこって、子供なんだ…」
「あたしは、歯応えとか、こっちの方が好きでさ。ヌルヌル少ない方が好きだし。
この辺は、好き好きだから、普通のがよければ、次からはそっちにするよ」
どっちもOKって答えが一番嬉しいけど、どうだろ?
「いや、どっちがってことはないけど、これ、初めて食ったから。ちょっとびっくりした」
「一応ね、これもスーパーで売ってるんだよ。
まぁ、なめこの味噌汁なんて、そんなにしょっちゅう出すつもりはないけど、次は普通のにしてみようか」
「任せるよ。
…なんかさ、次の約束ができるのっていいな」
なんか、しみじみって感じだね。まぁ、最初がアレだったからなぁ。
「あたしも嬉しい。
好きな人と一緒にご飯食べるのって、幸せだなって」
「あ…うん…」
照れてる…のかな? 顔がちょっと赤い。
いや、そんなこと言ったら、あたしの顔も相当赤くなってると思うんだけどね。
「あたしね、一応実家にいた頃も料理の手伝いしてたし、一人暮らしもしてたから、そこそこは経験あるけどさ、そんなにレパートリーあるわけじゃないんだよね。
誰かのために作るっていうのも、あんまやったことないし」
あんまり期待値上がりすぎても困るから素直に言ったけど、雄樹くんは若干気まずそうに訊いてきた。
「元カレに作ったりしなかったの?」
「前に付き合ってた人とは大学時代でね、その頃っておうちデートとかしなくて、外に行っちゃうのよ。たまにはお弁当作ったりすることもあったけど、あの頃は外で食べる方が多かったから」
「誕生日とかは?」
「むしろ、外でごちそうする方がステイタス高かったの。バイト代つぎこんでさ」
「…美弥子さん、誕生日いつ?」
え、ここでそれ訊いちゃう?
「11月10日。あ、でも、そのためにバイトとかしないでね? そういう、お金でっていうんじゃないプレゼントの方が嬉しいから」
「俺がガキだから?」
なんだか暗い声で言う。
「そんなことない! そりゃ、あたしはだいぶ年上だし、気にならないわけじゃないけど!
お金稼ぐために頑張るより、あたしの傍にいて何かしてくれる方が嬉しいの!
社会人になっちゃったら、嫌でもお金を稼ぐために働くのよ。今からそんなことしなくても…せめて大学行ってからでいいじゃない!」
「美弥子さん?」
「ごめん、ちょっと取り乱した。
デートするにもお金は掛かるし、気にするなとは言えないけどさ。
高いプレゼントとかは、今はまだ、ね?」
「うん…」
9歳差っていうのは、雄樹くんも気にしてたみたい。主に、自分が頼りなく思われてるんじゃないかって方向で。
お互い、年の差を自分に不利に考えてるんだなぁって思った。それだけ相手を好きだってことなんだろうけど。
ちょっと微妙な空気になったせいで、帰り際に玄関でキスして、今日は終わった。




