14 ウキウキの1週間
「じゃあ、また来週。
リクエスト決まったらパインしてね。待ってるから」
雄樹くんを送り返して、洗い物をする。ご飯食べておしゃべりしてただけなのに、あっと言う間に11時になっちゃった。
付き合い始め特有の、一緒にいるだけで幸せな時間だ。もう少し慣れてくると、一緒にいると落ち着くって感じに変わる。
雄樹くんは明日も部活で、ちゃんと休まないとだから、素直に帰った。気が付いてみると、今日はキスもしてない。
少し残念ではあるけど、気持ち的にはかなり満足してるあたしがいる。
多分だけど、ちゃんと付き合ってる、好き合ってるって確認できたからだよね。
誰かのためにご飯作って待ってるなんて、あたし、したことなかったもの。
来たよ~、うん、どうする~? なんて、どっか出掛けたりってパターンが多かったもんね。
また来週なんて約束が、本当に嬉しい。
週末が待ち遠しいのは、就職してからは当たり前だったけど、その意味が違うもの。
お休みが待ち遠しいんじゃなくて、約束が待ち遠しい。恋をするって、こんなに楽しい気持ちになるものだったかなぁ。
日曜日は、この幸せな気分のまま、1週間分の作り置きを作った。
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「キョーセンセー、プリント持ってくよー」
「ああ、よろしく頼む」
他のクラスは持ち回りが多いんだけど、うちのクラスは、相変わらず雄樹くんが資料を取りに来る。正直言って嬉しい。あまり話せないけど、雄樹くんの顔が見られるから。
資料を取りに来る生徒の中には、あからさまに嫌々来てますって態度の子も結構いて、楽しそうに来るのは雄樹くんだけだ。雄樹くん自身も、苦にならないとは言ってくれていたけど、あたしのプリントを評価してくれてるってことなんだろう。
教師は、もちろん生徒に成績を付けて評価を下すけど、生徒だって教師を評価してくるんだよね。あの先生の授業はつまんない、あの先生の教え方はわかりやすい、あの先生はテストのヤマを教えてくれるから好き、などなど。
あたし自身、10年前は高校生だったんだ、それくらいわかってる。
その意味で、雄樹くんは、資料を配ってのあたしの授業を評価してくれてる。資料の運び役を買って出てくれるくらいに。
“美弥子”を好きでいてくれることとか、あたしが彼を好きだとか、そういうこと抜きにしても、彼は“京先生”にとって好ましい生徒ってことよね。
別に、ひいきとかする気はないけどさ。
生徒としても好きなタイプだなんて、あたし萌え死んじゃうよ。
翌日の授業の準備だなんだってやって家に帰ると、午後8時。
プライベートではエレベーターを使うけど、仕事の時は階段を使うようにしている。
理由は、雄樹くんにバッタリ会わないため。
万が一にも、あたしがマンションに住んでることは気付かれちゃいけない。“美弥子”が“キョーセンセー”だと今知られるのはまずい。もちろん、いつかは話すつもりだけど、それは今じゃない。
もっと“美弥子”として信頼関係を築いてから。教師と生徒という壁を越えて、あたしが雄樹くんを好きだって信じてもらえるようになってから。
もし2人の関係が発覚しても“真剣に付き合ってます”って胸を張れるようになってから。
さて、このくらいの時間だと、雄樹くんはもう帰ってるよね。
雄樹くん、部活の後は疲れてエレベーター使うから、あたしが階段使ってれば会ってしまう心配はない。一応、警戒しながら階段昇ってるけど。
普通の男子だと、部屋の前にいる、なんて心配もあるけど、雄樹くんはその点安心だ。用事があれば、事前にパインくれるから、待ち伏せとかされることはない。この辺は、アカウント交換したお陰だよね。
無事部屋に入って、部屋着に着替える。
三角メガネを外してコンタクトも外す。家の中では、丸みのあるハーフリムの可愛いメガネを付けてる。雄樹くん呼ぶ時はコンタクトだけど。
三角メガネは、教師として生徒に舐められないための戦闘服だからね。
髪もほどいて、ゆるふわモード。これでようやく京先生は京香苗に戻れる。
簡単に味噌汁を作ってる間に、焼いておいた魚を温め直して夕飯。平日は、なるべく手間を掛けないようにしないと、体が持たない。
ご飯を食べて、お風呂で体を伸ばせば、もう11時だ。洗濯機回してる間にパインをチェックすると、雄樹くんから来ていた。
「今週は、この前言ってた肉じゃががいいな。
牛肉で、味付けはお任せ。きっとおいしいって期待してる(^^)」
よし、今週は、肉じゃがね。あたし、頑張っちゃう!




