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バケモノ aim for the KOUSHIEN!  作者: 日上東
壱 鬼、グランドで吼える
2/27

 オレは突然手を握られ、少しドキドキする。女子と手を握るなんて、運動会のダンスの時以来だろうか?


 しかしキナミコウカという少女、顔こそカワイイとはいうものの、良く言えば個性的、正直な所、かなり変わった女の子のようだ。

 牙のようなギザ歯、おまけに角を生やした帽子から覗く髪色は、なんと真っ赤だ。さらに気が強そうな目にキラキラ輝く瞳は、やっぱり真っ赤。

 待てよ、言葉に訛りもあるし…。


「あっ、もしかして君、カープファン?」

「野球はカープに決まっとるじゃろぉ!」

「じゃあ、広島からこの学校へ?」

「今朝、こっちに着いたばかりじゃ」


 やっぱり。しかし、いくら熱の入ったカープファンだとはいえ、こんな成りで御出井学園の野球部が受け入れてくれるのか? カラコンまで入れて。まあ、そんな事、オレが心配する事でもないんだが。


「なぁ、雷児、ウチの角、どうじゃろぉ?」

「え、つ、角? あ、あぁ、カ、カワイイね」


 どうもこうもない。高校生にもなって頭に角が付いた帽子被るなんて、子供じみているとしか思えない。けれど何かを期待しているようなキラキラと光る赤い瞳で見つめられると、ついついカワイイなどと答えるしかなかった。


「ありがとう。角は鬼の誇りじゃけぇ、毎朝磨いとるんよ。でも、雷児の角かて、ぶちカッコええわぁ」

「オレの、角? え、角?」


 何言ってるんだ、この子? そうは思ったものの、頬を赤らめ微笑むコウカのその様子に、オレもつい笑い返してしまう。何かオレたちの間に、ホンワカとした雰囲気が漂う。

 程なくオレたちはグランドに着くと、そこにはすでにユニフォームに着替えた先輩たちが揃っていた。


「遅せーぞ、新入生! ちんたら歩いてんじゃねーよ!」

「すいません!」


 真っ先に声を上げたのは、酷く人相の悪い先輩だった。

 いや、人相が悪いなんてレベルではない。顔色は酷く黒ずみ肉は弛み、薄汚く澱んだような目は、死んだ魚みたいだ。思わず目を逸らしたくなる面相。

 おまけに、体中から嫌な臭いまでする。


「あー? 何、おめーら、仲良くお手々繋いでるんだ? 部活、ナメてるんか、あー?」

「す、すいませんっ!」


 しまった、手、繋いだままだった! オレは慌ててコウカの手を離した。 

 コウカはというと、不貞腐れた様な顔でその先輩を睨みつけ謝ろうともしない。その態度にはさっきまでの可愛らしさは微塵もない。


「何だーぁ、その顔は? テメー、新しく入部するっていう鬼のメスガキだな? 俺を誰だと思ってるんだ、こらぁ?」

「ぶちたいぎーな、パープーじゃろう?」

「パープー? テ、テメーー! 何言ってんだ、あー? 先輩の前では、帽子とれやっ!」


 先輩が帽子をはぎ取ると、コウカの真っ赤な髪が風に揺れた。何より驚いたのは、帽子に付いていると思っていた角は、頭に直接付けてあった事だ。なかなか手がこんでる。


「偉そーな角、生やしやがって。テメーなんかにゃ、勿体ねーんだよ! 俺が引っこ抜いてブタにでもくれてやる!」


 そう言うと先輩はコウカの角を両手でむんずと掴んだ。角を掴んだまま、コウカの頭を右に左へとブンブンと揺さぶる。


「いいかー、良ぉ―く聞け! 俺の言う事は絶対だ。なにせ俺はこの学校の理事長の息子にして、このチームのキャプテン。知らねーとは言わせねーぜ? 俺の名は汚泥尿三、汚泥財閥の跡取りの一人だ。この俺の言う事に逆らうやつは、…あ、い、い痛ててててて」


 先輩の言葉が終わるを待たず、コウカはその腕をねじ上げた。目の錯覚なのか、コウカの腕は炎に包まれているみたいに真っ赤になっている。


「鬼の角に、よぉも手ぇかけてくれたのぉー!?」

「テ、テメー、舐めたマネしやがって、クソ鬼がっ!」

「わりゃ、これ以上ウチを侮辱すっとぉ、ぶちくらわすでぇー!」

「はぁーん? 俺をどーするって? 出来るの? 俺に逆らうなんて、出来るの? 学校、辞めてーの? 生きていたくねぇーの? ヒヒヒ…」


 一瞬の事だった。

 炎に包まれたコウカの腕がブンッと振るわれたと思いきや、御出井ニョウゾウ?先輩の頭が跡形もなく消え失せてしまった。

 頭のあった場所から黒い煙をあげつつ、あるべき物を失った体は、バタリと地面に倒れてしまう。


「うひゃーーー!」

「うわーーっ、キャ、キャプテン!」


 オレが悲鳴を上げるのと同時に、背の高い金髪イケメンの先輩が叫んだ。


「ねっ、ねっ、大丈夫ですよね? キャプテン? キャプテンってばーっ?」

「あれ、復活しないやん。これ、ヤバいんとちゃう?」


 全然ヤバくなさそうにヘラヘラ笑いながら、別の先輩が倒れている御出井先輩の体を覗き込む。


「当たり前じゃ。ウチの炎の剛腕はバケモノ封じ、言われちょるけぇのぉー」

「ダメだよ、君っ! こんな事して、理事長に殺されちゃうよ!」

「鬼が誇り傷つけられて、黙っとれるわけないじゃろぉーが、ああぁ?」


 オレは倒れている先輩を恐々と覗き見てみる。どう見ても、頭の無い死体だ。

 これ、普通に死んでるよね?


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