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バケモノ aim for the KOUSHIEN!  作者: 日上東
壱 鬼、グランドで吼える
14/27

拾肆

「シャワー浴びたら、臭ぁのぉなるかのぉ?」


 煌火にしては元気がない声でオレに尋ねる。いつもこれくらいがカワイくて良いのだが。


「ああ、臭くなくなるって」

「ほいじゃ、雷児にウチの背中、流してもらおうかのぉ」


 煌火はまだ真っ赤な顔でオレを見つめた。


「あ、いいよ、うん。背中、流してあげるから、ね? もう、怒るのは止めてくれるかい?」

「うち、もぉ、はぶぅとらんけぇ」


 煌火は機嫌を直したようで、笑みを浮かべオレの手を引くと、シャワー室へ急いだ。


「じゃあ、シャワー浴びててよ。オレ、部室から君の着替え持ってくるから」


 オレは部室に戻ると、オレのバッグと煌火のバッグを手に取り、シャワー室へと向かおうとしたが。


「重っ!」


 煌火のバッグが重くてビクともしない。悪いとは思ったが、中を開けて見てみる。中には何と鉄のボールがみっちりと詰まってるじゃないか。いったい何だってこんな物を?

 オレは仕方なく、バッグから制服と下着の替えだけ手に取った。


「着替え、持ってきたから、ここへ置いておく」

「雷児、戻ったんか? ほいじゃ、頼むわ」


 煌火は全裸のまま、シャワールームから姿を見せた。

 どこも隠そうともしないのにも驚いたが、何よりもその体に驚いた。均整の取れた美しい筋肉と、無数の傷。膨らみかけの小さな乳房にも、真新しい傷が刻まれていた。


「なんじゃ、驚いた顔して。背中洗ろぉーてくれる、言うたじゃろぉ」

「あ、う、うん」

「はよ、雷児も服、脱がんかい。寒ぅなるじゃろぉ」

「えっ、オ、オレも?」

「ほーじゃ。ウチだけ裸んぼーでおるんわ、恥ずかしいんよ」


 いいのか? 本当にこんな事していいのか?

 躊躇している間も無く、オレは煌火にされるがまま服を脱がされ、二人してスッポンポンでシャワーを浴びる羽目になってしまった。

 嬉しいかというと、下半身を制御するのに必死でそれどころじゃない。

 オレはタオルを目いっぱい泡立て、煌火の背中を洗ってやった。触ってみてもわかる、その体の凄さ。

 なんと強靭そうな筋肉なんだろう。興奮するというよりむしろ純粋にアスリートとして感動を覚えるくらいだ。

 そんな時、突然こちらを向く煌火。オレの体を真剣に見つめ、両手のひらでゆっくりと上腕二頭筋、胸筋、腹筋をなぞっていく。


「ちょっ、ちょっと!」


 さすがにこれは、いくらなんでも興奮してしまう。煌火ときたら全部丸見えだし。


「雷児、アンタ、やっぱえー体しよる。ホンマもんの鬼の体じゃ。大丈夫。すぐに、元通りの球、投げれるようになるけぇー安心せぇ。ウチが保証しちゃる」


 鬼の、体?

 なるほど、言われてみれば、オレの体は明らかに前とは違っていた。盛り上がる上腕二頭筋、固く割れた腹筋。


「でも、オレは、この世界じゃオレは……」

「この世界? どぉーも雷児はちょこちょこ変な事、言いよるのぉ」


 オレは煌火にはキチンと話してみよう、そう思った。こんなオレの事を好きでいてくれている煌火に、やはり本当の事を言わなければ。


「あのさ。笑わないで聞いて欲しいんだけど、オレ、おそらく異世界から来たんだ」

「異世界? なんじゃ、そりゃ?」

「オレは、元いた世界では普通の人間だったんだ。鬼じゃない。だから、いくらこの体が鬼に相応しいものだろうと、キミが言うスゴイボールなんて投げられないかもしれない。でも、オレがいた世界とこの世界と被るトコもたくさんあって、やはりオレは野球はやっていたし、父親は東の鬼と呼ばれた伝説のピッチャーだった。それは一緒。もっとも野球といっても、オレのいた世界の野球とコチラの世界の野球じゃ、ルールも内容も全然違うから正直戸惑ってる」

「何言うちょるんか、もとーらんのぉ」


 煌火は首を捻りながらも、話はしっかりと聞いてくれている。


「だからオレは、この世界の、キミが期待しキミが好きになった鬼東雷児じゃないって事なんだ」

「うーん。ほーかもしれんが、アンタは雷児じゃろ? どこの世界から来たんかはよぉ知らんけど、今はこの世界の鬼東雷児なんじゃろ?」

「あ、まあ、そうだと思うけど」

「じゃったら簡単な話じゃ。アンタ、はよぉこの世界の鬼東雷児になりんさい。鬼じゃないゆぅんなら、ウチが鬼にしちゃるけぇ、本当の鬼になって、〈東の雷鬼〉ちゅう呼ばれて日本中で畏れられた親父さん、超えたらええんじゃ」

「本当の鬼、父さんを、超える……」

「ほーじゃ。ウチが全力で本当の鬼東雷児にしちゃるけぇ。その変わり、ウチのシゴキはぶちしんどいけぇー、覚悟しといたほーがええ。よっしゃ、体も綺麗になった事やけぇ、グランドに戻るかのぉー」


 煌火はまるで何事も無かったかのように着替えを済ますと、例の屈託のない笑顔をオレに向けた。


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