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バケモノ aim for the KOUSHIEN!  作者: 日上東
壱 鬼、グランドで吼える
10/27

 破れたネットの張られた古いバッティングゲージ、ボロボロになったボール、使い古されたバットやグローブ。その用具室にはかび臭い、もう二度と使われないだろう野球道具が数々押し込められていた。

 うずたかく積み上げられたそんなゴミみたいな物の中から、ブライアン先輩は必死に何かを探しているようだ。


「おかしいな? 確かこのへんにあったはずだけど…」

「先輩、何を探しているんですか?」

「何って、そりゃ…、あっ! あった、あった!」


 先輩が必死で探していたもの、それは一台のロボットだった。そのロボットはオレたちが考えるロボットの姿そのもの、言うなれば旧態依然のクラシックな代物だ。


「このロボットをキャッチャーにしようかと思ってな」

「えー、ウチ、こげぇなおもちゃ相手に投げるの嫌じゃ」

「そう言うなよ。このロボット、こう見えて結構高性能な対人兵器だったんだぞ」

「対人兵器?」

「そうだ。二足歩行で人間を凌駕する行動性能と、当時の最新のAIを搭載した、次世代局地戦用対人兵器、RT3トリリオンJ、それがこのロボットなのだ」

「なんじゃ、栄養ドリンクみたいな名前じゃのぉ。けんど、なんでそがぁなロボットが、こげぇな場所に捨てられとるんじゃ?」

「捨てられてるなんて言うな、保管されていたのだ」


 オレと煌火は顔を見合わせ、眉を顰めた。ホコリをかぶったソイツはお世辞にも高性能とは思えない。そもそも動くのかさえ疑わしい。


「これ、壊れて動かんのと違うかのぉ?」

「いや、待て、動くはずだ、多分だけど…」


 ブライアン先輩はロボットの背にあるフードを開けると、何かしら作業を始めた。電気図や取扱説明書などを齧りつく様に読み、必死にロボットを動かそうとしている。

 オレと煌火は、少々呆れ気味にブライアン先輩を横目で見つつ、他愛も無い話をしていた時、ブーンという大きな電子音と共に、RT3トリリオンJに電源が入った。


「やった、やったぞ! ほら、言っただろ、動くって」


 一人有頂天のブライアン先輩をよそに、RT3トリリオンJは電源こそ入ったものの、一向に動く気配をみせない。


「あれ? おかしいな、ちゃんと起動したのに」


 再度ブライアン先輩は取扱説明書に目を落とす。「ああ、これかな?」、何かボソボソと読み上げていると、急にこの部分を読むようにと、取扱説明書を煌火に手渡した。


「これ、この部分を言葉にして読んでくれないか。この奥のボタンを押しながら、と書いてあるから、俺はボタンを押しておく」

「たいぎぃのぉ」

「そう言わず。どうも、この文言がRT3トリリオンJ起動のパスワードみたいなんだ」


 煌火は面倒臭そうに、取扱説明書の一節を読み上げた。


「正しき知恵 正しき力 我 違う事無き目的を持って行使する事を誓わん 我が命と魂を賭して。なんじゃ、こりゃ?」


 煌火が言葉を発したその途端、RT3トリリオンJはその目に光が灯り、スクッと立ち上がった。


「おおっ!」


 オレとブライアン先輩は思わず感嘆の声を漏らした。旧態依然と思われたそのロボットは、いざ起動しその目に光が灯ると意外な程に頼もしい感じがした。あくまで、感じ、だけど。


「よし、いいぞ! RT3トリリオンJ、これからお前は野球を行う。グランドへ向かうんだ!」


 しかしRT3トリリオンJは動く気配が無い。


「おい、言葉が理解できないのか? ご自慢のAIはどうした?」

「動かんよぉじゃのぉ」

「マスター、ゴメイレイヲ」

「あれ?」


 RT3トリリオンJがしっかりと言葉を話した。


「わかってるなら返事をしろ、RT3トリリオンJ!」

「……」

「おいっ!」

「ポンコツ、先輩、えろぉ怒っちょるけぇ、何か答えたほーがええぞ」

「ワタシハ、マスターノコトバニシカシタガイマセン。マスターハアナタヒトリデス」

「ウチ? ウチの言う事しか、聞かんゆぅんか?」

「ソノトオリデス」

「こげぇに言うちょりますが?」


 どうやら、起動の際に煌火が唱えた言葉、あれがマスター認証となったようだ。

 自分の事をまったく無視するRT3トリリオンJに、ブライアン先輩は舌打ちしつつも、取り敢えずグランドへ向かう事にした。


「よし、まずは鬼南、投げてみろ。そのポンコツにキャッチャーがすべき事もしっかり教えてやれ」

「えー、ウチがぁー?」

「お前の言う事しか、聞かないんだ、仕方ないだろう」


 煌火はブチブチと文句を言っていたがRT3トリリオンJに命令する。


「そもそも、オドレ、野球知っちょるんか?」

「ヤキュウ、ワカリマセン。オシラベシマスカ?」

「当たり前じゃ。野球知らんでウチのキャッチャーが務まるわけないじゃろぉ」

「リョウカイシマシタ。…ハイ、リカイシマシタ」


 最新とはいかないものの、さすがAI搭載のRT3トリリオンJ、データベースを閲覧しすぐに野球の事を理解したようで、キャッチャーミットを構えた姿は思いの外、様になっていた。


「なんじゃ、意外といけそうじゃのぉ。ほーしたらしっかり捕ってみんさいね。最初は軽く放っちゃるけぇ」

「リョウカイシマシタ」


 ウォーミングアップで軽く投げたボールは難なくキャッチするRT3トリリオンJ、これは案外いけるかも。すると煌火の腕がメラメラと燃えてきた。


「よっしゃ! 今度は本気で放るーでぇ、炎滅ボール!」

「リョウカイシマシタ」

「ディストロイファイヤァーーーー!」


 煌火の叫びと共に火の球が投じられ、それはRT3トリリオンJの構えたミットに納まった。もっともミットは炎で灰になってしまったが、RT3トリリオンJが壊れる事はなかった。

 これでキャッチャーの目処はたったという事だ。


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