入口付近で似顔絵を書いてもらうのはいいかもな、それに付随して色々やってみようか
さて水着から着替えてゲームセンターで会長と別れた俺たちは、まずはここのアトラクションの目玉である日本国内初の360度回転を取り入れたローラーコースターであるコークスクリューのある場所へ向かっている。
そこで最上さんが俺に声をかけてきた。
「部長! ちょっとしたアイデアの提案がありますがいいですか?」
俺は当然うなずく。
「ああ、いいよ。
どんなアイデアだろう?」
「入り口のプラムナードで「似顔絵師」に似顔絵を書いてもらうのはどうでしょう」
「ああ、それはすごくいいと思う。
思い出にもなるし、その人の腕がすごくよければ、うちの会社に入ってもらってゲームや本なんかの絵を描いてもらってもいいな」
俺がそう言うと最上さんは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。
私も幼稚園の頃に上野に行った時に似顔絵を描いてもらった思い出があったので、是非そういう人がいたらいいんじゃないかと」
「確かに昔は結構あちこちの駅前とかで見たよな。
似顔絵師とか靴磨きする人とか」
「今はいろいろ規制が増えて大変みたいです」
「あ、最上さんに似顔絵師のつてがあるなら声をかけてもらってもいいと思うよ。
その前に会長に承認取らないと駄目だけど」
俺がそう言うと最上さんは苦笑した。
「1人10分でかきあげて1500円ぐらいと似顔絵描き自体はさほど儲かりませんから、会長はいい顔はしないかもしれませんけどね」
「いや10分で1500円なら十分じゃないかな?
一応一割くらいは場所代としてもらうけど」
「それだと一回の儲けはこちらは150円ですね。
それに、ずっとお客さんがいるわけではないですからね」
「たしかにそうだな。
でも直接の儲けだけが問題じゃなくて、ここにまた戻ってきてもらうのも大事だよ。
そして似顔絵とか思い出になるものが残るのは、多分そのきっかけになると思う」
まあこのあたりが芸術家肌の斉藤さんや最上さんや朝倉さんと会長がいまいち合わないところなんだと思う。
彼女たちは会長がなんでもかんでも金金と言うのはどうかと、正直思ってるとこはあると思うけど、会長がいなければ今の俺たちはないんだよな。
アイデアをしかるべきところに持ち込んで金にするにはコネや交渉術、そしてそれが間違いなく金になるということを相手に理解してもらう必要がある。
守銭奴超有能ネゴシエーターにして敏腕マネージャかつ財務管理に秀でた秘書みたいな存在の会長は間違いなく得難い人材だ。
いや俺もちょっと金にうるさすぎるのはどうかと思わないこともないけど、そういう人は絶対に必要なのだ。
「ありがとうございます」
「最上さんに伝があるならそういった人たちに声をかけてみてくれるかな?」
「ええ、そうしますね。
ただ似顔絵の才能と絵の才能は違うんでそのあたりが理解してもらえると助かります」
「ん、どういうこと?」
「似顔絵は特徴を掴みつつもそのままを描くわけではなくて、デフォルメが必要なうえに間違えずに早く正確に必要があるんです」
「なるほど、基本的には写実的な絵をじっくり描いていく絵かきとは違うってことか」
「絵本の絵とかは似顔絵と普通の絵の間くらいですけどね」
「なるほど勉強になるよ」
絵かきには絵かきのつながりがあり、音楽家には音楽家のつながりがあり、会長のような金持ちには金持ちのつながりがある、そういったつながりを大事にしていく必要もあるな。
朝倉さんも最上さんに刺激されたのかひょいと手を挙げた後に言った。
「ははい、私も提案です。
ゲームセンターに隣接してジュークボックスルームを置くのはどうです?
それとは別にカラオケルームがあるのもいいと思うです。
あと原宿のようにアマチュアバンドを呼び込んだり、筍族のような踊りを踊らせたりもいいと思うです」
「ああ、なるほどそういうのもいいかもな。
ジュークボックスはそういうのが懐かしい人もいるだろうし、今ならジュークボックスも安く手に入るだろうし」
ジュークボックスはコインを入れると好きな音楽が聞ける音楽の自動販売機のようなもの。
1970年代には飲食店の壁際やホテルのロビーなどに設置されて全盛期を迎えたが、1980年代になるとCDの普及やカラオケの登場で市場が小さくなっているはずだからきっと安く手に入るだろう。
「それにカラオケはやっぱ楽しいもんな。
アマチュアバンドを呼んで、筍族のような人間に踊ってもらうのもたしかに良いと思う」
「はい、そうすればきっと盛り上がると思うです。
千葉から原宿は遠いですし」
「たしかにな。
そうしたらオープニングセレモニーライブにベッキーを呼ぶとかもできたらいいな 」
「それはぜひともやってほしいです」
この頃は原宿のホコ天バンドブームでもあり、THE BOOOMやジャンスカイウォーカーズのように、メジャーデビューして大ヒットしたバンドも中にはある。
そしてベッキーはこのあと10月放送開始のテレビドラマ『半分じゃがいもな俺たち』のOPを収録したシングル「フレンド達」が大ヒットする女性ロックバンドで、おそらく朝倉さんも大好きなんだろう。
実は俺も結構好きだ。
ヴィジュアル系バンドの元祖のXも今はマイナーなはずだから声をかけてもいいかもな。
「朝倉さん、Xってロックバンド知ってる?」
「ああ、安房高出身でしたよね。
千葉だと有名ですから知ってますよ」
「あ、じゃあ彼らにも声をかけてもらってもいい?」
「でも彼らは問題行動が多いことでも有名ですけど大丈夫です?」
「ああ、うん、火事とかを起こしたり物を壊したりしなければいいんじゃないかな?」
「それ両方やってるですよ?」
「まじで?」
「まじです」
うーんそこまで問題児だったか。
「火事はともかく物を壊した場合はきっちり弁償させよう。
後ステージで火を扱うのは禁止」
「そうしたほうがいいと思うです」
「あとTMN NETWORKとかジュリアン・マムとか麦麦クラブは?」
後にめちゃめちゃ売れるTMN NETWORKは実は「Got Wild」まではあんまり売れてなかったはずなんだよな、後の二つもこの後ヒットするけど今はまだヒットしてない。
この時代はチェッカーフラッグスや外森明菜、松本聖子がめちゃめちゃ強くて、ロックバンドはまだ売れてないんだ。
「そっちももちろん知ってるですよ。
でもどれもあんまり売れてないはずですけど」
「じゃあそっちにも声をかけてもらってもいいかな」
「それはかまわないです。
あと、ここに呼ぶアイドルたちの曲のレコードやCDを許可をもらってレコードCDショップを作って売ったらどうです?」
「ああ、それもいいな。
アイドル側にもメリットは有るだろうし。
なんなら近くに住んでる人向けにレコードやCDの貸出をしてもいいし、ついでにアニメのビデオテープの販売やレンタルをしてもいいかもしれないな。
いっそ最近倒産したレコード会社の名義を買うか」
「アニメスタジオを持った以上はそれもいいと思うですよ。
そうすれば印税額も変えられるです」
「売れてるアーティストや、作曲家作詞家にはもっと還元していいと思うしな」
そしてこの頃はまだレンタルビデオというものは無いはずで、貸本屋や貸しレコード屋はあるがその数は少ないはず。
OVAを売るにもレンタルするにも役に立ちそうだし、谷津遊園の中や谷津遊園駅の駅前商店街にだけでなく、ららぽーとや船橋の駅前デパートにも店を出してみてもいいかもしれない。
そこで斉藤さんも手を挙げた。
「私からも提案。
大衆小説や漫画などの古書の買い取りや販売と貸出をしてみるのはどうかしら?」
「ああ、今は家が狭いから本とかいっぱい買っても本棚を置けない場合も多いもんな。
図書館には置いていないような本は、古本として売ったり貸したりするのがいいと俺も思う。
どうせなら同人誌の即売会の会場にできるようなビル施設にしてもいいかもと思ってる」
将来的に本が売れなくなる理由はネットの普及やコンピューターゲームという強力なライバルの出現もあるが、核家族化で家そのものが小さくなって部屋も狭くなり、本を置くスペースが確保できないというのもあると思う。
出版社や漫画家、作家には古書は嬉しくない存在だろうけど、買いたくても買えない事情もあったりするのだ。
「あとは、似顔絵もいいけどカメラを貸し出したり、プロカメラマンに記念撮影させたりもいいと思うわ。
なんならその場ですぐ渡せるようにポラロイドカメラでの撮影を一枚いくらでやってもいいし、ビデオカメラをフィルム付きで時間あたりいくらかで貸してもいいと思う」
「ああ、それもありか。
カメラなんかを貸した場合はレンタル料以外にフィルムを買い取ってもらって現像は自分たちでやってもらうほうが良さそうだけど」
「そうね、現像室を作ってすぐ現像したものを手渡してもいいけど、フィルムを渡したほうが邪魔にもならないと思うわ」
そこで明智さんも手を挙げた。
「ならボードゲームとかTRPG、今作ってるカードゲームができるコーナーや、それらを売るコーナーなんてどうっすか?」
「うーん、俺はいいと思うけど問題は会長がうんと言うかどうかかな」
「何故っすか?」
「それらは金になるかどうか怪しいってこと」
「うーん、たしかにボードゲームやTRPGは時間がかかるっすね。
あ、じゃあ経営状態が悪いボードゲームを作ってる会社を買い取って、お金になりそうな短時間で楽しめるカードゲームを開発してもらって、そのカードゲームを時間あたりいくらやらせるとかはどうっす?
カードゲームなら一回にかかる時間は短いはずっす」
「うーん、そういう言い方をされると賭博っぽいからアレだけど、そういうのはありか。
なんだかんだで経営状態が悪いボドゲ関係の会社はありそうだし、カードゲームで貸出スペースを一時間いくらとかならありかも」
実際TCGが大流行した後はそういう場所が結構あったはずだ。
と、女の子たちから色々アイデアが出たところでコークスクリューに到着。
「とりあえず日本初だった、ループコースターに乗ってみようぜ」
「そうね」
「そうしましょう」
「わかったです」
「やっと乗れるっすね」
プールにせよ、干潟にしろ、これにしろ他に客がいなくて待ち時間もなしで乗れるなんてのはなかなか贅沢だよな。
ちなみに先頭が俺、その後ろに斎藤さんと明智さん、その後ろが最上さんと朝倉さん。
「俺だけ一人で乗るのか」
俺がそう言うと斉藤さんが言う。
「あら、あなたは髪の毛が乱れたり、絶叫してる私たちの顔を見たいのかしら?」
「あ、ああ、そういうことね」
絶叫系のマシンの搭乗中は隣の様子をまじまじと見てる余裕などないと思うけど、女の子はやはりそういう姿は見られたくないものらしい。
「安全バーはしっかりおろしてください。
ブザーが鳴ると、スタートしますので、しっかりつかまってください」
ジェットコースターがカタカタと音を立てて登っていき、やがて頂点に到達すると急降下を始める。
「キャーーーーーーーーーー!」
後ろでは盛大に悲鳴が上がってるが、“前”ではもっと怖い絶叫系マシンはいくらでもあったので俺にとっては大したことはない。
「あー怖かったっすね」
「確かに怖かったわ」
「結構びっくりしたね」
「たしかにです」
俺はともかく女性陣の受けはいいみたいだし、リニューアルオープン後も、変わらず目玉にはなってくれるかな?




