表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第五話 休息













「さてどうしたものか……」


 荷台に腰を下ろし、適当に飲み食いしてから考える。正直俺の筋力では引くに引けない。じゃあ置いていくかと言われればそれは避けたい。この食料と宝石は実に魅力的だ。

 現在一問無しプー太郎の俺の命を繋ぐ大事な物。となれば荷台を引く馬でも欲しいところだ。


「あー、森にいた大狼とかじゃダメか? って、あれ全滅してたっけ」


 ダメだ。俺だけじゃどうにも出来そうにない。先ずは考えるにも意見が欲しい。


―――分割思考開始―――


No,0 と言うわけで意見を。

No,1 意見って言われても。

No,2 使えそうなのは全滅したのだろう?

No,3 いや、まだあるじゃないか。

No,0 No,3はスルーで。

No,2 了解した。

No,1 ……一応話だけでも聞いてみたら?

No,0 むぅ、一理ある。よし、教えてくれNo,3

No,3 黒いの使う。

No,0 No,3退室。

No,3 oh。


―――分割思考終了―――


 黒いのって、これニタニタケタケタ笑う霧じゃないか。どうやって馬車を引かせると言うのだろうか。

 すると呼応するように黒いのが出現する。ニタニタ笑いながら馬車の方に移動する黒いの。

 どうやら非常に機嫌がいいらしい。理由は不明だが。


「おい、勝手に食料とかに手をつけるなよ?」


 ケタケタ笑いながら頷く黒いの。信用ならない。

 そのまま黒いのは俺の体から完全に出ていき、密集。霧が実体を得るかのように黒が濃くなっていく。その黒いのはみっちりと集まりある動物の形をとった。

 逞しい足にふさふさの尻尾。歩いた後には蹄の跡が残る。

 そう、その姿はまさしく馬だった。


「お、お前そんな事出来たのか?」


 ニタニタ。

 うん、それでもお前はお前だな。馬になってもその笑い方は変わらない。後気になることが一つ。その角、何?

 ケタケタ。

 OK、バカにしてるのがよく分かった。コミュニケーションとるのが上手だね?


「ったく、ホントお前は何なんだ。謎の生物の代表格だぞ、今のところ」


 もう一度ケタケタ笑う黒いの。

 見かけは聖なる獣、ユニコーンに似ているものの姿も中身も真っ黒なユニコーンモドキは馬車の荷台を引こうと自分に固定具を取り付ける。


「……いやいや、なんか普通に取り付けてるけどおかしいから! お前手とかないよな!?」


 ニヤニヤ笑う。

 むかっときた。

 そのまま黒いのは荷台を引き始める。


「な、テメ、ちょっと待てや!」


 野郎、俺の事を置いていく気満々だ。


「上等だコラァァァ!」


 俺は全力で黒いのと荷台を追いかけた。












 そして三日後、たどり着いた煌びやかな街。

 結局俺は追いつけず、情けなくも『惨劇必殺』をチラつかせて止まらせ乗り込んだ。すると黒いの、運転が荒いのなんの。恐らくワザとなのだろうが砂利道通ったりでこぼこ道を選んで進んだり。

 ホントなんなのだろうかこの黒いのは。まぁ乗せてもらってると考えれば我慢できなくはないのでいいのだが、お前も俺の体を宿にしてんの忘れんなよ?

 それと、この三日の間で分かったことだが、この黒いのは俺の体を宿にして使っているようだ。どうも命令権は俺のあるようなのだが、黒いのはその命令を捻るように受け止めるものだから上手くいかない。

 例えば休憩する、と言えば俺だけ降ろして先に進もうとする。俺だけ休憩する、と取ったのだろう。とまあこんな感じで上手くいかない。というか馬鹿にされてる。

 それともう一つこの黒いの、実は大した力はなく、何かの残滓であることが分かった。どうも体積が元と比べるとかなり小さくなっている。


「よし、俺の中に戻って、俺の許可があるまで待機」


 すると黒いの、渋々と俺の体に帰っていく。残される積荷と俺。

 ちなみに今俺がいる場所は換金屋の前である。この世界はセキュリティーが甘いらしく、黒い馬に荷物引かせて門を通っても珍しげに見られるだけだった。その時、門番に言葉がちゃんと翻訳されるかを試しつつ換金屋の場所を聞いたのだ。

 

「よっと、これとこれ、後これも換えとくか」

 

 適当に選んだ宝石を持って中に入ろうとして、ふと思い出した。


「……俺、金の単位分からないじゃん」


 下手すると足元見られかねない。

 こうなるとどうすれば良いのかわからなくなる。幸い、お金の方もあるにはあるので其方で当面は凌ぐしかない。まぁ市場にでも行って他の人が使っているのを見て覚えればいいだろう。

 後は井戸端会議。おばちゃん達の会話にさりげなく混ざっていい換金屋の場所とかの情報を仕入れる。あのコミュに入るのは大変だが、入れればかなり生活が楽になるだろう。

 取り敢えず、荷台の中に荷物を戻しこの後どうするかを考える。移動するにしても黒いの呼び出さないといけないし何かと面倒だ。そこで俺は、良く分からない道具に手をつけた。


「この指輪は……宝石が嵌ってる訳でもないし……」


 兎に角つけてみよう。指輪を指に嵌める。するとどうだろうか、持っていた道具達が軽くなる。否、俺の筋力が増加していた。


「なるほど、力補正のアクセサリーみたいなもんか。んじゃあ次は……この虫眼鏡」


 それを翳し、適当に物を観察する。

 最初は何も起こらなかったのでガッカリしていたのだが、徐々に変化が現れる。そこに写っていた物の上に文字が浮かび上がっていた。今俺が見ていたのは馬車なので《馬車》と表示されている。これは名前を知ることが出来る虫眼鏡のようだ。


「これはアレか、魔道具ってやつか」


 面白い。他のやつも確かめよう。そう思ったとき、外から怒鳴り声が聞こえてきた。


「こんなトコに止めてんじゃねぇよ! 邪魔だ邪魔だ!」


「す、すみません! 今退けます!」


 とは言ったもののどうしようか。ここで黒いの呼び出して馬に変える? いやダメだろう。幾らこの世界に魔法的なものが溢れていてもこの黒いのは不味い。明らかにおかしいからな。

 となると、俺がこの大量の荷物を持って移動する。いやこれも無理だろう。


(だぁぁぁ! どうする俺!)


 頭を抱えるがいい案は浮かばない。いっそ惨劇必殺で吹き飛ば―――――って、物騒すぎる。すると、黒い靄が俺の制服のポケットから漏れ出し始める。


「……おい、出てくるなよ黒いの」


 それでもポケットが少し開き、中から二つの目がこちらを覗く。まぁ目を言っても黒い靄の中に白い穴が二つ空いているだけなんだが。

 俺はポケットを閉じようと虫眼鏡を持ったまま抑える。すると黒いの、俺の手から虫眼鏡を奪い取りポケットの中に帰っていった。


「おい!?」


 ざけんな! とポケットに手を入れる。

 中を漁り虫眼鏡を探す()


「……ん? 探す?」


 おかしい。制服のポケットって物を探す様なスペースはないはずだ。

 俺はまさかと思い近くにあった宝石の箱、余裕で一メートル近くある箱をポケットに近づける。すると宝石の箱は吸い込まれるようにポケットの中に入り姿を消す。

 そのままもう一度手をいれ、今さっき消えた宝石の箱を探す。コツンと何かが手にあたる。それを掴み引き上げる。


「よっと……って、あの虫眼鏡か?」


 出てきたのは虫眼鏡だった。もう一度手を突っ込みポケットを漁ると、またしても手が何かに当たる。それを掴み、引き出すと明らかにポケットよりデカイさっきの箱が飛び出てきた。


「黒いの、お前……」


 ヒョコッとポケットの中から覗く二つの目すると口も浮き上がりニタリと笑う。

 それに俺もニタリと笑う事で応じる。


「よくやった黒いの。この能力があれば色々出来る!」


 例えばピーとかピーとかピーとか! 証拠なんて探しても見当たらなくなる。


「ふ、ふふふ、ふははははは―――――はぁ……」


 俺はため息をつきながら荷物をポケットに詰め込んだ。

 











 そして宿。

 前の客が払う硬貨から、一週間でどれだけの硬貨が必要かを調べる。


「二食つきで一週間ですね。合計700セルツになります」


 俺は言われた通り、一枚100セルツと思われる銀貨を七枚出す。


「はい確かに。あらかじめ説明させていただきますと、朝食は午前七時から、夕食は午後六時から摂ることが可能ですのでお忘れないようお願いします。それと、部屋についているシャワーは別料金ですので」


「了解。それじゃあしばらくお世話になります」


 受付のお姉さんに挨拶をして自分の部屋へと向かう。

 俺の部屋は番号的に二階の一番奥。ちゃんと部屋の鍵t番号が同じか確かめてから鍵を差し込み中に入る。

 中は少し狭いが荷台の中よりは全然ましだ。俺はベットに横になり、怒涛の四日を思い返す。


「ホント、なんだかなぁ……」


 異世界召喚と言えば勇者だろう。魔王を倒すために呼ばれた異世界の人間。しかし俺は違うと断言できる。俺には勇者としてのテンプレ能力がないし、召喚されたならばされたで場所がおかしい。

 もし俺が勇者なら、こんな危険な能力はないだろうし、召喚場所が焦土、更にその上空とか有り得ない。下には嫌悪感の塊がいたし。


「なら、なんで俺はこんなトコにいるんだって話か……」


 あの白い空間とスロットマシン。その結果得た紋様各種。

 まったくもって不明瞭なことが多過ぎる。


「ああ、でも、意外と充実してるんだよな、今の生活」


 取り敢えず、今日は寝よう。 

 疲れた。四日ぶりのベットなんだから、ゆっくりと、さ。

 そして俺の意識は段々と沈んでいった。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ