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第一話 空からこんにちは











 気づくと体が動くようになっていた。

 ……ただし空中で。


「なぁぁぁぁんでだァァァァァァ!?」


 ただ落下していく俺。バタバタと手で羽ばたこうとか阿呆な事もしてみたがやはり無理。ふと下に目を向けると、そこにあったのは焦土だった。木は枯れ、土は赤く染まり炎で焦がされ、中央には良く分からない黒い靄がある。

 その靄を見た瞬間、体が凍りつくような感覚に襲われた。

 ヤバイ。黒い靄からは吐き気がしてきそうな嫌な感じがし、寒気がする。そんな嫌悪さえ抱くのに、俺はそこに向かって落ちていく。黒い靄も真上。それが俺の現在地だった。

 まだまだ距離はあるものの、いずれはあの黒い靄に突っ込む事になるのだろう。……というか、その後即地面に激突し赤い華を咲かせることになりそうだ。


「くっそ! どうしろってんだよ!?」


 そもそも、こんな状況にあっている理由が分からない。寝る、起きる、白い部屋で動けない、スロット回転、何か体に入った、穴開く、落ちる←今ここ。

 これで理解できる奴がいる方がおかしい。


「ってか、寒い! 風が強いし寒い!」


 かなりの上空から落下しているためか、とてつもなく寒い。俺は自分の格好を確かめる。

 現在の服装、制服。


「いつの間に!? 俺の寝間着はどこ行った!?」


 なんだか『寝た』はずなのに、その前提が揺らぎつつあるんだが。まさか、誘拐でもされたか? いや、誘拐されてもわざわざ制服に着替えさせられた上スカイダイビングとか……。

 なんてそうこう考えているうちに大分地上が近づいてきた。流石にここまで来るとパニックを飛び越え達観、諦めの境地に入りかけてしまう。ああ、死ぬんだな、俺…………


「…………なぁぁんて諦められるか!」


 必死に生き延びる為の方法を模索する。すでに思考が限界突破寸前。今にも考えることが出来なくなりそうなくらいゴチャゴチャだ。しかし、それでも考える。

 その瞬間、ぼぅと紋様の一つ、翻訳効果のある物が光り首筋に浮かび上がる。


―――分割思考開始―――


『貴方はNo,0です』


No,1 手に入れた紋様の力は?

No,2 無理だ、扇子職人と惨劇必殺でどうこうなるまいよ。

No,3 扇子を広げて鳥の様に!

No,2 貴様はアホか。

No,1 もう一つの赤いのは?

No,3 効果不明。赤だから……爆発?

No,2 自殺願望があるのかね?

No,0 生きたいから考えんだよ!


 ぷつりと紋様が消える。どうやらあの翻訳効果のある紋様は、分割思考まで可能だったらしい。まぁ、ほとんど役に立っていないのがとても痛いが。

 だが、一つだけ希望が見えてきた。そう、No,1の言っていた赤い紋様だ。アレも確かに俺の中に入ってきた。つまり使うことが出来ると言うことだ。もしかしたら、この状況を打開できる効果を持つかもしれない。俺は意識を沈め、赤い紋様へと集中する。そうしていると、頭の中に赤い紋様が浮かび上がり効果が表示される。  


▼▼▼▼▼▼▼▼▼


『×××の紋様』


 現在使用不可


▲▲▲▲▲▲▲▲▲


 終わった……何もかも全て。

 俺が生き残る術が存在しない。ああ、俺の人生終了間近!

 もうダメだな~と諦めきったその時、下から眩い光りが放たれたと同時にウォォォォ! と雄叫びが聞こえてくる。何事!? と再び下に視線を向けると黒い靄に向かって剣を掲げている人々がいた。その人々の中には杖を持つ人もおり、ふわふわと浮かんでいる。 


「これだッ!」


 今は原理とかそんなのどうでもいい。ただ助けてもらえれば後の事は気にしない。

 

―――分割思考開始―――


No,0 誰か妙案プリーズ!

No,1 え、声かければいいんじゃないの?

No,2 No,1に同意。

No,3 敵と視認されて撃たれたりして。

No,0 だぁってろNo,3

No,3 アイアイ


 俺の首筋に浮き出た紋様を頼りに、救援を求めることにした。恐らく、この紋様を使えば異国の人でも言葉も通じるだろう。分割思考、役に立たないなんて言ってすまなかった。


No,1 気にしなーい。

No,2 上手くやれ。

No,3 そーらを自由に、〇っびたっいなー。

No,0 No,3はアウトだ、退室。


―――分割思考終了―――


 分割思考のみを終了し、翻訳の力だけ残して声を張り上げる。


「誰がァァーーー助げでくだざーーーい!?」

 

 勢い良く落下している時に、大きく口を開けたせいだろうか。口に空気が入り込み閉じれない。そのせいではっきりと言葉を放つことが出来なくなっていた。

 ビクッと一番前にいた剣を持つ……女性が俺に気づいてくれた。しかし彼女は目をパチクリと開き、唖然と俺を見ていたが少し逡巡した様子を見せたあと後苦々しい顔をして首を横に振る。

 ……おお? もしかして無理だったり?


「いやいやいやいや! マジで死ぬってコレ!」


 再び訴えるが、彼女と他の人も悔しげな顔で黒い靄を睨む。

 これはアレか? 俺より黒い靄の方が大事って事か?

 おい黒いの。お前のせいで俺、見せられないよ! って看板で隠される羽目になったじゃねぇかどうしてくれる!? そんな意味を込めてギロリと黒い靄を睨むと、黒い靄が動きだし目と口の様なものが出来上がる。

 その目と口は上空の俺を見て、ニタリ、とバカにしたように笑う。


―――分割思考開始―――


No,0 あの黒いの、どうしてくれる?

No,1 取り敢えず痛い目みさせる?

No,2 単純だな。だが、一番効果的か。

No,3 またはやけくそで『惨劇必殺』叩き込む。

No,0 ……それ採用。

No,1 !?

No,2 !?

No,3 !?

No,0 おいNo,3。言った本人なに驚いてやがる。

No,3 俺の体の八割は冗談でできている。

No,0 No,3、お前は十割冗談でできてるよ。


―――分割思考終了―――


 よし、方針は決まった。使えるかも分からない『惨劇必殺』だが、使おうと思う。正直何が起こるのかさっぱり分からない。もしかしたら俺が惨劇的状況に置かれるのか、相手にもたらすのか。または三撃必殺なのかしれない。ちょっと変換ミスっただけなんだよきっと。

 俺は惨劇必殺の紋様を思い浮かべ、発現させる。どうも紋様の使い方は理解できているようだ。これも翻訳効果のオマケだろうか。

 ま、どうでもいいよな。取り敢えず……死ぬ前に一発八つ当たりだコラァ!

 そこ、最低なんて言わないで。バカにした黒いのが悪いんだ。

 後、二百メートル。

 後、百メートル。

 後、五十メートル。

 後、十メートル。

 ガパリと口を開ける黒い靄。何か剣を持った女性達が叫んでいるが上手く聞き取れないので一瞥してから無視。完全にシャットアウトする。目標は黒い靄。使うは拳。なんの武術もやっていない俺だが、拳を突き出す事ぐらいはできる。後は『惨劇必殺』の効果次第。

 後、五メートル。

 これで終わる。意味も分からず死ぬのはご免だったのだが、このいけ好かない黒いのに八つ当たりもかねて一撃入れていけるのなら少しは未練も薄れるだろう。……多分。

 そのまま俺は落下し、黒い靄の口に飲み込まれると同時に紋様が浮かび上がった右手を叩き込む。

 そして、目を突き抜けるような光りでが放たれ、視界が白に染まった。













 眩い光りに当てられ、目を閉じていた俺だが何とか回復してきたあたりで一度目を開ける。感覚的に、背中が地面に着いている感じがするので恐らく生きているのだろう。視界が開け始め、青い空が見えてくる。


「……青い空?」


 つまり、今の俺は仰向けなのだろうか。確か頭から落ちていったので地面に突き刺さるかうつ伏せだと思っていたのだが……

 まぁ地面の感覚と見える空からすればそれ以外にはないか。俺はムクリと体を起こし辺りを見回す。あの黒い靄や剣やら杖やらもった魔法使いみたいな奴らを探すのだが見つからない。というか……


「左右前後地面しか見えないんだけど?」


 更に正確に言えば、その地面は俺を中心とし円になったおり、俺に向かったなだらかに陥没している。

 言ってしまえばクレーターである。……半径三百メートル程の。


「……えー? 位置的には犯人俺っぽいけど、黒い靄って可能性も捨てれないよな?」


―――分割思考開始―――


No,1 犯人は、お前だ!

No,2 犯人はお前だ。

No,3 犯人はお前だッ!

No,0 満場一致!?

No,1 『惨劇必殺』は黒い靄に当たった。

No,2 まぁ一瞬で吹き飛ばしたがな。

No,3 ボヒュッって音と共に黒いの消滅ぅ♪ 辺りの地盤も陥没ぅ♪

No,1 ついでに言えば、黒いのは霧散した後No,0の体の中に……

No,0 おい!?


 聞捨てならないことが幾つか判明した。どうやら分割思考の各擬似人格は俺が分割思考を使っていなくともある程度の情報収集は可能らしい。まぁ俺の視界範囲内か俺を中心に数メートルくらいのものだとは思うが、こうやって視界が奪われたときなんかは重宝しそうだ。

 更に判明したこの惨劇()の犯人。俺の無実を証明してくれる味方はいないらしい。そして惨劇の様子。どうやら俺の一撃は、地盤にまでダメージを入れてしまったらしい。まさに惨劇ッ! アレか、この惨劇必殺はオヤジギャグで三撃必殺と文字が違うのではなく、『惨劇必殺』が間違えでなく正しい答えなのか。

 そして最後、


「……オイ黒いの」


 するとボヒュッと体から黒い霧が発生する。それはぼんやりと形になり、ニタリと笑いかけてくる。


「死ねッ!」


 俺は黒い霧を殴りつけるがすり抜ける。ヤツはケタケタ笑っている。俺はもう一発『惨劇必殺』を叩き込もうと拳を振り上げた。













 

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