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ある日の出来事








 私は旅をする。理由は単純、人探しのため。

 その人は今は噂程度だけれど、いずれどこまでも有名になるだろう男の人。きっと悪魔と呼ばれて怖がられる人。でも、私とホムルは分かってる。彼が悪魔と呼ばれていても、根は優しい不器用な人だと。


「……今は、何処に?」


 私がホムルと共に救われてから約三ヶ月。悪魔さんが残してくれた金貨の御陰で生活が出来るし、騎士団で力を身につけることができた。その御陰で一人旅も許されたし新しい杖まで貰うことができた。

 悪魔さんが私達を救ってくれたその時から、私達の生活、人生は幸せに包まれていた。まるで、不幸を誰かが持って行ってくれたかのように。私達はきっと悪魔さんが代償として持って行ってくれたんだと思ってる。助けてと言う願いを叶えてくれた上で、不幸という代償を持っていく。とても不器用なやり方だと私は思う。

 

「ホムルは……大丈夫、かな?」


 ホムルは男の子だけどとても気が弱い。剣術の才能はあるのに、本領を発揮するまで時間がかかる。その分、追い詰められ逃げることを止めたホムルはとても凄い。

 でも私の場合、遠距離から魔法バンバン撃ち込むから関係がないのだけど。


「………………」


 ホムルは来なかった。彼はあの街で悪魔さんが帰ってくるのを待つと言って、残った。

 反対はしない。むしろ好都合。旅をしている間に悪魔さんが帰ってきたのなら連絡をくれるように言っておけば尚更安心できる。色々と。

 ただ、一つ不安なのが会話が出来るかどうか。私は過去の生活から、会話することが少なくて話すのが苦手。初対面の人と会話しようとすればとてもじゃないがマトモに出来るとは思えない。

 それがほぼ初対面かつ、恩人であれば尚更。


「……でも、きっと大丈夫です」


 見つけたら縛って捕まえておけばその内会話することに慣れるはず。その為の罠や魔法も覚えたし。

 でも、それにはまず本人に出会う必要がある。

 しかし、私はそれに不安は感じない。どうせあの悪魔さん、何処にいても噂になるに違いない。きっとまた不器用に人を救ったりしてるのだろう。それを勘違いされ、そこから逃げ出し、また次の街で同じことの繰り返し。


「それは、あまりに不憫ですね……」


 やはり、早く探し出さないと。

 そう決意しながら、お世話になった街の門をくぐり抜けた。








 一人の少女が旅立ったその頃、騎士団の駐屯所で剣を振るう男の娘がいた。


 



「ふっ、せぁっ!」


 ボクは無心で剣を振るう。一閃、二閃、三閃、そして四――――――――


「っ!」


 剣先がぶれた。無心だったボクの心に、余計なものが混ざった結果だ。


「……いや、余計なんかじゃないよね」


 それは温かいものだ。一種の憧れ、会いたいという想い。本当なら、ボクもネルと一緒に行きたかった。でも、今のボクでは足でまといだし、何より憧れの人に失望されたくないという情けない理由がある。

 ボクは恩人である悪魔さんに見てもらいたい。貴方が助けてくれた少年は、ここまで強く育ちましたよ、と。勘違いされ、街を出ていったあの人に見てもらいたかった。


「それに、もしかしたら帰ってきてくれるかもしれないしね」


 そんな期待をしながら、ボクは再び剣を振るう。

 悪魔さんに褒めてもらえるように、良かったと思ってもらえるように。














「へっくしゅっ! ……なんだ? また誰か俺の噂を?」


 テクテクと均されただけの道を歩きながら、俺は鼻をすする。

 俺の現在地はあの街、何といったか……まぁ初めてたどり着いたあの街ではない。何だか知らないが会う人会う人に怯えられ、指を刺されて「ひっ!? あ、悪魔だ!」と言われ俺の心が砕け散ったのだ。ぶろーくんまいはーと。

 ケタケタ笑う黒いのがポケットから顔を覗かせる。俺はそれを無視して歩き続ける。もう歩き続けて二週間、足が棒になりそうだ。三ヶ月前、あの街を出て気の向くまま歩いていた。最初の一ヶ月はちょくちょくと村に辿り着けたので殆ど野宿はしなかった。二ヶ月目も少し野宿が増えた程度のもの。

 しかし、しかしだ、三ヶ月目は酷かった。先ず村が見つからない。おまけに魔物に襲われ、扇子、または惨劇必殺を使用、それを見られて村への立ち入りを禁じられた事もあった。

 そして今は村を探してさまよう日数が二週間を越えようとしていた。


「ああ、疲れたよ黒いの。出てきて乗せろよ」


 ニタリと笑ってポケットの中に消える黒いの。ホントむかつくねー。

 はあ、とため息をついて空を見上げる。俺が落ちてきた空。その向こうには青が広がるだけ。異世界生活三ヶ月目にして本当に今更なのだが、なんで俺は異世界にいるんだろうか。どんな理由であれ知ってはおきたいものだ。

 そんな事を考えながらポケットに手を突っ込み扇子を取り出す。時刻は丁度太陽が真上にある一番気温が高くなる二時近く、扇いでいないとやってられない。

 だがここで、またしても同じ過ちを繰り返してしまった。


 ヒュパッ!


 そんな音がした。そして次の瞬間、ドサリと何かが倒れる音が。

 恐る恐る後ろを振り返ると…………


「「「あ、兄貴――――――――!?」」」


 なんだか熊の毛皮を被ったゴツイ男が顔を青くして膝をついて震えていた。

 その青い顔には赤い線が何本か走っている。まるで犬猫の髭だ。


「だ、だいじょぶですかい兄貴!」


「兄貴の顔が斬られてる!?」

 

「まさかあの男、兄貴の暗殺技を見抜いうえに障壁まで破ったのか!?」


 おいまて、今暗殺言ったか? え、俺まさか悪魔と呼ばれた挙句暗殺依頼まで発行されちゃったの? ふ、不幸だー! 


「お、おいお前ら、今すぐ逃げるぞ!」


「え、あ、兄貴!?」


「いいから早くしろ! アイツの力と服装みれば分かるだろッ!」


 そう言いながら毛皮の男は俺の事を指さす。いや、正確にはこの制服を。


「あの黒一色に金の装飾! なんで俺は気づかなかったんだ!」


「黒に金? どっかで聞いたよ……う、な?」


「あ、ああ――――――――! ま、まさかアイツ、今噂の「黒い悪魔」!?」


 何だか「黒い」まで追加されたようだ。というかアレか? 俺が悪魔と呼ばれるのはこの黒い制服が原因なのか? そう言えば、今思い出すと黒一色の服を来た人を見たことがない。

 つまり、この世界では黒と金=悪魔が成り立っているんだな。


「……ふ、ふふ、ふはははは! それさえ分かってしまえば、もう悪魔などとは呼ばれんな!」


 テンションが上がる。これで人から避けられる悲しい生活とおさらばできる。これでも一応、人との温かい会話に飢えていたのです。


「わ、笑ってやがる!」


「しかも悪魔などと呼ばれない? 一体なにを?」


 戸惑う毛皮に男と、それを兄貴と慕う男。

 俺は今、貴方達に感謝している。これで一応人として扱ってもらえそうだ!


「なぁ、そこの人達」 


 ビクゥ! と震える男達。

 彼らは錆びたブリキのような音を出しながら首をコチラに動かしてくれる。


「俺は感謝してるんだ。ホント、心の底から。だからお礼がしたい」


「お、お礼?」


「そう。感謝の印だから受け取ってくれ。……そうだな、この指輪なんてどうだ?」


 そう言ってポケットから『力の指輪』を取り出す。


「これは力の指輪と言って、嵌めるだけで筋力がブーストされる」


「筋力がか?」


「そうだ。他には……ん? こんな指輪あったかな……」


 俺が取り出したのは真っ黒な宝石のハマった美しい指輪だった。

 中央に嵌められた宝石は、光りすら飲み込んで黒一色。そしてうっすらと黒い靄が宝石の周りを漂っている。何だろうか、とてもむかつく指輪だ。俺の天敵のような気がする。


「んー、じゃあコレをやる。俺はいらないし。貴方達も要らなければ売っていい。結構高く売れるだろうさ」


 そう言って俺は黒い指輪を放り投げる。

 男達はそれを慌てて受け止め、チラチラを俺を見ながら反対方向へと全力で走っていった。早速街に行って売るのだろうか。というか、俺を殺しに来たのに一目散に帰ったぞあの人たち。


「依頼失敗になりそうだけどいいのか? いや、俺的には万々歳だけどな? ……って、あの人達に道聞けばよかったなー」


 今更後悔するがもう遅い。あの男達は姿が見えない。ああ、くそ、また野宿決定か。

 俺はまた一つため息をつき、歩き始めた。










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