世界でいちばん甘い飲みもの
「王太子殿下!!」
レティシアとルーファスがいちご水を飲んでいる処に、半泣きの女官たちがルーファスめがけて走ってきた。
「ルーファス様! お探ししておりました! 御無事で何よりでございます!」
「あ、ああ、アンナ。よく見つけたな」
ルーファス王太子が大きな瞳を瞠っている。
「さきほど、フェリス様が魔法にて私共にお知らせを下さり……、
フェリス殿下まことに、まことにありがとうございました」
「ポーラ王妃より義母上は厳しいから。ルーファスが危ないことしないように、気にかけてあげて」
「はい、フェリス様。王太子殿下の御姿を見失い、我ら一同、寿命が縮む思いでございました」
「……悪かった」
おお。
魔法って、そういうことも出来るのかー。便利!!
この世界にはまだスマートフォンがないから、離れたところにいる人と連絡とるの、
ちょっと大変なんだよね。
「フェリス様」
「何、レティシア?」
ルーファスと王太子付きの女官達がきゃあきゃあと感動の再会を喜んでるのを横目に見ながら、
レティシアはそっとフェリスに耳打ちする。
「あのね。このいちご水美味しいから、飲みませんか?」
ここを離れる時点では、フェリスとレティシアは二人だったから、
フェリスは二人分の飲み物をとってきてくれた。
いざ戻ってみると、かくれ鬼が始まっていて、甥っ子の王太子がいたので、
当然のごとく、フェリスは飲み物をレティシアとルーファスの二人に与えた。
フェリス様の分がなくなっちゃった……
とレティシアは大変にちいさなことを気にしていた。
こんな華麗な人に、ねーねー、これ、はんぶんこ、どう? とは勧めにくい……
のだが、たりなくなっちゃった……フェリス様の分もいちご水……
と、凄ーく他愛ないことを思っていた。
ほんのついさっき、義母殿と窮鼠真剣一番勝負!をやってたとは思えない、呑気さで。
「レティシアの飲んでるものを、僕に?」
「……あ、あの、私の飲みかけ、汚かったら、ぜんぜん無理しなくてよくて……!!」
わーん!! 恥ずかしい!!
なんかね、なんかね、サリアで、叔父さん一家にレティシアの分だけない、
てのを結構やられたせいか、自分の分だけないの苦手で……。
もちろん、フェリス様は飲み物になんか全然不自由してないし、
あ、それこそ、魔法ですぐ、ぽーん!て取り出せるのかもだけど……。
「ありがとう。僕は、そんなこと言って貰ったの、初めてだ」
フェリス様がまた笑ってる。うん。フェリス様、王子様だからね。それは言われないと思うの。
いいの。また笑われちゃったけど、笑って貰えて何よりなの。
フェリス様の気配が暖かくて何より。
先刻、王太后のところにいたときは、なんか凄まじく冷気が巻いて来てたし……。
このせいで、氷の美貌の王弟殿下なの? て思ったくらいに……。
「甘い」
レティシアからグラスを受け取って、フェリスがいちご水をひとくち飲む。
同じ赤い液体がフェリスが持つと、高級なお酒のように見えるから不思議だ。
「レティシア」
「はい」
よかったー。ちゃんと、半分こできたー。
いや、どっちかっていうと、フェリス様、気を遣って飲んでくれたのでは、だけど……。
「僕は、レティシアと結婚できるのが嬉しいよ」
……いちご水、はんぶんこしたから!?
よくわからないけど、フェリス様がとても幸福そうなので、レティシアも嬉しい。
「……!? 私も、フェリス様と結婚できてうれしいです」
だって、現実的な年齢差はおいといて、だいぶ挙動不審なあやしげな幼女(with雪)にたいして、
こんなに理解のある殿方は、きっとほかにはいないと思うの。
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