マグダレーナ王太后による、ごく私的な御茶会について
皆で悩んだ末に、レティシアのドレスは、
サファイヤのアクセサリーも映える白いドレスになった。
流行の、袖のふんわり膨らんだパフスリーブの白いドレスに腕を通していたら、
サリアで花嫁衣裳の仮縫いをしていたころのことを思い出した。
あの頃は、地の底までも落ち込んでいたので、ただ人形のように着せ替えをしていた。
女の子に生まれて、これほど花嫁衣装にときめかない花嫁もなかなかいまい、と思っていた。
「ようこそいらっしゃいました」
マクダレーナ王太后宮は、フェリス様の宮から最も遠くて、六頭立ての馬車に乗ってきた。
薔薇の庭をフェリス様とお散歩はできなかったけど、馬車の窓から眺めていた。
宮と宮を移動していると、何処ももちろん美しく整えられているが、
確かに、リタやサキの言う通り、フェリス様の宮の花たちがやたら元気である……。
「御招き頂き、大変、光栄に存じます」
このあいだ習ったばかりのディアナ風のお辞儀をする。
うん。ちゃんとできてるはず!
「フェリス様」
「フェリス様が」
「フェリス様とサリアの姫君が」
ざわめきが広がっていく。午後のガーデンパーティ仕立てらしい。
室内よりはまだ気が紛れていいけれど……。
うーん。ごくごく私的な御茶会にしては、
かなりの人数の着飾ったお客様がいらっしゃる(……ちょっと話違わない?)
うう、よかった。フェリス様、一緒に来てくれて……。
さすがに、一人だとこれは心細かった。
「あら可愛らしいお姫様」
「フェリス様と並ぶと愛らしい兄妹のようね」
「あら、あれが、サリアからいらした……ねぇ、サリアって何処にある国……未開の国……?」
そうです。
私がサリアの田舎から出て参りました、サリアの山猿ですよ。
フローレンスでいちばん豊かな国の麗しの王弟殿下の花嫁には、
異論…おありの方がたくさんいそうだな。
「レティシア、義母上に紹介する」
フェリス様が手をとってくれる。ううう、安心。
サリアの実家にも、お兄様も弟もいない一人っ子だから、お父様以外のこういうエスコート初めて。
でもフェリス様の手には安心だけど、なんだかすごく、周囲から、呪うような殺気感じる!
ぎりぎりぎり、なんでこんな小娘が!! てかんじの!
フェリス様……、フェリス様が宮廷では人気ないって思ってるの、
もしかして、この世でフェリス様だけなのでは……?
「義母上にはご機嫌うるわしう。こちらが僕の妃となるレティシアです」
「王太后陛下、お会いできて光栄に存じます」
「レティシア姫、よくぞ参られた。ディアナはいかがかな?
フェリスはたいそう姫を気に入ったそうだが」
王太后様は、前情報をいろいろお聞きしたせいか、どうもラスボス感、感じてしまっていけない。
それに、隣から、美しい無表情のフェリス様の緊張がかすかに伝わってくる……。
「はい。お優しい王太后様が、わたしたちの婚姻を奨めて下さったおかけで、
この世でいちばん優しい夫君にめぐり逢うことができ、私はこの上もなく幸福な娘となりました」
じゃっかんマグダレーナ王太后が引くぐらい、レティシアは満面の笑顔で申し上げる。
未開の国から政略結婚で連れて来られた哀れな幼女などと言わせない。
だって本当に、サリアにいたときより幸せだもん(いろいろおかしなレティシアとフェリス様だけど)
「フェリス様には、私が幼いため、いろいろとご苦労おかけしますが、皆様にいろいろ教えて頂いて、
よきディアナの娘として、竜王陛下の祝福を得たいと思っております」
あああ!
今朝ばたばたしてて、竜王陛下の絵姿にご挨拶忘れたー!
既に日課なのに!
フェリス様、私の部屋にもレーヴェ様の絵をはやくー!
竜王陛下、どうか、守ってくださいね!
王太后様との初顔合わせ、無事に切り抜けて、フェリス様を安心させられますように!!
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