竜王陛下は花嫁をかまいたい
「フェリスんとこの優しい精霊として、オレも頑張って、ちびちゃんお守りしなきゃな」
「あれを……聞いてたんですか。誰が優しい精霊……」
レティシアの善意の誤解を思い出して、フェリスは頭痛がしそうになる。
「間違ってはいないぞ。我が身は水を司るもの。
我が地へ来たりし、我が家系の可愛い花嫁を祝福するもの」
「何かが違う気がします……」
レーヴェが真面目に口上を述べていると、有難そうに見えるからたちが悪い。
「違わないぞ。フェリスを癒してくれて、健気にこの地で暮らしていこうとする歳若き花嫁を
ディアナのよき精霊はお守りするぞ。……ところで、ちびちゃん、なんでかオレに、水色の髪
ご所望みたいだから、水色にしとこうかな?」
言った途端に、レーヴェの黒髪が水色に変化する。
「しかもフェリスと同じ貌だったら、フェリスの愚痴とか言いにくいよな?
何なら可愛めの水の乙女にしとこうか?」
ぽん! と竜王陛下が、可愛らしい水色の髪の若い乙女に化けている。
「何をやってるんですか、レーヴェ!」
フェリスがぎょっとして先祖を見ている。
「変化の術。最近使ったことなかったけど。どうだ?」
衣装はそのままで乙女になっているので、
男もののブラウスから大変豊かな乳房が零れんばかりになっている。
「そんな破廉恥な恰好で、レティシアに近づかないで下さい! お香焚き上げて、駆除しますよ!」
「えー。おもしろそうなのに。ちびちゃん、きっと心細いだろうから、
優しい女友達欲しいかもしれないのに……、しかもオレを祓える香なんぞないし」
「レティシアの友達にそんなお色気いらないでしょ!」
「そうか? もっと涼やかな乙女がいいか?」
ぽん! と音がして、あたりに白い芍薬の花びらが散ると、
レーヴェの姿は物静かな清楚系の水色の髪の乙女に変わっていた。
「さっきよりましですが、どちらにしてもダメです。レティシアに逢うのはダメ!」
「なんでだよ。オレのがフェリスよりいい男だからか?」
つまらーん、と言いながら、レーヴェはもとのフェリスと瓜二つの美貌の青年の姿に戻る。
「ちがいま……」
「おまえね、心が狭すぎだから。
ちびちゃんは純粋な心で、可愛くフェリス様を慕ってくれてるから。
ひーじーさんに心動かしたりしないよ」
「曾祖父どころじゃないじゃないですか!?」
「そんなもん何回、ヒイヒイいれたらいいかわからないくらい、遠いからな」
「ともかくダメです! 大人しくしてて下さい!」
もちろん猫の額よりも狭い心で、
レティシアがレーヴェに惹かれたら嫌だな、というのもあるのだけど。
(何と言っても普段こうして邪険にしてても、レーヴェは大変魅力的な御先祖様なので)
それもあるけど、兄も義母も含め、ディアナ宮廷の誰も知らぬこととはいえ、
フェリスがレーヴェと親しくしてるだけでも、本当は、兄に悪い気がしてるのに、
さらに遠方から来たフェリスの妃までレーヴェと仲良くなってしまったら……と、
果てしなく余計な気も遣ってしまうのだ。
(凡百の私には、竜王陛下の御声は遠い)
と寂しそうな兄を知っているので。
もちろんこんなの完全にフェリスの余計な気遣いで、
優しい兄上にそんな気持ちが届くことはないのだけれど……。
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