竜神様は過保護
「己の気を、勝手に他人の中に入れちゃうのって、治療魔法で許される域なのか、フェリスよ?」
神も魔物もひれ伏すような極上の美貌で、
ディアナの守護神レーヴェが己の子孫をにこにこと見下ろしている。
「それは些か治療の域、超えてないか? 人間の魔法のことはよくわからんが」
「多少、違ったかも知れません。僕は、回復関係、不得意なので」
そっくりな美貌の子孫が、にこりともせず、先祖を見つめ返す。
「おまえはオレによく似てるからなあ。
あれだな、絶対、ちびちゃんが大きくなったら、この過保護竜!! て怒られるぞ」
「……僕がレーヴェに? 似てますか?」
戸惑うようにフェリスは、竜王陛下を見上げる。
「そもそも顔がそっくりだろうに」
「顔は似てますけど、気性は……」
「情が強いところもよく似てるよ。我が眷属は、愛しい者には際限なく甘く、とても弱い」
「レーヴェじゃあるまいし、愛しい者なんて、僕には……」
魔法を覚え始めた小さい頃、フェリスには魔法の才能がとてもあると言われて。
では、魔法の技を磨いて、フェリスは母上を守ってあげたいと思っていた。
だが母は若くして天に招かれ、フェリスは守りたいと思う存在を失ってしまった。
趣味と自己防衛の実益を兼ねて、魔法の修行は続けたけれど、技を極めたところで、
「フェリスは魔法がとても上手なのね。きっと竜王陛下の血ね……」
と無邪気に喜ぶ母の声はなく、空しい気持ちになった。
誰もが「兄のマリウス様よりフェリス様のほうが」とフェリスの才を讃えたが、
幼いフェリス本人にしてみれば、学問も武芸も魔法も、
たとえどんな結果であろうとも、
必ず義母から肯定され、庇われる兄マリウスが正直羨ましかった。
そしてフェリスの役どころは、なんと悪役だ。
大事な可愛い王位後継者マリウスの正当性を脅かす、要らぬ才を持って生まれた弟。
誰にも望まれていないのに。
「まさかのマグダレーナが、フェリスの孤独を埋める娘を召喚しようとはな。
王太后本人は大変に不本意だろうな」
「そんな、ことは……」
「顔、赤くなってるぞ。……まあ、うちは愛情過多な家系だから、本当はフェリスは
ずっと誰かを可愛がりたくて仕方なかったんだよな。無駄に能力も高いし」
「無駄で申し訳ありません」
「拗ねるなって。やっと活かせるだろ? 愛するものをえて。
あのちびちゃん、ここでの存在がまだ不安定だから、無茶させちゃダメだぞ」
「レーヴェ、レティシアが魔法を学ぶことに、何か危険はありますか?」
「いや。マーロウの教える程度の魔法に、危険はないと思うが……、何事も時によるからなあ。
念のために、フェリスの気を分けたんだろう?」
「人の身体はとても脆いので。少しは守りになればと」
レティシアの身体はとても華奢で小さい。
また、死を司る神に奪われるのは、ぜったいに嫌だ。
あんな思いは、もう二度としない。
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