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10万部突破【書籍④巻&COMIC②巻発売中】五歳で、竜の王弟殿下の花嫁になりました  作者: あや


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彼を変えていく姫君について



「可愛いというか、珍しくて、おもしろいのかも……

 私が何か言うと、フェリス様、よく笑い転げて……」


もしかして、聞いてなかったけど、フェリス様、超絶美形の笑い上戸なのではー!?

いえ、フェリス様が楽しそうで何よりですけどー!!


「レティシア様は凄いですよ。すでにこれは、魔法の域です」


リタが大きな花瓶に薔薇を活けてくれながら、何か感じ入っている。


「……魔法?」


レティシアの魔法なら、火を灯せずに、失神してしまって、

褒めて頂けるレベルにはまったく達していないが……。


「フェリス様が、あんなに笑うところ、私、こちらに務めて初めて拝見しました」


「私もですよ、リタ。いつもは静かなこちらの宮が明るくなりましたね」


ね! と二人は楽しそうに盛り上がっている。


「? そうなの? フェリス様、笑い上戸なのでは……」


「それは大変な誤解です。フェリス様は、肖像画の画家に、フェリス殿下、ほんの少しでいいから笑ってください、と拝まれて、男の肖像画なんて、笑ってなくてもべつに問題ないのでは? と応える方です。何事も面倒がってらっしゃるときは、表情筋を極力温存して乗り切ろうとなさいます」


「そうなの?」


じゃあ緊張してるレティシアのために、すごくがんばって表情筋使って下さってるのかな~。

さすがフェリス様。お優しい。レティシアの推しだわ!!

表情筋を省エネしてるフェリス様も、おもしろいから、ちょっと見てみたいけど……。


「あの御顔でフェリス様が無表情でいらっしゃると、本当に神像みたいで本当に近寄り難くて……、

 レティシア様とお話されてると、普通のこの世の方のようで、とても微笑ましいです」


リタが何処か安心したような顔でそう告げる。


「レティシア様、喉が渇かれたときように薔薇水をサイドテーブルにご用意しておきますね」


「わーい、薔薇水好きー」


「まあ、よろしうございました。フェリス様が、レティシア様が好きだから、お持ちしておくようにと」


「フェリス様が?」


最初のアフタヌーンティのとき、好きって言ったの覚えてて下さったんだ。

レティシアも、フェリス様の好みを覚えて、何かプレゼントとかしたいなー。


「では、レティシア様、今夜はおやすみくださいませ。せっかくフェリス様が大切な御方に御自分の御力をお分けしたのに、私共がお喋りで疲れさせてはいけませんから…」


「うん……、あ、はい。ありがとう」


あ、うん、て言っちゃった、と言い直す。張ってた気がちょっと緩んできちゃってるかも。


「うん、でよろしゅうございますよ。ここはレティシア様の私室でございますから。

 すぐには無理だと思いますが、私共にも甘えてくださいね」


サキの言葉に、こくんとレティシアは頷く。

レティシアが緊張していることを、きっとみんなちゃんと知ってる。


「くまちゃーん。なんかね、身体があったかいんだよ。不思議だね」


皆がさがって一人になった寝室で、レティシアはくまのぬいぐるに報告する。


「お父様とお母様が天国に行かれてから、ずーっと身体が冷たかったんだけど、

さっきフェリス様が魔力? をわけてくれて、なんか身体あたたかくなった……

何となく強くなったみたいな気分」


極度に喪失していた気を補充されたのだとは、レティシア本人は与り知らぬこと。

そしてフェリスが与えた気というのは、フェリス自身が竜王陛下から他の王族より色濃く

受け継いでいる純血の竜気である。

異世界の記憶を持つとはいえ、身体はこの世界のごく普通の少女に過ぎないレティシアは、

その最強の竜王の気をほんの少し分け与えられ、確実に強くなっているのである。


「いまも、ここにいないのに、フェリス様、傍にいてくれてるみたいなの…」


レティシアは、安心したようにそう言って目を瞑って、ぎゅっとくまのぬいぐるみを抱きしめた。

夜はいつも怖いけど、今夜は少しだけ怖くない。

(僕の心臓が痛むから、無茶しないで)

そう言ってくれた優しいフェリスの気配が、いまも傍にあるような気がするから。




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