王弟殿下の大事な姫君
「レティシア様。蒼白でいらした頬が薔薇色になりましたよ。
フェリス様に来て頂いてよかったですね」
「はい。とても楽になりました。
でもフェリス様に御心配かけてしまいました…」
フェリスが部屋から退出したのち、
レティシアはサキに身の回りの世話をして貰いながら、ちょっとしょんぼりしている。
顔色はサキの言う通り、意識を失っていた時の紙のような白さから、フェリスの魔力を補充して貰い、
薔薇色に戻った。
マーロウ先生の言葉に従って練習していたら、空間から水を呼び出すことは出来たのだ。
初めての不思議な経験にとても嬉しくなって、調子に乗って今度は火を呼び出そうとしてたら、
立て続けに集中力を使いすぎたのがいけなかったのか、意識がなくなってしまった。
意識を失う寸前、身体から熱量がふっとなくなるような感じだった。
さっき、フェリスには言いそびれたが、気を失う寸前に、
(あらら……、ちびちゃんは、まだちょっと存在が不安定なんだから、あんまり急いじゃダメだよ)
と、例の精霊さんの声を聴いた気がする……。
「心配されるのは当然ですわ。大事な婚約者ですもの」
「う、……」
あんなこの世の誰にも興味ないみたいなクールな外見だけど、
フェリス様は実は物凄く面倒見がいいのかもしれない。
本当に心配して焦ってる声だった。
(僕の心臓が痛むから、無茶はしないで)
誰かにあんなに心配されたの、いつぶり?
いや、前世でも恋人もいなかったレティシアは、
両親以外の他人に、あんなに心配してもらったの、
前世現生の人生二回通しても、もしや初めてなのでは……?
「レティシア様。魔法のお勉強楽しそうでしたが、
魔法は危険なこともたくさんありますので、くれぐれも無茶をしないでくださいね。
私などは、あまり魔法に熱心になられることを、お勧めしたくないほどです。
魔法の鍛錬中に一生治らぬ傷を負ったり、手や足や御命を失う人もいるのですよ」
サキが真面目な顔で言ってくれる。
「はい…。あの…サキさん、
フェリス様が子供の頃、魔法使ってて、塔が壊れたって本当に?」
ナチュラルに、サキさん、あの塔は老朽化してたからちょうどよかったとか言ってたけども……。
塔て、タワーであり、日本でいう高層建築だから、壊れるとだいぶえらいことじゃない?
「私のことは、どうぞ、サキとお呼びください。
……はい。本当に。
フェリス様はいまは穏やかな方ですが、子供の頃は無茶な方でした。
無茶というか、御自分の力を持て余すというか」
「意外、です」
子供の頃から、ずっと、いまみたいに穏やかなフェリス様なのかと思ってた。
「だからレティシア様に、無茶はダメなんてフェリス様が仰ってるのを伺ってると、
ああ、大人になられたなあ、と感慨が……でもちょっとおかしくて」
「フェリス様が、お兄ちゃんになったなーて?」
サキさん的には少年の頃から世話してた坊ちゃんが、
突然、年下の妹ができたようにお兄ちゃんぶってて可愛いのかな?
「それもありますが、人間とは我儘なものだなあ、と。
御自分では無茶しても、大事な姫君には無茶してほしくないんだなと」
「だいじなひめぎみ」
思わず、平仮名で繰り返してしまう。それは偉く昇格しすぎでは。
一昨日会ったばかりの姫君から。
「そうですよ。フェリス様があんな顔なさるの初めて見ました。
レティシア様が心配で仕方ないんですわ。
最近のフェリス様、人間不信極めてらした感があったので、
本当にレティシア様がこちらにいらして下さって、ありがたいです。
まさか、王太后様お奨めの姫様が、こんなに可愛らしい方とは……」
そこは、こんなに可愛らしいより、こんなにおもしろい、が正解な気がする!!
フェリス様、やたら、レティシアのいう事なす事に笑ってる気がするよー!!
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